【書評】いじわるな遺伝子―SEX、お金、食べ物の誘惑に勝てないわけ


いじわるな遺伝子―SEX、お金、食べ物の誘惑に勝てないわけ

人間の脳についての取り扱い説明書。なぜ欲望に勝てないのか、遺伝子に精神の力で逆らおうとするのは無駄なことだと教えてくれる本。どうしようもないことをどうしようもないことだとまず理解すると、いいアイデアが浮かんでくるかもしれない。

ドーキンスの利己的な遺伝子に代表されるように遺伝子についての良書は多い。でも、遺伝子の仕組みを知った上で、「それではいったいどうすればいいの?」という疑問に答えてくれる本は少ない。この疑問に答え、生きるヒントを明示しているのが本書の利点だと巻末に書かれている。

僕なんかは精神論や道徳論で、「こうするべきだ」と言われてもあまり納得できないタイプ。でも「遺伝的に人間とはそうできているので、こうするのが合理的だ」と言われると非常に説得力があったりする。

・監獄で起きる自殺の半分は投獄された初日に発生する

遺伝的に悲しみは想像以上に早く消えるようにできているらしい。だから、人生に劇的な変化が起きた直後は、大きな決断を避けるのが重要と本書では述べている。監獄で起きる自殺の半分は投獄された初日に発生する、という事実はその事を端的に表している。人間は思っているよりも早く逆境から立ち直るからだ。

前回読んだ「まぐれ」によると、人は不幸を幸福の2倍強く感じると書いていた。つまり一万円拾った時の喜びよりも、一万円落とした時の悲しみのほうがエネルギーが強いということ。これを考えると失敗を恐れがちになるけど、思ったより痛みが早く引くとわかっていれば勇気がわいてくる。

じっくり情報を吟味しリスクを考えてから行動するのはもちろん重要。だけど、行動を起こす勇気がでない時、「人間は予想以上に早く立ち直る」という遺伝的な性質を思い出すとよいかもしれない。

・幸福というレースのゴールラインは移動し続ける

10万貯めると100万欲しくなる。100万貯めると1000万欲しくなる。人類の生活は100年前より遙かに便利になったけど、人類の幸福度の割合は便利になった分ほど増えていない。これは人間の欲望のゴールが際限なく移動し続けるよう、遺伝子に組み込まれているかららしい。この遺伝子は人が進化し、生き延びるために都合がいいからだ。

このため、今の段階で幸せじゃない人は、将来なにかを手に入れても幸せになる確率は低いようだ。

この遺伝的な事実を知ったからといって、夢や希望を諦めるわけにはいかないのは誰でもそうだと思う。ただ、自分たちの体がそうできていると前もって知っておくことこそが重要だろう。

今欲しいものがあっても手に入れればまた別のものがすぐ欲しくなる。こうなることをまず予測して行動を起こすのは大切だ。人間の修正を逆手に取る戦略もふと思いつくかもしれない。

・貸し借りのバランスが崩れると関係が崩れる。

身もふたもない話だがすべての生物の行動は利己的(自分のため)である。利他的(他人のため)な行動だと思われる行動も、実は利己的な行動だと本書では書いている。(もちろんそれだけでは説明しきれない行動も中にはあるけれど)

つまり、どんな時でも自分にとってメリットがあるかどうか遺伝子の力によって判断し、その上で

行動するのが人間の性質らしい。そのため、人間関係において貸し借りのバランスが偏ってしまうと関係が崩れてしまうという。

このことを豊富な事例を用い、えげつないほどリアルにこの本では説明される。例えば、大金を友人に気前よく貸してしまい関係が崩れた例が書かれている。また、人間には借りた恩義は返したくなるという本能があるらしい。そのため、借りを作るのは合理的な行動であると書かれている。

あまり打算的に行動しすぎても鬱になってしまうけど、これが人間の本性だと言われれば納得してしまう。この部分を読んで思うことは、借りた恩義は全力で返す必要があるということ。このへんは直感的に誰でも分かっていることだ。

ただ、人に尽くしすぎるのは危険なのだろうか?確かにいくら信用しているといっても大金を口約束で貸すのはまずい。奉仕しすぎると相手にとって重荷になるかもしれない。しかし、人の命を作ったから関係が崩れたという話はあまり聞かない。

道ばたに落ちている空き缶を拾っても自分へのメリットは想像しにくい。これは自己満足という利己的行動なのだろうか? といろいろと考えさせてくれるのがこの本の一番面白いところ。他にも「異性への魅力を感じる要素は子孫を残そうとする利害と一致する」と書かれている部分など、読みどころがたくさんあり、なおかつ読みやすい。