「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」は期待外れだった!


著者の橘玲が書いた「不道徳教育」というリバタリアン入門本は、自分が自由主義思想に目覚めるきっかけになったし、「マネーロンダリング入門」も名作だった。前作の「貧乏はお金持ち」では、いかに賢く節税して国からの援助を搾取するかという指南書でこれもよかった。

なので、今作も相当期待して読み始めたんだけど、自分の期待がでかすぎたのか期待外れの本でした!

■本書のテーマは「やってもできない」

最初の自己啓発ブームの考察は面白い。勝間本は「やればできる!」と煽るけど、人は変われないし、そもそもの能力は遺伝的にほぼ決定しているというのが著者の主張。勝間ブームに意をとなえた香山氏との対決の考察はそれなりに面白い。

自己啓発なんて読んでも大抵の人には意味ないっていうのはその通りだし、それを踏まえてどうすれば残酷な市場社会で生きていくかというテーマはそそられる。

でも、人の能力が遺伝的に決定しているという主張の科学的根拠の事例が結構浅い。この考えには科学者の間でもよく対立するトピックで、素質はどの程度まで遺伝するかというのは科学者によって意見はまちまち。

ここは「黒人はなぜ足が速いのか」とか、「非才」とかそっち系の本のほうが、様々な科学者の主張や反論が載っていて面白い。

■途中から普通の市場原理の説明になる

日本独自の自己啓発ブームに対する考察、それでも人間は変われないという前提のお話は結構面白い。さらに、好きを仕事にしても好きを十分なお金儲けにできる人は一部という説明が続く。

ただ、このへんの説明はいろいろな経済書とか、グローバル化社会を論じた本でもよく書かれている、マグレブ型社会とか、オークションの経済学とか、そっちの話なので特に目新しいことがない。

問題は、本書のキモの「自己啓発しても人は変われない。そして、好きを仕事にしてもお金持ちには普通はなれない。じゃあどうすればよいか?」という部分。

このトピックで煽っておいて、幸せは相対的なものだから、お金持ちより自分の好きなニッチコミュニティに認められることを目指し、ロングテールを狙って好きからそこそこの収益を得ようっていうだけの話だった。

まあ、結論はそれしかないよねって話で別によいのですが、それに繋げる市場原理の話とか、フリーミアムの話とか、オープンソースビジネスの話とかがどうも全部知っている事ばかりで目新しさがなかった。

■同じ系統の本を読みすぎると発見がない

たまたまそういう本が好きだから、こういう分野の本ではもう目新しい発見がないのかもしれない。なんというか、行動経済学の本を最初読んだ時は凄い感動したけど、3,4冊目になると同じことが多くなってきて楽しめなくなるといった感じに似ている。

やっぱり、最新の科学書とか、最近起こった出来事を詳細に追った本のほうが面白いかも。そういう意味で「地球最後の日のための種子」、「世紀の空売り」、「facebook」、「facebook effect」(洋書)、とかは最新の時事ストーリーですごく楽しめる。

ちょっと話が飛ぶけど、「会社は誰のものか?」っていう普遍的なテーマでは久保先生の「コーポレートガバナンス」が一番最先端の研究事例も載ってて、冷静で客観的な統計分析に終始してまったく感情論が出なくて面白い。

ちなみに、本のタイトルにリンクを貼るのがめんどくさいのでそのままですが、文章を書きながら本のリンクを連動して自動挿入できるサービスを作りたい。

関連するエントリー
「世紀の空売り」はマイケル・ルイスの最高傑作
【書評】貧乏はお金持ち
【書評】「非才」 才能神話をひっくり返す本
地球最後の日のための種子