【書評】思いやりはお金に換算できる!?


拷問読書今週のノルマ4冊目。累計42冊目。思いやりといった人の感情や環境保護という倫理的になりがちな事柄、これらの経済的な価値を説明してくれる面白い本。これは環境経済学という新しい分野らしい。

この本の面白いのは「思いやりを持とう」とか「地球を守ろう!」といった通常であれば感情に訴えかけられることに対し、経済的な視点から合理的にそれらの価値を検証しているところです。難しい専門用語もなく、なぜか関西弁が混じる文体で読みやすい。

「思いやりも優しさもその効果をお金に換算してみましょう。意外にも、思いやりのある方法を選んだほうが食えたりしまっせ。利益一筋、冷酷にやるより逆に儲かりまっせ~」

こんな感じのノリの本です。

本書では周りの人間や環境によいと思われるたくさんの事柄をお金という尺度を持って説明しています。ECOとか倫理的な説教が嫌いな人でも、お金という誰にでも分かる尺度を使って説明しているので説得力があるのではないでしょうか。最近流行りのCSR(企業の社会的責任)の考え方にも近い部分があります。

●酔っ払いは経済効果を下げる

有名人を街中で見ると得した気分になる人達が増えて経済効果が上がります。酔っ払いが電車内にいると周りが迷惑して経済効果が下がる。前者が外部経済、後者が外部不経済です。環境経済学ではこの外部経済が増えるように経済モデルを考えます。

他にも、短期的な利益を追求して環境を破壊してしまうと、そのために空気が汚れたり公害が発生して人が住みにくい土地になった時の経済損失は計り知れません。この単純な事柄を感情で訴えるのではなく、お金に換算して理解しやすくするのが環境経済学のよいところだとこの本では書かれています。

この考え方は納得できるものなのですが、自分としては直接のペナルティがないと人間はなかなか動かないと思うのです。経済学的に環境保護を考えるのは持続可能な社会を作る第一歩にはなっても、決め手にはならないのではないかと。

例えば、タバコのポイ捨てをすれば街の景観が失われるので経済的にマイナスです。それを掃除するために掃除屋さんを雇わないといけない。そのお金は税金でまかなわれるので結局は自分達の税金に返ってくる。この流れは理解できてもポイ捨てはなかなか無くなりません。それは直接自分に害が回ってこないからです。

でも、自分の部屋でタバコをポイ捨てする人はいません。これは自分の部屋に捨てると自分が困る。友達の部屋で捨てる人もまずいない。「オイ、コラ」と言われちゃいます。高級レストランで捨てる人もいません。「お客様。。。」となっちゃいます。

自分としては、街の景観維持を民間にまかせて罰金を取るようにするとよいんじゃないかなあと思っています。この考えは、「不道徳教育」という本で書かれていました。ちなみにこの本は恐喝者、悪徳警察官、闇金融といった不道徳な輩を合理的な考えで擁護する最高に面白い本です。

●ボランティアはやめよう

この本で一番面白かった箇所がここです。著者は無理のないものはみんなでやればいいと書いているのでボランティア自体を否定してはいません。でも、ボランティアの人達はやがて息切れし、最後は対価のある活動に移らざるをえないと。

結局は、よかれと思ってしている活動でも長続きするには働いた分の対価をもらうことが大事だと書かれています。つまり、無理してボランティアはしてはいけないと。

まあ、ボランティアをすることによって精神的な満足を得られたり、新しい人と出会えたり、自分の勉強になることだったりするとそれはそれで対価だと思います。でも、最初はそれだけでもよいけど続くかとなるとむずかしい問題。そういう意味でなかなか納得させられました。

ちょっとこの本のテーマとする部分とは違ったことばかり書いてしまいましたが、本書の内容は「持続可能な環境」、「思いやり」といったことの経済的価値を説明する本です。この本を読むと「人の思いやり」などの価値を考え直すことができるので、普段何気なく享受している事のありがたみが実感できます。