【書評】マネーロンダリング入門


拷問読書今週1冊目。累計45冊目。タイトルから犯罪指南書みたいでイメージ悪いですが、グローバルな社会で税金のあり方というものを考えられる真面目な本です。本書は「不道徳教育」で、リバタニアンという究極の自由主義について書いた橘玲が作者。

この「不道徳教育」という本は、自分の今までの価値観を根底から揺さぶられるような強烈な本で最高に面白かったのですが、本書「マネーロンダリング入門」も当たりでした。

●スイス系の金融機関の優位性

スイスの金融機関が他国より優位に立っている理由は、その守秘性。スイスがEUに加盟しないのは、租税情報を他国と交換すれば金融立国の基盤が崩壊するからのようです。

このことは、結果的に世界中の犯罪組織の脱税手段として使われることにもつながる。9.11の事件以後には国際世論の圧力もあり、EU移住者の銀行口座に対する源泉課税の代理徴収を余儀なくされています。

結果的に、税金が安いオフショアに資金が流出していくので、スイスの銀行の最大の敵はタックスヘブンとなるオフショア銀行の模様。

●アメリカのテロ対策

現在、世界の基軸通貨はアメリカドル。よって、あらゆる世界の犯罪組織も取引相手がドルを要求するためドル立てで資金を持っている。アメリカ政府がアメリカドルを管理する金融業者に圧力をかけ、気に食わないテロ国家の資金を凍結させることもできる。

しかし、これはなかなか難しい選択。あまりに自国の都合によってドルを凍結しすぎると、犯罪集団はユーロなどの新たな通過に流れ、すぐに新しい世界の基軸通貨が出来上がってしまうと本書では書かれています。

このアメリカの対テロ戦争における大きな矛盾の項目がすごく面白い。アメリカはドルを支配しているが、他国の通過は支配していない。対テロ戦争で勝利するため犯罪組織の資金をドルから切り離せば、膨大な額のマネーがユーロなどの他国通貨に流れ、ドルの崩壊をもたらすと。

一時期アメリカは、北朝鮮のドル立て海外口座を凍結していましたが、簡単に使える方法ではないわけですな。

●今後、富裕層による税金亡命は増え続ける

経済がグローバル化することによって、マネーも企業もどんどん多国籍化してきている。この時、税金を少しでも安くするために、富裕層の人々や企業はどんどん税金の安いところに流れていく。この影響は、財政破綻や年金危機を通じて個々人の生活にまで及んできています。

個人の「多国籍化」、「無国籍化」こそが、グローバル資本主義の終着点なのだと本書には書かれていますが、税金のあり方そのものを変えていかないとこの流れは止まらないような気がしますな。

脱税できない税として消費税がありますが、所得が低いほど負担が大きくなるという問題もありバランスが難しい。まあ、インターネットなどの普及によって経済のあり方が変わっているのだから、税金のあり方もどんどん変わる必要があるなと感じた1冊でした。