【書評】プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く


プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く

11月 22nd, 2008

21プロパガンダ「だまし」のテクニック、メカニズムがこれでもかと書かれている本。いかにプロは人を説得するか。いかに自分たちは気づかずにその罠にはまるか。そういう事例を事細かに説明し、対処法も書かれている。

いつも読んでいる書評サイト、わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいるでスゴ本認定されていたので、本書を読む前の期待はすごく大きかった。の中でもひときわ大きくボリュームのある本でしたが、まったく裏切られることはない良書でした。

「いかに人は広告、政治宣伝に影響されるか」

それぞれの事例が面白く、でかく分厚い本にもかかわらずどんどん読み進められます。

説得のテクニックがどう使われるか。このメカニズムを知るだけでも十分に価値があるはず。なぜなら、何かを買ったりする前に「ああ、自分は今こういう説得術の技術を使われているんだな」と説得されようとしている自分自身を、もう1人の自分に監視させる土台ができるから。

この本を読んだ後はテレビを見る時も視点が変わり面白い。オバマ氏の演説、不動産業者のテクニック、いろいろな店の定員。この本に出てきた説得技法と一致する事例がたくさん出てきて参考になります。

数々の説得技法の中でも面白かった箇所

・的確な質問

自分が日本の首相だとする。600人が死に至るかもしれない伝染病が発生。2つのプログラムのどちらかを選ぶ状況に立たされた。

1.プログラムAでは200人の命が助かる

2.プログラムBでは600人の命が助かる確率は三分の一、全員死ぬ確率は三分の二

この場合、実験では7割の人が1を選ぶ。

しかし、

1.プログラムAが採用されれば、400人が死ぬ

2.プログラムBが採用されれば、全員助かる確率は三分の一、全員死ぬ確率は三分の二

この場合、実験で7割の人が2を選んだ。

どちらも同じ内容なのに質問の仕方を変えただけで、反応に大きな影響を与えられる。この質問のからくりは「人間はマイナスのイメージを嫌う」ということを利用している。前回読んだ本、いじわるな遺伝子でも出てきた内容だ。

本書の中で紹介される説得法の中には、ある程度受ける側も意識できる内容もある。

例えば、

・繰り返し効果

・比較効果(先に駄目なモノを見せて、その後良いモノを見せると効果が倍増される)

・恐怖に訴える

などなど。どれも効果のある手法だけど、なんとなく狙いは分かりやすい。しかし、負のイメージを利用した説得法、もしくは誘導尋問はなかなか気づきにくいのが重要な点ではないかと。気づきにくい手法だからこそ、その手法を事前に知っておくことの意味が大きい。

重要な点は質問が我々の意志決定の過程を構造すること。何を訪ねるかだけでなく、どのような順番で訪ねるかなども決定や選択に大きな影響を持つようです。

・おとりの力

1.Aのバーガー 栄養価はとても高いが味はまあまあ

2.Bのバーガー 味はとても良いが、栄養価は普通

この場合、1と2は単純に好みで選ばれる。

しかし、ここにおとりをいれることで選択に少なからず影響を与える。

1.Aのバーガー 栄養価はとても高いが味はまあまあ

2.Bのバーガー 味はとても良いが、栄養価は普通

3.Cのバーガー 味は普通程度で、栄養価も普通

この場合、合理的に考えて3は選ばない。しかし、3と2は比べやすい。このため、1よりも2を選ぶ可能性が実験では6.7%増えた。このわずかな差が年間売り上げ数十億の企業における市場所有率だと、何十億円もの効果をもたらす。

このおとりの力を利用したテクニックも意外に見落としがちな罠じゃないでしょうか。

世の中には巧妙な手段を使って、われわれの正確な判断を誤らせる罠がとても多いと本書では指摘している。そのからくりを見破ったり、利用したりするには手法をあらかじめ理解するのが一番。

例えば、今住んでいる家を紹介する時にはエイブルに行きました。この時の営業のAさんがなかなかできる人で、自分に合っている物件を上手く探してくれた。そして、もちろんこの本で書かれているような技術も要所で使われてました。

・比較法

まず欠点の多い物件から案内し、最後に一番希望に合致する物件を見せてきた。また、先に見せた物件は悪い部分を指摘し、最後の物件の価値を高める。値段もまず高めの物件を紹介し、最後の物件の価格への抵抗感を弱めていた。

・希少価値を利用

最後の物件で「いいなあ」と言っていた直後、Aさんが携帯の電話に出る。そして、その物件の予約が今入って、今を逃すと取られてしまうと告げる。

・罪悪感で説得する

いろいろ物件を回ってくれたので、契約しなければならない気持ちにさせる。

・自己イメージをさせる

自分がそこに住んだような気持ちにさせて、その気にさせる。

いずれも分かりやすい方法なので、案内してもらっていた時に感じていた。なので、直接「やっぱり最後に狙いの物件を持ってくるんですよね?」とずばり聞いてみたら、Aさんは「もちろんそうですよ」と笑って教えてくれた。さすがに最後の携帯電話の演技については聞けなかったけど。。

この時、「Aさんのやり方はうまいなあ」と使われている手法をある程度理解はしていました。でも、自分が分かっていようが分かっていまいが、その方法が効果的で最終判断に少なからず影響を与えていたのは間違いない。

ちなみに、僕はアムウェイの勧誘も受けたことがあります。この時も、知り合いになったB君がCさんという人の価値を高め希少価値を上げていました。具体的には、「Cさんというすごい人がいるんだけど、今度会ってくれるっていってるよ?」とB君はCさんを持ち上げていた。

この本には他にもあらゆる説得技法が事細かに紹介され、解説されている。なぜ人々が説得法、プロパガンダに影響を受けるか?それはみんな忙しく、少ない時間で意志決定を迫られるからだと書かれている。制限時間がある中でじっくりと論理的に考える暇はなかなかない。

そのため、直感と論理能力を複合させ判断を下す。そこにつけいるのが説得技法だということ。俺はだまされないよと思っている人も読んでおいて損はない一冊。