【洋書】The Invisible Gorilla なぜ間違うのか?


The Invisible Gorilla: And Other Ways Our Intuitions Deceive Us

2010年5月に米国で発売。英語の難しさは ★★★☆☆ ぐらい。
専門用語はそれほどでない。

  • 患者の症状が分からない医者を、自信過剰にする仕組み。
  • レイプ被害者が別人を犯人だと確証を持って告発してしまう
  • 脳トレゲームは脳の老化にまったく効果がなかった
  • シミュレーションゲームと仕事の能力は関係がなかった
  • 地図で行き道を訪ねた人が、まったく別人に変っても本人は気づかない。
  • 最初の直感は正しいのウソホント

本書は様々なヒューマンエラーを扱っています。認知科学の分野を分かりやすく書いた本として評判らしい。クーリエジャポンで紹介されたのでさっそく読んでみると、やっぱり面白かった。そのうち日本語訳も出そうな予感。

見えないゴリラ


題名からしてネタバレしている。さすがに引っかかる人はいないと思うのですが、上記のURLでのテストを予備知識がない人が受けるとどうなったか?なんと半分以上の人がゴリラの存在に気づかなかったという実験結果があった。

これが本書のテーマなんですが、まずこの分かりやすい例をバーンと持ってきて興味を引かせるのが上手い。つまり、この本は、人間は想像以上に目の前の事をちゃんと認識してなく、記憶もあいまいで、思い込みが激しいといういろいろな事例を紹介している。

最後まで読むと、「なるほど、確かにいろいろ勘違いしてるし、これからもミスはいっぱいするかも。」と感じて、今まで以上に自分を信じなくなって、誰の言うことも信じれなくなって、周りは全員ウソツキだと思うようになるかもしれません。ちょっと言い過ぎましたが、かなり謙虚になるのは間違いないです。

人間の思い込みとか判断ミスをする仕組みとかは、行動経済学とか認知科学系の本でよく書かれている。それでも、本書が面白いのは最近流行の諸説や、最新の事例を分かりやすく多くの具体例を踏まえて紹介しているところ。

医者が自信過剰になる仕組み

お医者さんは基本的に偉そうです。さらに、なんでも分かっているような態度を示します。そして、自分がいろいろ調べてちょっとでも反論すると、劣化の如く怒り出すお医者さんが少なくありません。

だから、僕はお医者さんは基本的に嫌いなわけです。

でも、この「お医者さんが偉そうになる」という現象には、認知科学から具体的な説明ができるらしいのです。

本書では人間が自分の能力を過大評価するという様々な実験結果を示しています。さらに、医者の場合はもっと複雑。医者は難しい試験を突破したエリートばかり。だから、ただでさえ一般人より遙かに頭がよいと誰もが思っている。

患者が医者はなんでも分かっていると思い込む。さらに、医者は自信なさげなふりでもすると患者に不安感を与えてしまう。患者が医者に期待する状況で、「よく分かりませんなあ。いろいろな医者の意見を聞いて、一番納得いく方法を選ぶのが一番です。」とはなかなか言えない。

実際、海外ドラマ「ハウス」のような医者は現実ではありえないらしいんですね。自分が思うに、ネットが発達した中で一般的な病気を幅広く扱う町医者という存在は近い将来消滅すると思う。

適当な知識を幅広く持つ医者では、自分の症状を必死に調べた患者の突っ込んだ質問にはとても答え切れない。なので、ネットで得られる知識はもちろん知っていて、最新の治療方法を詳しく説明してくれる専門性が求められるはずだと思うわけです。

脳トレゲームで記憶力は向上しない

ニンテンドウDSの「脳トレ」は、昔の友人の名前を思い出せないことに恐怖した大人たちに売れたそうです。今でも、スドクとか、パズルゲームとか、ポーカーとか、いろいろなゲームは脳みそを活性化させるとか言われてます。

ポーカー大会で優秀な成績を収めた人を、金融業界のトレーディング部門がスカウトするという話も聞きました。最近ちょっと麻雀にハマった僕も、「麻雀はいろいろな事を同時に考えるし、統計データも重要だから、頭がよくなるはずだ!」と半分本気で回りに麻雀をさせようと勧めていたわけです。

しかし、なんと、この本によるとこれらは全部、人間の持つ幻想が作り出した産物だったと。なんとまあ。

最新の科学実験によると、特定の分野で上達するには特定の分野の練習を繰り返し反復するしかないらしい。実力というのは、特定分野の反復パターンをどれだけ頭の中に記憶させ、積み重ねたかが一番重要であると。

だから、人の名前を忘れたくなければ人の名前を覚える訓練をするしかない。脳トレやパズルを繰り返すと、もちろん脳トレやパズルの成績は向上する。でも、一般的に脳みその能力が向上するというのは幻想らしいのですね。

これらは、FPSゲームやシミュレーションゲームを対象にした実験も詳しく述べられてます。

うーん、本当だろうか。確かに、この考えかたはこの前読んだ「非才」という本に近いものがある。

ただ、ひとつの成功体験を持つという経験は大きいと思う。だから、ゲームの能力がそのまま使えるわけではないけれど、そのゲームの上級者になるまでにたどった効率的な学習の経験や成功体験は大いに他の分野に応用できるはず。

しかし、ポーカーや麻雀が強いから計算も得意だというのは当てはまらないのは確かに納得できます。結局のところ、大多数の分野で習熟しようと思えば、繰り返しのパターンを数多く覚えて、反射的に行動できるようになるかどうかとなる。

つまり、暗記と反射になるけど、それが本質なんじゃないかなあと最近は思うようになりました。他にもいろいろ面白い事例がたくさんあるけど、長くなるのでこのへんでやめておきます。期待通り面白い本でした。

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