【書評】嘘とだましの心理学―戦略的なだましからあたたかい嘘まで


拷問読書

今週3冊目。累計88冊目。タイトルに釣られて購入したら、えらく学術的な本で読むのに苦労した。内容も重厚ながらとにかく守備範囲が広い。大学教授が書いた本で、心理学の授業の教科書とかに使われているんだと思う。

悪徳勧誘の嘘から、小児癌の告知をしない嘘、司法場面における嘘、動物の嘘、嘘がつけるようになる年齢、精神病患者の嘘、嘘をついた時の人体反応、犯罪捜査における嘘発見、嘘をついた時の脳内メカニズムなどなど、ありとあらゆる視点から嘘を研究している。

人それぞれ興味を持つ嘘の視点は違うだろうけど、自分が一番おもしろかったのは犯罪捜査における嘘発見方法の章でした。

■犯罪捜査における嘘発見

有名なポリグラフ検査法。嘘発見器をつけられて、針の振れ幅を見て嘘をついているかどうか見るというやつです。海外ドラマの24ではよく出てきました。しかし、このポリグラフ検査法にも様々なやり方があり、それぞれ欠点もある。

①対象質問法

「あなたは強盗に入りましたか」などの事件に関係のある質問と、「今日は何曜日ですか」など関係のない質問を被験者に対して行い、それに対する生理反応の強度を測る。

これはオーソドックスなやりかたで、よく知られているやり方ですね。でも、これにも原理的な問題がある。事件と関係のない質問であっても自分にとって思い入れの強い質問内容なら嘘発見器の針に大きく反応して、ジャックバウアーみたいな捜査官に拷問されちゃうという事態に陥る危険性が高い。

②裁決質問法

こちらは事件に関与した者でなければ知り得ない事を質問事項にいれる。また、同じような系統の質問で、事件と関係のない質問も混ぜる。

例えば、バッグが盗まれて中には銀行の通帳が入っていたとする。

容疑者に対して、

1.商品券が入っていましたか

2.キャッシュカードが入っていましたか

3.通帳が入っていましたか

4.クレジットカードが入っていましたか

などの質問を投げかける。この中では、3番以外は非裁決質問であり、裁決質問である3番への反応が強い容疑者は怪しいとなる。

実際に日本で裁決質問法が使われ、盗まれたバッグが見つかった事例の話がおもしろい。その事件では、まず上記の採決質問法で怪しい容疑者を絞り出し、次に探索質問法という手法を使う。

1.バッグはこの地図のA付近にありますか

2.バッグはこの地図のB付近にありますか

3.バッグはこの地図のC付近にありますか

のように容疑者に探索質問法と手法を使い、容疑者のポリグラフ反応があった地図の場所を捜査するとバッグが発見されたというもの。

■本書でおもしろい部分

犯罪捜査における嘘発見の章は文句なしにおもしろい。この章だけでも読む価値あり。逆に、嘘をついた時の脳のメカニズムは医療的すぎてついていけない。。

もちろん、嘘は表情に表れるか?という一般人が一番知りたがる話も学術的な観点から説明されていて、こういった部分も楽しい。

研究によると人間の顔の左側は公的な顔であり、右側は私的な顔らしい。人が嘘をついたり、自分の意志と違うことを話さなければならない時は、顔の左側にその症状が強く表れるようです。アナウンサーが引きつったような顔で笑っている時は、社交的な笑いを表出したものだそうな。

この本では小児癌の子どもに対する心遣いのある嘘以外、ひたすら研究的な視点で嘘について書かれている。つまり、嘘はいけません、やっぱり正直が一番といったような道徳的な内容は皆無。正直が一番戦略上強いというようなゲーム理論的の話でもなし。

とにかく嘘をひたすら研究しましたっていう本であって、薄っぺらい心理本よりは相当密度が濃いと思う。