【書評】キャズム


拷問読書今週のノルマ1冊目。累計25冊目。マーケティング関連の本はまだ一冊も読んだことがないのですが、いきなりハイテクマーケティングに特化した有名な本を読んでみました。この本は、海外のビジネススクールでは教科書となっていて、10年以上売れ続けているらしい。

ハイテク製品のマーケティングにおいての落とし穴をキャズムと呼び、そのキャズムを乗り越える知恵を学べる本。ハイテク製品に特化した本だけど、マーケティングの基本はどの分野でもあまり変わらないと思うのでとても勉強になった。

まず、キャズムとは具体的にはなんぞや?って思いながら読み進めましたが、本を読むとすぐに分かります。本書ではハイテク製品の顧客を5種類にまず分けている。

その5つはイノベーター(ハイテクオタク)、アーリーアダプター(ビジョン先行派)、アーリーマジョリティー(価格と品質重視)、レイトマジョリティー(みんな使っているから派)、ラガード(ハイテク嫌い)。

ハイテク製品のマーケティングにおいて、どの顧客層にどのタイミングで売り出していくかの重要性が本書ではかなり詳しく書かれている。例えば、製品売り出しの初期段階ではまずイノベーターに的を絞り、次にアーリーアダプターに受け入れられるように力をいれるというようなもの。

つまり、ハイテク製品の売り上げが伸び悩むパターンは、ある顧客層から別の趣向を持つ顧客層に製品をスムーズに受け入れてもらえない場合がほとんどだというもの。(キャズムを超えられない製品)

例えば、電子ブックという新しい製品があるとする。ハイテク好きのイノベーターは新しいもの好きなので、扱いが多少難しく価格が高くても買ってくれる。イノベーターが注目した製品に心引かれたアーリーアダプターは、将来性を期待して購入する。

ただし、この後に続く顧客層であるアーリーマジョリティーは何よりも価格と品質を重視するため、その製品が具体的に自分の生産性向上に直接役立たなければ購入してくれない。この後の、レイトマジョリティーはその製品が業界標準となっていなければ購入しない。

こんな感じである顧客層に受け入れられた後でも、次の段階に進むにはまったく別の顧客層に受け入れられる必要がある。そのため、そのキャズムを超えるには今までと違うマーケティングをそのたびに実践する必要があると書かれています。

P18

このプロセスを進めていく際、それぞれの段階でとらえた顧客グループを、次の段階の顧客グループを攻略するための先行事例として活用することが重要となる。

まずは攻略しやすい部分から攻め、その事例を利用して次の段階にレベルアップしていくというのは別にハイテク製品でなくても通じるはず。例えば、プリクラとかたまごっちも中高生の間で最初は流行り、他の世代にも浸透していったりした。

こんな感じで、「ふむふむ、なるほどなー」と思いながら読んでいたんですが、別にキャズムをあえて超えないマーケティングもあるんではないか?と思ったりしました。この本ではキャズムを超えるのは当然のことで、超える方法が書かれている。

だけど、超えるべきでない製品とか、あえて超えずに一定の利益を安定して出し続ける戦略とかは特に書いていない。マニアックな内容でマニアに人気だった漫画が大衆化してしまい、中途半端な内容になって自滅したパターンはよくあると思うけど、同じ例はハイテク製品には当てはまらないのですかね。

P91

先行事例がないということは、これから新たな市場を対象にしようとするときの致命的な問題となる。

この先行事例を作るために、顧客層をステップアップして作っていくと書かれています。プロサッカー選手がビッグクラブに入るまでの道のりと似たようなもんだろうか。

P123

キャズムを超えようとするときには、顧客の数でターゲット・マーケットを決めるのではなく、顧客が感じている痛みの大きさで決める。

マーケティング全般に言えることだと思うんですが、無知な自分には新しい考えでした。つまり、ニッチ市場を探す時に期待顧客が少なすぎるからといってすぐに諦めるのは早いと書いている。その潜在顧客の悩みが大きければ大きいほど、解決した時の爆発力も凄まじいんだよと書かれています。

P224

初期市場では競争相手の存在は必須ではなかったが、メインストリーム市場ではそうはいかない。そこで、自ら競争を作り出す必要に迫られる。

マニアには製品のよさはあまり説明しなくても分かってもらえる。でも大多数の人には比較となる製品が必要というくだり。人は比較する材料があって初めて価値が分かるということが改めて思い出された箇所。

漫画で強そうなキャラを登場させ、最後のページでそいつをボコボコにする本命の敵キャラを出すのは比較することによって強さを際立たせるわかりやすい手法だったなと思い出した。

この本で書かれていることはマーケティング全般に通じるはず。基本は、攻略地点を決定し、侵攻部隊を集結させ、戦線を見定めて、作戦を実行という手順。この一連の流れを顧客層の変化に伴い繰り返す必要性を説き、その手法を具体的な例をもちいて詳しく書いている名書でした。