【書評】貧乏はお金持ち


拷問読書今週1冊目。累計104冊目。不道徳教育やマネーロンダリングを書いた橘玲の最新作。前作から数年ぶりなので久々の新刊。不道徳教育は究極の自由主義を唱える本だったけど、この人の書く本はほぼ金融関係の本。ちなみに今まで不道徳教育「マネーロンダリング入門」と読んだけれど、どちらも抜群の出来。

本書も発売前から当然のように予約。ワクテカしながら読んだけど、期待どおりおもしろい。本書の内容を簡単にいうと、税金を出来るだけ払わないようにし、あわよくば国家から補助金をもらう。個人で作れる“マイクロ法人”という法人格について解説している。

作者は不道徳教育というリバタニアズムの本を訳しているぐらいだから、もちろん自由主義者。この本のコンセプトも自由に生きるとは素晴らしいというもの。法人格というもうひとつの人格を作り上げ税金をひたすら下げ、国から超低金利で融資を得るような方法まで紹介している。

「会社をつくることによって、個人とは異なるもうひとつの人格(法人格)が手に入る。そうすると、不思議なことが次々と起こるようになる。(中略)まず、収入に対する税負担率が大幅に低くなる。さらには、まとまった資金を無税で運用できるようになる。もっと驚くことに、多額のお金をただ同然の利息で、それも無担保で借りることができる。」

法人は税金対策として有利なのは誰もが知っていることなんですが、その恩恵を個人単位で受ける方法が本書では解説されている。それも、しっかりとした会社を作るとかではなく、ただ書類上は法人格ではあるけれど、実質はただのフリーランサーといったやり方。

フリーランサーの人ならこの本の言うとおりにやればいいだろうし、会社に勤めていても業務委託契約みたいなものを会社と結べば可能な方法。

もちろん、大多数のサラリーマンは会社が認めてくれないので実現は厳しいかもしれない。でも、税金を合法的に払わなくする方法、法人格を使って有利な融資を受けることが実際にできるといった仕組みがあるのは知っているだけでもおもしろいはず。

「貧乏はお金持ち」というタイトルのもとになった考え方は、社会的に優遇されているのはお金持ちではなく、自営業者や農業従事者、中小企業経営者などの社会的弱者であるというもの。彼らは制度がもたらす恩恵を享受でき、本書の狙いはその恩恵を普通のサラリーマンにも応用しようとしている。

橘玲本は、制度のひずみを利用して合法的に得をしようといったものが多い。

「特定のひとにだけ分配された利権は政治的に強く守られているため、容易なことではなくならない。こうした不平等を更正するもっとも効果的な方法は、政治や社会を声高に非難することではなく、より多くのひとが利権にアクセスできるようにすることだ。そうなれば制度そのものが維持できなくなるから、否応なく社会は変わらざるをえない。」

中盤は具体的な節税方法やキャッシュフローの考え方などテクニカルな部分が多いけど、前半だけ読んでもおもしろいはず。閉塞した経済状況で、ただたんに社畜として働き続けても厳しい未来が待っている。この本が言うように、いかに国家を道具として使いこなすかが自由に生きていくための重要な点となってきそう。

まあ、稼ぎぶちがない状態では税金気にしてもしょうがないし、なにもないところからはなにも生まれないので、手に職つけるっていうのが一番重要なんですが!