【書評】ハイエク 知識社会の自由主義


拷問読書今週のノルマ三冊目。著者はブログ界の暴れん坊である池田信夫先生。経済学者のハイエクのことは前々から興味があったし、アマゾンの評価でも導入本として最適とあったので読んでみた。

この本ではハイエクの思想とはどういうものなのかを勉強できるとともに、ハイエクの思想の変化に対しても言及しています。特に、教科書でよく出てくるケインズとの対立にも焦点を当てているので経済史の勉強にもなる。学生が読んだら、本で読んだ知識をもとに、政治経済や経済学の授業で教わることを否定しまくれる嫌な生徒になれるかもしれません。

また、金融市場の不確実性を扱った「まぐれ」という本の考え方も登場して、ハイエクの考え方との類似点も出てきて面白い。

ちなみにページ数は200ページほどなので、「こりゃすぐに読み終わるな♪」と思ってたら、専門的な内容が多く、ほとんど経済史の教科書みたいな本だというトラップ。無知な自分は読み進めるのに時間がかかった。

当時はケインズほど評価されず悔しい思いをしたハイエク先生ですが、現代社会で起こる経済状況を予言していた部分が多く、近年再評価されているらしい。しかし、予言と聞くとどうも身構えてしまう。どうとでも解釈できる部分を後付けして、マガジンのMMRみたいに「予言は本当だったんだよ!」とか書いてないだろうなと注意しながら読み進めていきました。

長期的にみて市場は合理的に動くので政府の介入を禁止するべきだという、“合理的期待派”とハイエクの違いを述べている部分がここ。

P46

しかしハイエクと合理的期待派の間には、根本的な違いがある。ハイエクは、個人が合理的に行動することも完全な情報を持つこともありえないと考えた。そして、不完全な知識しかもたないがゆえに不確実性をともなう個人の行動をコーディネートするしくみとして市場をとらえた。

高校の時は、「そうか、ニューディール政策で政府が介入したおかげで不況は解消されたんだな。なるほど。」としか思っていなかった。でも、その後、市場原理主義というかリバタニアン的な考え方も知って、「そうか市場は合理的だから市場に任せるほうがいいんだ」とか思ったりもしました。

このことは、ウォール街のランダム・ウォークの市場は合理的に動くという考えとも通じるものがある。でも、人間は必ずしも合理的に動くわけでもないし、みんなが同じ情報を持つわけでもない。

そんな感じで自分の考え方も変化していったんですが、ハイエクさんも当初は政府の介入は少なくするべきだという傾向が強かったらしい。その後、政府の役割の重要性をもう少し強調するようになっていったとこの本では書いている。

多かれ少なかれ、政府が市場にどの程度まで介入するべきかっていうのが経済学者の間で議論が分かれるところなんだろうと思う。たぶん、「ここは政府がするべきだと思うよ、うん」とか、「いや、それは市場に任せないとだめだよ、君。」とか言っているんだろう。

こんな感じで、自分自身もいったいどういう理論がいいんだろうって毎回悩んでいるわけですが、このハイエクの考え方はいまのところ一番しっくりきます。

前回読んだ「囚人のジレンマ」のしっぺ返し戦術について書いているパートも説得力があり面白かった。しっぺ返し戦術とは、悪いことをするとお返しされるので正直が最良の戦略だというもの。

P139

この結果は大きな話題になり、「正直が最善の戦略」の例として、今でもよく引用されるが、これは都市伝説である。この実験は、同じ相手との一対一のゲームを繰り返すという特殊な形で行われたもので、多くの戦略をいっせいに競わせる実験では、無条件に相手を裏切り続ける「邪悪」な戦略が強い。

裏切った相手と二度と会わない大都市で犯罪が増えるのと同じだ。いいかえれば、メンバーの利害が一致しない社会では、進化によって自主的秩序が形成されるという根拠はないのである。

こんなわけで、人間がみな合理的に動くと社会が崩壊してしまう。正直者が馬鹿をみるような社会にしないように、警察や刑務所ができて、秩序を維持するために宗教ができたと。

宗教っていうのは戦争の原因になってばっかりじゃないかと子供の頃は思っていたんですが、最近経済学的な立場からの宗教の誕生の合理性を勉強すると、宗教に対する見方が変わってきました。

確かに、子供にゲーム理論から教えて、「みんなが邪悪な戦略を取ると社会秩序が乱れて、結果的にみんなの利益にならないよ」とか教えても「ハア?」って感じだと思う。

そうなると、「神様の教えに従いなさい」とかいう倫理観を教える道具があったほうが便利で手っ取り早い。

その他にも、著作権の過剰な保護はイノベーションを阻害するという部分の根拠や、ハイエクの考える自由権に対しての説明が特に面白かった。

経済学の理論はその時の時代に一番マッチしているものが評価されるもんなんだろうなとこの本を読んだ後の感想。

現代において否定されているケインズの理論だって当時の世界情勢にはマッチしていた。ハイエクの理論が現代の社会を説明するのに適当だとしても、将来にも安泰だとは限らないなあと思ったしだいであります。