【書評】サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領


拷問読書 今週の一冊、累計127冊目。

現役のフランス大統領サルコジのおもしろさがよくわかる本。おもしろくて読みやすい。著者はフランス支局で働く朝日新聞の新聞記者。サルコジへの取材を通し、この変な大統領に魅力に取り付かれて本まで書いてしまった。

まず、サルコジは一国の大統領とは思えない言動や行動を繰り返す。暴徒を起こした若者をクズ呼ばわりしたり、テレビの前で人を罵倒したりする。結婚は3回で相手はスーパーモデル。ここまでで十分おもしろいのに、休日の趣味がスポーツ新聞の精読。こんな感じで、ネタとして楽しすぎる大統領なわけです。

じゃあ、なんでこんなメチャクチャな奴が大統領なんだろうと普通は思う。ところが、サルコジの言動や行動は綿密な計算にもとづいている。とにかく自分を演出するストーリーテリングにたけています。

市長時代のサルコジが有名になったエピソードとして、人質犯と自らが交渉を行った話がある。爆弾を持った犯人を説得し、見事人質を解放してヒーローとなる。一歩間違えれば死ぬので普通に凄いサルコジ。でも、交渉前に心理学の専門家と犯人の精神状況を分析していたり、解放後に自分がテレビで目立つためのマスコミをしっかり準備したりと、したたかさにたけているサルコジさんであります。

最近読んだ「アニマルスピリット」の中でも、人間は必ずしも合理的に行動しないため「物語作り」が重要な要素となると書かれていた。そういう意味でサルコジは、自分の物語を演出する才能が突出していそう。

国民の支持を得るための政策立案、普段の行動も計算して行うサルコジ。その裏には、一流のコンサルティング会社であるボストン・コンサルティングのアドバイザーがついているのが驚き。大統領のイメージ戦略に税金が使われているというのも変な話だ。

一歩間違えればヒトラーみたいな独裁者になりそうな人物なので、サルコジ反対派の国民も多い。でも、その分熱狂的なファンも獲得している。全員に好かれるよりも、ある程度の固定ファンを獲得すればよいという手法なのだろうなあと読みながら思いました。