【書評】服従実験


拷問読書

今週3冊目。累計79冊目。社会のどこにでも見られる服従という行為。人間が権威に服従する仕組みを解き明かそうと、ハーバード大学教授であり社会心理学者のミルグラムが行った「服従実験」の本。

自分の意志で考えることや権威を疑うことの大切さ、どういった状況で自らの思考が停止してしまうかを考え直すことができるよい本です。

何も知らずに連れてこられた被験者は、実験者の指示で電気イスに縛られている人に電流を流すボタンを押す。驚くべき事に、大半の人達は実験者の指示があれば、目の前に人が止めてくれと苦しんでいても嫌々ながらボタンを押し続けた。

「責任は私がとります。」、「ボタンを押してもらわないと困ります」などの言葉で簡単に人々が権威に服従してしまう。ちなみに、電流は実際に流れてなく、雇われた役者がイスに座って電流に苦しむ演技をしています。

この実験で分かった結論をネタバレしてしまうと、「人の行動を決めるのは、その人がどういう人物かということではなく、その人がどういう状況に置かれるか」ということ。服従するという行為は、その人の人格的な要素が大きいと思われがちですが、実際は違うんですよといったことを様々な実験で裏付けています。

■なぜ服従するのか p168



本書でダントツに面白い部分はここ!人が進化する過程で生存していくには集団でまとまる必要があった。そのため、集団が効率よく働くには、命令するものと服従するものが分けられる組織が必要となる。ということで、服従するのは人間の本能ですよというオチ。

こうなってくると、社会一般的に間違った行為をした人を糾弾する時に、その行為そのものだけを取り出して非難するのは間違っていることになります。その時の時代背景、その人が置かれていた状況をじっくり検証しないといけなくなる。

人を殺すという行為自体も、戦争中なら合法だし、戦争でなくとも正当防衛だと合法。自分に責任がないという状況では、自分の行為の意味を考えることを止めてしまう。

自分は命令されたことを実行しているという状況になった時、命令している権威に対しては責任を感じるのに、権威が命じる行動の中身については責任を感じなくなるそうです。こういったことは日常で自分がしている行動の端々で思い当たるふしがある。

■結局どうすればいいのか?

さて、権威に盲目的に従うことはいかんとは分かっていても、どうすればいいんでしょうか。自分が思うに、自分で決めるならこうするけど、今は権威に逆らうと面倒になるので言われたとおりにやっておこうというパターンが一番多いと思う。

例えば、サラ金の取り立てをしている人は、これ以上相手を追い込むと自殺するかもしれないと思いつつも上司の命令を優先するという状況は多くあるはず。上司に逆らうと自分の立場が悪くなるし、なにより仕事だと割り切って行動すると良心が痛まず服従状態になることができる。

「服従実験」を受けた被験者たちは、大半がこの実験を受けることによって人生観が大きく変わったとか、これからは権威に服従しないように自らの意志を大切にするようにすると書いています。

ただ、そういう部分を読んでいると、「イヤイヤそれは無理だろう」と考えてしまう。今は自分の意志をつらぬく大切さを感じたとしても、権威に従うのが圧倒的に不利になる状態に遭遇すれば結局は逆らえず服従状態になっちゃうはず。

そもそも本書の結論は、「人が服従してしまうとき、人格的な要素は大きくなくてその人が置かれている状況によるものが大きい」でした。となると、結論は「自分の良心とは異なる状況で、権威への服従状態が発生するような状況から出来るかぎり遠ざかる」となるのではないかと思うわけです。

例えば、自分の良心に反することをしなければならない仕事は避けるとか、命令されないけど責任は全部自分で負うフリーランサーになるとか。

ちょっと本の主旨と大幅にずれている気もしますが、できるだけ服従しない人生は大変ですな。。