【書評】鈴木敏文の「統計心理学」


セブンイレブン会長、鈴木敏文氏の経営哲学本。セブンイレブンの経営は、アメリカの著名なビジネススクールでもよく教材として取り上げられている。ロジカルシンキングとか問題解決力という言葉が最近はやっている。そういうキャッチーなコピーで読者を釣っているものより、この本は何倍も濃い内容だと思う。
約265ページ。

経営の事例において、物事を客観視する、顧客心理を読む、脱経験的思考、統計データの嘘、心理学の重要さなどいろいろな要素が詰まっている。さらにコンビニ経営での実践を元に書かれているので、難しい言葉抜きで分かりやすい。鈴木氏は経営において経済学より心理学を重要視する。

鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」を読んで、ものすごく良かったので本書を読んだ。内容はかぶっている部分が多いけど、著者によれば統計心理学を先に読むのがよいらしい。ビジネスだけでなく、人生全般に役立つ良書。切り口は経営の実務からだけど、ところどころで前回読んだ「まぐれ」と重なる部分が驚くほど多い。

特に印象に残った部分。

・ノウハウ本は読むな、他店を視察するな

ノウハウ本は過去のもので、その人の過去の成功体験をもとに先入観が植え付けられる。他店を視察するとただの物まねになり、自ら競合することになる。時代は常に変わるわけで、過去の成功体験は未来には役に立たないと切り捨てています。

人間はどうしても過去にうまくいった事を思い出し、苦しい時に頼りがちになる。そうなると新しい発想が生み出されず時代に取り残される。自分で一歩先を予想して、仮説を立て、実際に検証を行うということが重要だと本書では書いている。

仮説、検証の力をつけるには?単純に小さなことをちょこちょこ予想する癖をつけるといいんじゃないだろうかと思った。もちろん適当にではなく、しっかりと理由を考えて論理的に説明できるようにしておく。その時に過去にとらわれないよう常に意識しておくとさらによし。

後から考えるとどうしても後付けバイアス、結果論的な考えから物事を考えてしまう。だから、必ず近い将来、未来のことを題材にする。そうしていると、次には情報の重要さが身にしみてくるんじゃないかと。

・統計データの嘘、社会調査の過半数はゴミ

統計データを見るときは調査対象のサンプリング方法が重要になる。個人調査の答えなんてその場の雰囲気や、置かれている状況や聞かれ方によって180度変わってしまう。この信用度の低いデータが参考にされたり引用されることで、新たなゴミが生まれる。

データにだまされないようにするには、その背景や中身を突き詰めて考えること。その時に鈴木氏は心理学をヒントにするらしい。心理抜きには統計は読み切れないと述べている。

さて、これもためになる考えだけど実践するにはどうしたらいいだろうか?よく言われていることだけど、いろいろなデータを疑う癖をつけるといいはず。「この前占い師が言ってたんだけど」とか、「2ちゃんねるに書いていたんだ」とか言われても「ホントかよ(笑)」と僕でも疑います。しかし、統計的にとか科学的にとか言われると「へー、そうなんだ」となりがち。

ということで信用のおけるようなデータも疑う癖をつける。ただ、人が熱く語っている時に否定しちゃうとあまのじゃくと言われてしまうので、口に出すのは注意したほうがよいかもしれない。

・買い手の合理は売り手の非合理

おにぎりが完売すると売り手は成功だと思う。でも買いたい時に欲しいものが完売で買えないと買い手は不満を持つ。客の立場で考えていると思っていても、無意識に売り手の合理性を混ぜて考えてしまうものらしいです。お客のわがままにどこまで歩調を合わせられるかが大事と書いています。

最高のコンビニを妄想すると、品揃えは完璧、定員はモデル並、自分の好きな曲が常にかかっている、24時間いつでも配達もOK、なおかつ毎日半額セールしてるような店を希望してしまう。お客の希望をすべて実現しようとすれば店はつぶれますね。

お客の立場で考えていることが、本当にそうなのか?勘違いじゃないのか?と考えることが最も重要なんだと思う。その上でどこまで実現できるか、どうすればできるかとあれこれ考える。もし行動に移せなかったとしても、理解しているのと勘違いしているのではまったく違うなと思った。

・先手を打つより変化可能な体質がより重要

先のことを考えるのは重要。でも、新しいことに挑戦するのは先手を打とうとしているのではなくて、時代の変化に遅れないように変化に歩調を合わせている。変化に対応できるためには商売に余裕がいる。つまり利益を出していることだと書かれている。

柔道の石井君も変化に対応できるものが生き残れるって言ってましたね。人類の歴史を見ても変化に対応出来ない種は絶滅してきた。余裕を持つというのは、金銭的な意味であったり、時間でもあったりするんだと思う。今の自分にはどちらもない。。

暇な時間を意識的に作らないと、新しいアイデアや深くあれこれ考えることがなかなかできないと突破するアイデア力に書いてあった。やはり毎日30分ぐらいは何もしないで考える時間を作ろうかと。そういう意味では座禅を組むとか、瞑想するとかも合理的な行動に見えてきた。

本書は固定観念に縛られずに行動するヒントがちりばめられている。どれも具体的で分かりやすい。さらにセブンイレブンという身近なコンビニを題材にしているので、非常にとっつきやすいのもいい。
この本を読んだ後にコンビニに行くと、商品の品揃えや種類、棚の配置とかあらゆる面をいちいちチェックするようになってしまう。