【書評】雇用の常識「本当に見えるウソ」


拷問読書今週1冊目。累計110冊目。著者はリクルートで人事制度設計などにかかわり、漫画「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人、海老沢のモデルにもなった人。本を出すのは初めてのようです。

「終身雇用は崩壊した」、「転職率が以前より増えた」などの、世間一般で信じられている俗説の真実を解き明かす本。TVや新聞などで言われていることと正反対の事実がぽんぽんと出てきておもしろい。

この本をペラペラとめくると、いたるところに統計データを元にした数字やグラフが出てくる。それぞれの論拠には統計データの証拠があげられているので、文字だけで語るより大幅に説得力があります。

■ 転職は一般化していない

数字で見ると、ここ十年の転職率は2パーセントほど上昇しただけ。欧米諸国と比べ、日本の転職率は以前低いまま。勤続一年未満の労働人口比率で、日本は実質6%、アメリカは約28%、EUは約17%。

アメリカでは転職を頻繁にするが、気に入った会社があると長居するといった傾向があるらしい。日本は若年期に頻繁に行われ、その後は長期滞在といった形。ちなみに、日本のケースでいえば、転職すれば生涯年収は下がっていく。これは、転職して年収アップ!と転職代理会社が煽っている現状とまったく逆の現象。

■ この本がおもしろいところ

日本型長期雇用のメリットは社員同士が助け合うインセンティブができることであったり、企業が長期的に社員を育てるメリットができたりする。逆に、デメリットは解雇規制により雇用の流動化が硬直して、社会全体で人材の最適配分が進まないといったところ。

企業は解雇規制があるので簡単には新しい人材を雇用できない。よって、採用のハードルも高くなり、転職は簡単にできない状況ができあがる。アルファブロガーの池田信夫先生とかは、解雇規制をゆるめて雇用の流動化をはかりべきだといった主張をよくしている。

この本のおもしろいところは、日本型雇用形態と欧米型雇用形態のどちらも理解しながら、単純に解雇規制をゆるめたら上手くいくわけではないと語っているところ。最後の章にある著者からの提案も複雑だけど、聞いたことあるような提案とはちょいと違っておもしろい。

今の日本では給料が少なくなってもよいから労働時間を減らすという選択が実質ないので、この本で書かれているような提案が少しでも実現すればよいなあという感じであります。