【書評】ご冗談でしょう、ファインマンさん


拷問読書 拷問読書

今週3,4冊目。累計66,67冊目。ノーベル賞を受賞した物理学者ファインマンの自叙伝。かなり期待して読み始めましたが期待以上でした。あらゆる分野の人にお勧めできる素晴らしい本。

権威を徹底的に嫌い、つねに愉快なイタズラをたくらむファインマン先生。好奇心の塊のような頭脳を持ち、あらゆる事に興味を持って人生を楽しむ様子が楽しい。催眠術をかけられる助手に立候補する大学時代、研究所で金庫破りの名人になった話、ドラムや絵描きに目覚める話など魅力的なエピソードが盛りだくさん。

もちろん科学の話も出てきますが、難解な数式などは出てこないので文系でも心配なく読める。読み終わると世の中のあらゆる事象に対する好奇心がアップすること間違いなし。

●登場人物もオールスター

ファインマン先生がまだ駆け出しの頃、大学で講義することに。研究テーマが面白いという噂を聞きつけやってきたのが、アインシュタイン、世界で最もかしこい男と呼ばれたノイマン、オッペンハイマーなどのそうそうたる面子。自分が板書して何度も計算しなければ解けない公式を、出席者たちは頭の中ですぐ答えを出してしまう。若き日のファインマン先生が興奮する模様などが描かれています。

●科学の教科書を選定する

専門の物理学者の意見も欲しいということで、教科書の選定委員に選ばれるファインマン先生。ここで先生は教科書の内容に驚愕します。そこは計算する意味を持たないものを計算させ、ただ意味を理解しないまま暗記させるような内容であふれていた。ほぼすべての教科書に対し論理的な説明を持って辛口の採点をする話、接待攻勢をもちかける教科書業者への対応などが面白い。

●科学者の倫理

本書の最後には、ファインマン先生の考える科学者の倫理感の話があります。ここが本書のクライマックスですが、この演説の内容が最高によい。世の中にはびこるエセ科学への批判に始まり、「科学者が自分に正直になることの大切さ」を説いています。

科学者が自分の仮説を立てて実験でそれを検証する。ところが、その実験で自分の仮説と合致する結果が出ると、そこで実験を終えてしまう人が非常に多い。もう一度同じ実験をすると、まったく違った結果が出るかもしれないのにそれを怠る。

「科学的良心、すなわち徹底的な正直さともいうべき科学的な考え方の根本原理。もし実験をする場合、その実験の結果を無効にしてしまうかもしれないことまでも、一つ残らず報告するべきなのです。」

似たような考え方は生物と無生物のあいだ にもあり、そこでは他人の論文を選定している科学者が、他人の研究結果を盗んでしまいがちなシステムの危うさまで言及されていました。

ファインマン先生の、驚く心を失わず、人の目を気にしない生き方は読んでいて痛快です。