【書評】人を殺すとはどういうことか


拷問読書

今週1冊目。累計74冊目。信念の強さ、恐ろしさがよく分かる本。この本は現在も無期懲役で服役している受刑者が書いている。著者はIQ値が非常に高く、元経営者でもあり元ヤクザでもある。自らが殺人を起こした動機も信念に乗っ取ったもので、その時の状況や心境と、それを後悔して懺悔する模様も描いています。

小さい頃からどんなことにでも興味を持つ著者は、殺人犯のみが収容されている場所でさまざまな殺人犯を観察する。大半の受刑者が自らの犯した殺人に対して何の反省もなく、普通の道徳心が欠如した人々だという感想も本に記しています。

●著者が殺人を犯すまで

著者は小さいころから成績は常に一番でクラスのリーダー格だった。ヤクザ稼業、金融業、不動産業などで年収も億単位稼いでいながら、自ら殺人を起こしたのは著者自身の信念からです。殺人も入念に計画されたもので自分に対して不誠実であった相手を殺したもの。

筆者の信念の強さは強烈でそのことが長所になり仕事でも大成功を収めるが、逆にその性格から殺人を犯すということに抵抗感がなくなってしまったようです。誰に命令されたわけでもなく、望めば部下にやらせることもできた。それでも、自ら殺すのが道理であるという信念に従い殺人を犯します。

著者の強烈な個性と、自らの信念への服従心は恐ろしいものがある。人間は何か理由があれば人殺しも簡単にしてしまうものらしいが、自分の信念が著者自身を動かすというエネルギーの強さがすごい。この信念というものはプラスに働けば最大の長所になり、マイナスに働けば殺人を平気で犯してしまう危険な存在となってしまう。



●著者に大きな影響を与えた父

この強烈な個性を持った著者の人格を形作ったのが、これまた強烈な個性を持つ著者の父です。暴力金融の親玉的存在で、傷害事件を何度も犯した凶暴な人物。約束を守れ、嘘をつくなということを子どもの頃から著者に教え込む。

人格形成には親の影響がもっとも大きいのだと思いますが、本書を読むとそのことがよく分かる。不誠実な対応を見せた債務者を事務所で自ら暴行し、それを小さかった著者に見せる。とにかく約束を守るということの大切さを強烈なすりこみで小学生だった著者に教育します。

この本を読んで感じたのは、子どもの頃の道徳教育の大切さ。でも、それは道徳教育を学校で重視するべきという意味でもない。学校での道徳教育を無意味だとは言わないまでも、ほんの数時間の授業で影響を持たせるのは難しい。

子どもは親の背中を見て育つとよく言いますがそのとおりだと思う。人格形成には他人の影響がとても大きく、特に親の影響は計り知れない。小さい頃の道徳教育は大切ですが、口で説明するのはとても難しい。なにより、口で綺麗なことを言っていながら親が矛盾した行動を取っていては説得力がない。

つまり、親の普段の行動や言動ひとつひとつが積み重なって、子どもへの道徳教育の基盤が形成されていくのではないかと思うわけです。何が正しくて、何が間違っているかなんて子どもに説明するのは難しすぎる。「なぜ人を殺してはいけないか?」という問いに偉い学者さんたちも明確に答えられないわけで、それを論理的に子どもへ説明できる親はまずいない。

子どもの人格形成には親がもっとも影響し、道徳教育には親の言動と行動の積み重ねが大切だという当たり前の結論に達した本でした。