果ての国と月並みの国と、スタートアップのスケール




“ブラックスワン”で有名なタレブが今月、短い論文を発表したみたい。で、それを読んだ金融業界の人が「The secret to success in the arts」というブログを書いていて、これがなかなか面白かった。


ちなみに、タレブは逆ばりにかける金融屋であり、不確実性の専門家であり、哲学者であったりします。”まぐれ”という、投資家がいかに運を実力と勘違いするかを書いた本の後に、“ブラックスワン”という本を出してこれも世界的なヒットとなったんですな。


僕は数学はてんでダメだが、経済学とか社会学とかで数式がそんなにでない本は好きで、面白いなあと思っていろいろ読むのだけど、タレブの”ブラックスワン”は生涯のベスト3に入るぐらい傑作であります。


どういう本かと簡単に紹介すると、「芸術家とか、投資家とか、大金持ちの経営者とかはの大成功事例は、多くの要素が運だ。ついでに統計学者や経済学者は基本的に全員バカでリスクの事をなんもわかってない。」っていう主張をこれでもかと説明しまくる本です。


ちなみに、ネットスケープを共同創業したマークアンドリーセンも、「ブラックスワンは全てのアントレプレナーが読むべき必読書だぜ!」みたいな事を興奮して言ってたりしたので、スタートアップに興味がある人も読むと面白いかもしれない。


タレブの次回作は”tinkering”っていうイノベーションがいかに起こるかという題材の本でずっと楽しみにしてるんだけど、いつ出るんだよ、まじで!


あと、タレブは著作の中では死ぬほど攻撃的なんだけど、どっかの大学で講義しているのを動画で見た時は、結構やさしそうな感じの喋り方で丁寧に話してた。

このへんでタレブの紹介を終わる。


さて、この元ネタの金融業界のブログ主は、「金融業界はプレイヤーが増えすぎて、運の要素がどんどん増えているので、仕事にするのはお勧めできない」という、一見いつもの調子で書いてるタレブの論文を、芸術家にあてはめて書いている。



“ヘッジファンドとかの業界の投資家の成功の多くは運だけど、もし失敗してもいい給料もらえるから、そんなに悪くないですよね。”


“だから、タレブの論文を読んだ後に、一番お勧めできないと思った仕事は、金融業界ではなくクリエイティブな業界、芸術家だ。”


“小さなオッズにかけて、これほど多くの人数が成功を目指している業界は他に考えつかない。”


“だから、もしあなたが芸術家への道を目指しているなら、何かを作り出している行為そのものが報酬でなければならない。なぜなら、世間に認められる可能性は非常に低く、もし成功したとしても、それは実力ではなく運だから”



こんな感じで、ブログは終わっていて、コメント欄も読むと、「いやいや、金融業界でやってくのも簡単じゃないよ」とか、「クリエイティブな仕事が運だけじゃなくて、努力や継続力だよ」とか、まあいろいろみんな書いてる。


さて、このへんでようやく、僕が適当に思った事を書いていく。



こういうのは、ブログの内容と関係ある事を書くかどうかが重要じゃなくて、まったく的外れな内容でも、何かを読んで、それがきっかけで何かを思ったっていうのが重要なんですよね。



作り上げる過程が報酬


ジョブズも従業員を奴隷のように働かせるために使ってたけど、”何かを作り出す行為そのものが報酬と思えるような事”っていうのは、本当に重要なんではないだろうか。


というのも、Webサービスとか、アプリとかで一発ドカンと当ててやるぜって思ったとしても、基本はこつこつとコード書いたり、地味な行為が延々と続くわりには、TwitterのAPI規約変更で数ヶ月の努力が泡になったりと、あんまりセクシーな事は起こらないわけですよ。


なので、作り上げている行為自体が楽しすぎるので、ぶっちゃけスケールするかどうか、キャズムを超えるかどうかの部分は運が大きいから、もちろん狙うけど成功確率は高くないと考えておこう。ぐらいが正しいのかもしれませんな。


会社勤めとかフリーランスとかして安定収入を確保しながら、余った時間を作って作るとか。



でも、ところがどっこい。人間誰でも、自分だけは違うと考えるもので、それが逆に継続的な努力を後押しするパワーにもなって、それはそれでいいとは思っております。そういう人間の性質があるからこそ、経済が発展するわけだし。



果ての国と月並みの国と、スタートアップのスケール



タレブはブラックスワンで果ての国と月並みの国の説明をしている。適当に検索したらこんな解説があった。


果ての国と月並みの国


役者の世界で言うと、劇団員での仕事は月並みの国で収入は予想しやすいけど限界がある。映画スターが果ての国で、確率は非常に小さいけど、当たるとでかい。


この話をよくスタートアップ界隈で聞く、”このサービスはスケールするか”っていう話に当てはめられるのではないかと思った。


つまり、スケールするかどうかっていうのは、果ての国の出来事だから、出来る限り月並みに国で運用できる範囲までターゲットや市場を絞り、果ての国で起こること(スケール)のマージンも確保しておくという感じ。


ポールグレアムは最初は自分専用のTODOリストとか、本当に小さな問題を解くサービスを作るのがよい方法だと言ってる。


ただ、人間誰もがスケールしないサービスはやる気がなくなるもんで、世界を変えるようなサービスを考えるあまり、誰でも喜びそうな幅の広いサービスを初めて、誰にも刺さらないサービスになってしまう。


つまり、ターゲットを絞れば絞るほど、ニッチな感じになっていき、具体的にイメージはしやすいけれども、こじんまりとした感じが漂い、スケール感がなくなり、最初にターゲットを絞るのを顕著してしまうというのがありがちだと思う。


僕も、Lisgoの最初のバージョンは、いろんな人が使えるようにブラウザをまず付けたんだけど、大失敗であった。


何を書こうとしていたのか忘れてしまったけれど、まあ、月並みの国から初めて、果ての国に行けるかどうか、キャズムを超えるか、さあこれからスケールするかどうかっていう所は、大部分を運が左右するという前提で進めればいいのかなと。



ついでに言うと、タレブが著作で薦める戦略はバーベル戦略だ。


バーベル戦略を簡単に説明すると、ポートフォリオ上のメインは大きな変動がない月並みに国に入るものを組み込み、一部を果ての国に入るもの、つまり確率は凄く低いけど当たればでかいレベレッジの効くもので一攫千金を狙うというもの。


まあ、これを参考にすると超安定志向になって凄いつまらないかもしれないんだけど。


ちなみに、投資を受けるのは、ドワンゴ会長が言うように製品開発とはまた違うゲームだと思うので、いかに果ての国に行きますと言えるかどうかだと思う。口では果ての国の行くと言いつつ、ターゲットを絞るのは難しくなりそうだけど。


でも、最近はスタートアップのタレントバイが流行ってる。金融業界みたいにリスクとったほうが起業家にとってはお得だというリスクとリターンのバランスが若干歪んでる状況もあるらしく、バブルのうちは投資受けてガツガツ行くというのもある意味合理的だったりもしてるようです。


というような、反対の事を思いついたけど、最近はカウンターストライクの新作が出て、それが面白いから、このへんで書くのをやめてゲームをしようと思いました。


いやあ、好きな事だけすればいいとかいう考えもあるけど、ゲームはめちゃくちゃ面白いからずっとやってたら廃人なってしまうから、まずいと思う!