【書評】虚妄の成果主義


拷問読書

今週3冊目。累計82冊目。成果主義に対して疑問を唱え、長期的な関係性を築く年功制の利点を訴える内容。

自分は、企業の解雇規制を撤廃して、労働者の流動性をあげた方が社会全体の就業率は高まるといった主張に賛成だったりします。本書は「年功序列型賃金」や「終身雇用」の利点を書いている本なので、どちらかといえば反対の立場の意見をしっかり学べるかなと思いました。

この本で書かれているのは、特に成果主義のデメリット、終身雇用制のメリットといったもの。東京大学の学部教授が書いた本なので、けっこう学術的な実験などの内容に言及してる部分が多く、途中で多少は眠くなる部分もあり。でも、働く理由や終身雇用制度と囚人のジレンマを絡めた話は面白い。



■成果主義は逆に従業員の生産性を下げる

人の評価はあいまいなもので、成果を報酬で評価しようとすると必ず不満が出る。結局、正当に評価されていないと感じた従業員はやる気を失う。特に優秀な社員になればなるほど成果主義に対する不満が高まるらしい。成果に対しては、報酬ではなく面白い仕事、その人のやりたい仕事で報いるべきというのが本書の主張。

このへんはかなり納得。行動経済学の本でも、人は報酬が発生したとたんに自発的だった行動に対してモチベーションが低くなるとありました。実験によると、報酬をもらった時点で人はさぼるという行為を意識しだすらしい。そういう意味で、成果主義には弊害を多く年功賃金制は理想的とのこと。

これは、みんながマジメに仕事をするという性善説に基づいているとは思うのですが、評価を報酬にまったく結びつかないのがよいと断言しているのも思い切っていますな。

報酬は年功制にして、同期で仕事ができる人とできない人がいても報酬での差は一切つけない。その代わり、与えられる仕事の内容で差をつけるといった形。成果に対して給料で多少なりとも差をつけないのはやる気を促進する意味でちょっと無理があるんではないかとも思ったのですが、例外に対しての言及は特になし。

部分的にでも成果主義を採用している企業はいっぱいあるのですが、誰が評価を下すかがもっとも大きな問題。それに対して、ランダムに選ばれた社員たちが評価を下す360度評価制度というのが落としどころではないかと最近は思ったりしています。

ちなみに、面白法人カヤックはサイコロで+アルファの給与を決めている。どうせ人の評価なんてあいまいなんでサイコロで決めてしまうといったぶっ飛んだ思考。



■長期的な関係の重要性

終身雇用制度の利点は従業員同士が助け合う関係性を築けるという点。先輩は後輩に対してじっくり教えるようになるし、会社への帰属意識も高まる。長期的な関係が築きにくく、入れ替わりが激しい会社では社員同士の関係がゼロサムゲームになり協調関係が起こらない。

上記のように終身雇用制度のよさを本書では強調されている。もちろん終身雇用制のメリットは多い。ただ、終身雇用制度を戦略として企業が独自に採用するのはよいとして、政府が解雇を規制するのはいかんと思うわけです。

従業員を解雇しないという方針を合理的な経営判断で行っているならいいのですが、そういう方針が合わない業種や企業もあるはず。終身雇用制度のメリットはたくさんありますが、間違いなく新しい人材を採用するハードルは高まります。

結果的に働く意欲のある人たちが職にあぶれる確率が高まるし、人材の流動性が低くなってそれぞれの人たちがもっとも力を発揮できる職業につける可能性も低くなってしまう。

とまあ、どちらにもメリット、デメリットがあるわけですが、自分が社長になったらどの方針を採用するか考えるとこういう話は面白いような気がする。