【書評】天才数学者はこう賭ける


拷問読書 今週の一冊、累計128冊目。

パウンドストーンの本でおもしろそうなのはほとんど読んでしまったのですが、この本だけはちゃんと読んでなかった。ということで、久々にパウンドストーン先生の本を読んでみた。個人的にパウンドストーンの最高傑作は最新作の「選挙のパラドクス」だと思っているのですが、この本もおもしろい。

この本では、現代のコンピュータ技術の基礎となる理論を構築した天才数学者、クロード・シャノンにまずスポットライトを当てています。この人は相当な天才数学者であったらしく、もちろんノーベル賞も取っている。

また、ブラックジャックの必勝法である、カード・カウンティング手法を開発したエド・ソープも中盤から登場します。基本はこの2人の天才数学者が、ラスベガスでのギャンブルや株式市場に高度な数式を駆使して挑んでいきます。

株式市場は効率的なので、必勝法などは存在しないという通説に真っ向から挑むクロード・シャノン。ちなみに、効率的株式市場についてはウォール街のランダム・ウォーカーが詳しいです。この本はすごくいい本で、読むと株で一儲けする気がなくなります。なぜかというと、投資家は長期的には市場に勝てないよという理論を説得力ある形で延々と書いているからです。(最近の金融市場では適用できないことも多いらしいけど)

ランダム・ウォーカーの結論はこんな感じ。「投資家は長期的に市場に負けるのだから、自分に優良株を見つける才能があると思うのは間違いである。個人投資家にとって、市場全体と同じ値動きをするインデックス株をちびちびと10年以上買い続けるのがもっともよい戦略である」

まあ、こんな形で効率的市場仮説の学者にとって、株式投資に必勝法は存在しないというのは普遍の事実のようです。もし必勝法などが開発されても、みんながそれをすぐに真似するため、必勝法は即座に使えなくなるという理屈です。

しかし、世界第二位の富豪である投資家バフェットのような例外がいるのも事実。天才数学者クロード・シャノンはケリー基準という手法を使って株式市場で驚異的な成績を残したらしい。

この本の醍醐味は天才的な頭脳を持つ数学者が、必勝法らしきものを駆使して株式市場やラスベガスに打ち勝とうとする過程。ブラックジャックでは確かに必勝法が確立された。でも、株式市場で勝利を手にしたシャノンの手法は意外と地味で、バフェットのようなファンデメンタルを重視した長期投資だったというのがまたおもしろかったりします。

で、この本のなにが最高かというと、天才数学者がその抜群の頭脳をギャンブルという世俗的なことに使いまくっているところ。シャノンはなんの役にも立ちそうにないことの研究にいつもはまっていますと自ら言っている。株だけに限らず、彼の研究室には不思議なオモチャでいっぱいだったらしい。

ソープはギャンブルで大もうけするためラスベガスを渡り歩いて大金を稼ぎまくります。「天体物理を研究しています」とかだったら学者っぽいけれど、金儲けにダイレクトにつながることをひたすら研究している姿勢が最高でありました。

ちなみにソープが開発したブラックジャックの必勝法を使って、MITの天才学生たちが荒稼ぎする「ラスベガスをぶっつぶせ」もおもしろかった。特に、奨学金のために圧迫面接を受けている最初と最後のシーンがいい。

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