グローバリズムが進み、世界でなにが起こっているかよく分かる本。
第一章では世界中で行われているアウトソーシングの現状を紹介。
・客の注文を離れた土地に送信して、処理速度を上げるバーガーチェーン店
・アメリカの会計業務を受注するインドの会社
・企業重役のプレゼン資料を作成するインドの会社
・数学の宿題をオンラインで教えるネット家庭教師
コールセンターの仕事は大変だが、インド国内では倍率が非常に高い仕事だという。
夜に働き、昼間に学校へ行って徐々に生活水準を向上させられるからだ。
本を読むとインドの学生の優秀さとハングリーさがよく分かる。
第二章では世界をフラット化した要因について
なぜ世界がフラット化したかを数々の実例を上げて著者が語る。
IT関連の事例が多いが、ウォールマートの配送システムや低コスト化の秘密なども扱っている。
ウィキペディア、スカイプ、グーグルなど革新的なサービスの紹介もしているが、
これらのことを知っている人にとっては特に目新しい部分はないかもしれない。
パソコンの2000年問題といえば、騒がれたわりにはたいしたことなかったという印象が強い。
しかし、インドにとってみれば独立記念日にしてもいいほど大きな転換期だったらしい。
日付変更にまつわる膨大なプログラミング作業をする必要が生じ、低価格で大量の作業をインドのプログラマー達にアウトソーシングしたからだ。これを機にインドへの外注が加速し、インド国内にいながら様々な知的産業に従事することができるようになったという。
今まではチャンスが極端に少ない状態だったインドや中国の優秀な若者たちが、
世界がフラット化することによってどんどん活躍の場を広げていく。
流れに取り残されないためにはどうすればいいかと、危機感も強く感じさせてくれる。
こうなると誰でも、「自国内の仕事が脅かされる」、「自分たちの賃金がどんどん下がるのでは?」
と悲観的になってしまう。保護貿易が経済的に合理的でなくても、イノベーションを阻害したとしても、自分の仕事となるとどうしても保守的になってしまうというもの。これに対する作者の考えが第4章のあたりから出てくる。この本で一番おもしろい部分はなんといってもここ。
例えば、世界最大の安売り店ウォールマートは低所得者を搾取しているとよく非難される。
低コスト実現のため、従業員の賃金や福祉制度が犠牲にされているからだ。
しかし、食料品などあらゆる品物を低価格で販売するウォールマートは、低所得者層にとって非常に重要な存在にもなっている。
消費者である我々はあらゆる支出を抑えたウォールマート価格を求める。
労働者である我々はできるだけ会社から賃金を多くもらいたい。
今後フラット化が進む中で、どの価値観を残すべきか選択せざるをえないと作者は言う。
作者の主張は単純。
「世界がフラット化しても、壁を設けようとせず、自由貿易の原則を貫くほうがアメリカの国全体として大きな利益が得られる」ということ。
仕事は有限にしかないゼロサムゲームではない。今ある仕事が海外の低所得労働者によって奪われても、イノベーションにより経済が発展すれば新たな仕事が生まれ需要が生み出される。
この論理を説明する例えがすごく分かりやすく、おもしろい。
「昔は大多数が農業を営んでいた。科学の進歩により農業機械が導入され様々な作業が効率化される。
今日、農業に携わる人口の割合はかつての半分以下だ。しかし、自分たちの仕事がなくなるといってイノベーションの流れを受け入れていなければ、人類の生活は豊かになっていただろうか?」
世界がフラット化したのはわかった。さて、これからどうすればいいだろうか?という具体的な話に入っていくところで上巻が終わる。上巻は前知識をつかむための導入部分のようで、下巻こそがこの本の面白い部分だろうと期待させてくれる。