【書評】イノベーションのジレンマ


拷問読書

今週2冊目。累計75冊目。名書だけあって期待どおりのおもしろさ。イノベーションにおける発想の転換を教えてくれる。顧客の声を聞き、正しい技術革新を推し進めた企業がなぜ失敗するのか?という疑問に初めて答えを提供した本。(らしい)

●持続的イノベーションと破壊的イノベーション

本書のテーマはこの2つの関係。既存製品の顧客の要望を聞き、バージョンアップして良いものを作り出すのが持続的イノベーション。こちらは収益性が確実に見込まれるため企業が採用しやすい。従来の製品とはまったく違った視点で新しい製品を提供するのが破壊的イノベーション。新しい市場のために収益性も将来性も不透明。

ところが、企業が持続的イノベーションによって正しい技術革新を推し進めていると思っていた時に、破壊的イノベーションを採用したライバルに敗れ去ることがよくある。

最近の例でたとえてみると、PS3は持続的イノベーションの製品で、Wiiは破壊的イノベーションの製品だと思う。前者はグラフィックや処理速度を向上させるというユーザーの声を反映した進歩を遂げている。Wiiは製品の性能は劣るけど、PS3が想定していなかった家族層やヨガやダンスなどをしたい一般層を取り込んでいるので破壊的イノベーションの枠に入る。

また、DVD→Blue-rayといった進歩が持続的イノベーションなら、youtubeとかニコニコ動画は破壊的イノベーションになると思う。従来の技術を発達させた製品を提供しながら、他の破壊的な新商品に負けてしまう課程がおもしろい。

ちなみに、僕にとってWiiはライトすぎてまったく満足できないのでPS3にもっと頑張ってほしい。でも、寝ころびながらできるNintendoDSは欲しい。

●存在しない市場は分析できない

破壊的イノベーションが狙うのは新しい市場。新しい市場なので、今までの事例はないし調査もできない。そのため収益予測がたてられずリスクが高い。結果的に慣習が発達した大企業ほど採用しにくい手段になってしまう。

こういった部分を読んでいて思い出したのが、スティーブジョブスの流儀に書いてあった「顧客の声は聞くな」という話。顧客の声を重視しすぎると既存の製品を基準に考えてしまうので、結局はバージョンアップ製品に流れてしまう。本当に欲しい物はそれを見せられるまでわからないことが多い。

「顧客の声を聞くな」という精神は、破壊的イノベーションをわき出させるのに必要な考え方なんだと思う。

●大企業では難しい

収益性が見えず予測が立てられない新規事業を大企業で実現するのは難しい。まず、提案書を出した時に収支予測がないと説得できないんじゃないでしょうか。さらに、そのアイデア自体が自分の会社が持続的にバージョンアップしてきた製品を否定するものであればなおさら。

いっそのこと、大企業で「破壊的イノベーション部」とかいう部署を作ったらどうだろうか。その部署ではひたすら従来とは違った視点の製品を作ることを仕事として、自社企業の製品を否定するようなものを作ってもよいとする。収益性は当たれば儲けものぐらいの意識で、他社の破壊的技術を先に研究しておくという存在意義を持つ部署とか。不況でまっさきにカットされそうですが。