今週2冊目。累計81冊目。間違いなく今月読んだ本で一番面白かった。数学が世の中でどのように使われるかを解説した本としては、「その数学が戦略を決める」という名書があったのですが、本書の面白さは「その数学が~」と同等か、もしくは超えたかもしれない。
日本版を書いた訳者のあとがきなどのレベルが抜群に高いのでその要素が大きい。高度な数式もちょこっとだけ出てきますが、微分方程式もまともに解けない自分が楽しめるぐらいなので、数学知識0でもまったく問題ない。
本書は元々、アメリカのTVシリーズ「Numbers」を元にして書かれた本。「Numbers」は天才数学者チャーリーが数学を駆使して刑事である兄の捜査解決に強力するといったドラマ。アメリカのTVシリーズは予算も俳優の質も、脚本の練り具合も世界でダントツ。一話あたりに1億の予算とか平気なので、日本のドラマとはさすがにスケールが違ってくる。
このドラマでは、実際の統計学者の権威や数学者に監修してもらい、現実に数学が捜査に応用された事件をもとに脚本が作られているらしい。海外ドラマは「プラクティス」を筆頭にいろいろ見るのが好きですが、このドラマはまだ未見。本書を読めば嫌でも興味が出てきたので、GW中に一気に見てみたい。
■社会で役立つ数学の数々
自分が小学校のころの数学のイメージは、「将来まったく役に立たないもの」でした。その結果、数学が大の苦手な文系男になってしまったわけですが、最近はこのことを後悔する毎日。
もっと小さいころに数学の面白さが分かる本書のような本に出会っていれば!と枕をぬらす毎日です。ただ、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」で指摘されていたように、物理でも数学でも、学校の教科書はその知識が実際にどう使われるかをイメージさせない作りになっているのが問題だと思うわけであります。
本書の例でいえば、犯人の位置特定に確率分布を使ったり、指紋照合の限界を追求したりといった分野が特に面白い。中でも、囚人のジレンマを使ってテロリストに自白を説得するパートなんかはゲーム理論の本を読んだあとなら胸躍る楽しさです。
ここでは、爆弾のありかを知っているテロリスト3人を拘束しながら、誰からも自供を得られない状況で数学者のチャーリーが登場する。もちろんテロリスト同士は捕まっても口を割らないことを約束しあっている。
誰も口を割らないという犯人たちの戦略に対して数学者のチャーリーが使った戦法は、犯人それぞれが自白しなかった時のリスクを比較評価するといったもの。それには、それぞれの年齢、前科、シャバでの家族の有無などに基づいて変数を設定する。
リスク評価の数値から、警察に協力しないと一番損をするのはお前だと一番若い犯人に説得を試み成功します。
■レベルの高い訳者あとがき
この本の訳者代表は「その数学が戦略を決める」の訳者も担当した山形浩生さん。「その数学が~」の訳者後書きも面白いけれど6ページ分ほどだった。
この「数学で犯罪を解決する」では20ページ分ほどあり、本書で出てきた「統計分析」、「データマイニング」、「ベイズ確率」、「指紋とDNA鑑定」などそれぞれの分野でお勧めの参考図書を紹介してくれている。
本書で興味を持った内容を掘り下げたい時の指針になるので、すごくありがたい。ここまでレベルの高い訳者あとがきはなかなかない。本書の最初のページにある、「訳者口上」の文章も、本書に対する興味をかりたてる面白いあらすじ紹介。
気になるのでアマゾンで翻訳本を検索したら、「意識を語る」、「人でなしの経済理論」、「戦争の経済学」とか面白そうな本をいろいろ訳していた。この前読んだ「服従の心理」を訳していたのもこの人だったんですな。今気づきました。