アンチVCとビジネスモデル


先日、どうにも寝付けないのでeCornerというスタンフォード大学が提供しているアプリのポッドキャストを聞いていた。適当に検索したらRailsを作ったDHHの1時間ぐらいの話があったので聞いてみたら、これが最高に面白かった。

だいたい1時間ぐらいの長さだけど、前回書いた「スモールビジネス対スタートアップ」という記事で紹介した紹介動画の元ネタであった。リーンスタートアップのドンであるスティーブ・ブランクがスタンフォードでしているリーンランチパッドという授業にDHHが講演にきた時の話。

あの短い動画の中でも挑発的な事を言っていたのだけど、最初から全部聞いてみるとあの動画の調子のまんまであった。ひたすらスタートアップのエコシステムを全否定するような感じの事を喋っている。

37Signalsの本でも書いているように、DHHはアンチVCである。簡単に説明すると、「人のお金で新しいビジネス作ろうとしても他人のお金だから適当に使う。結果、新しい事業を創出する上で最も難しく、重要な利益の最大化という部分を後回しに考える。VCのお金を受けるという事は時限爆弾のようなもので、収益化のリスクを先延ばしにする。」と言う事を言っていた。

これは、リーンスタートアップ関連でRunningLeanという素晴らしい本を書いているAshさんの主張と部分的に似ている。あの人も、ユーザがお金を払うかどうかは最も重要でクリティカルな部分なので、一番最初にそのリスクが高い部分を検証するべきだと書いていた。

どちらも、ユーザ数が増えて後からビジネスモデルを探そうという姿勢は博打すぎるから無謀だという主張をしている。僕はこの意見にとても納得できるのだけど、どちらもSaaSが基本のビジネスが専門で、BtoC向けのビジネスではそう上手くいくかは難しいのではないだろうか。

TwitterとかFacebookとか、ネットワーク効果が必要で、BtoCで、課金モデルだと最初からユーザから集まる見込みがなくて、広告モデルしかしっくりくる収益源があまりない場合はどうなんだろう。

ちなみに、ここで言いたいのは収益化の話であって、サービスがウケるかどうかを検証するのはネットワーク効果必要なサービスでも、ある程度最初から検証可能だと思う。

そもそも、お金が余っていて、そのお金を投資にまわして、どれかの新規事業が成功して経済が回るシステムというのもそれなりに合理性があるはずから現在の形ができているはずだ。バブルが弾けるとは言われていても、VCと、それを必要としているスタートアップが存在するのも、どちらにとっても必要性があるだろうし。

というような考えが普通だとは思うのだけど、そういう常識的な考えを真っ向から否定して、教授をしているスティーブ・ブランクも「こいつは二度と呼ばないでおこう」みたいな感じになっているのが笑える。

ちなみに、生活していくお金がないから投資を受けるんだとかっていう意見にたいしてDHHは、それなら今ある仕事を辞めないで、少ない時間を使って少ない時間でできる事から初めてビジネスを作れと言っていた。自分のお金で、自分の貴重な時間を使うから、最小のコストで最大の結果が出るように真剣になるはずだと。

後、投資を受けるのは事業拡大のスピードを必要とするからだという意見の反論も語っている。ユーザー数を増やすスピードを意識して、数年後に事業化の目処が立たないリスクを先延ばしにする行為はスピード以前に時間の浪費だろという感じだった。

そういえばこの前、ショーン・パーカーのインタビューを読んだ。シリコンバレーの投資モデルは欠陥があるからそのうち崩壊すると言った内容だった。

ポイントとしては、投資家のお金をもらったファウンダはIPOよりも最近は事業が買収される可能性のほうが高い。そして、事業買収で投資家に利益が出るなら問題ないのだけど、最近の買収は事業よりも創業者達を大企業に雇う目的の人材買収の目的が高い。

そこで、単純に創業者達がストックオプションとかよい待遇とかで引き抜かれ、事業そのものは潰して終了。創業者は自分の名前も売れて、大企業によい待遇で引き抜かれるけど、投資家はあまり得をしないというケースが増えてきている。

この話を読んでいると、最近起こった金融崩壊の原因である、トレーダー達のモラルハザード問題を思い出した。基本的に人間は自分の利益を最大化するように行動するので、リスクとリターンのバランスが崩れて、リスク過剰に取った方が得になった場合はそうする。

さて、こういう問題が起こると投資する人達が早晩いなくなるんじゃないかと危惧する人もいるかと思うけど、TechCrunsh創業者のマイケル・アリントンがこのトピックについて最近書いていた。

ロン・コンウェイとか著名な投資家が言うには、そもそも、大企業にタレント獲得の目的で買収されるスタートアップは、競争に負けたスタートアップだからあまり気にならないというスタンスらしい。多くの失敗したスタートアップの中で、少数が大成功してIPOしたり、投資家に利益が還元される買収をされれば問題ないので、そこまで重要じゃないと。

なるほど、そういう考え方だから問題ないのかと一瞬思ったけど、絶対に問題だと思っている投資家も多いだろうし、ここらへんは弁護士の書類にまたなんらかの条項が増えるんだろうか。

なんにせよ、これからはますます、最初から収益化を模索するスタートアップが増えて行くのだと思う。

そういうわけで、Lisgoもここ数ヶ月、持続可能なビジネスモデルをなんとかテストしようと頑張っていた。具体的にいうと、毎日使ってくれるファンは最低でも10人以上いたので、無料版出すと同時に、全体の2%ぐらいからだけでも月額課金のモデルが上手くいくかためそうとしていたのである。

現時点でのダウンロード数とかはどうでもよくて、むしろ無制限バージョンになる現在のバージョンは誰も買わない100ドルとかに設定して、しこしこ改良しながらアップルの審査を待っていた。

しかし、残念なことにアップルの審査でリジェクトされた。機能へのサブスクリプションだからという理由らしいけど、WebベースだとOKだったりと、実際の審査の基準は非常に曖昧だ。残念。しょうがないから、他の持続可能な収益源を模索するしかない。

@リンク
DHHのUnlearn Your MBA
http://ecorner.stanford.edu/authorMaterialInfo.html?mid=2334

マイク・アリントンのタレントBuyで買収されるスタートアップに対する記事
http://uncrunched.com/2011/12/05/gowalla-founders-v-gowalla-investors/

ランニング・リーン
http://www.runningleanhq.com/