【書評】なぜビジネス書は間違うのか


拷問読書今週のノルマ2冊目。累計32冊目。今年に入って読んだ中で、今のところ一番の本。世の中でベストセラーになっている数々のベストセラーが、いかに跡付けの効果に汚染されているかを明らかにするという内容の本です。特に、ビジョナリーカンパニーを読んだ後に読むと何倍も楽しめる本。

金融市場の世界を中心に、世の中の不確実性を書いた「まぐれ」という面白い本を去年読みましたが、この「ビジネス書はなぜ間違うか」も切り口は非常に似ています。要はビジネスの世界は不確実性で溢れているため、成功法則というものは存在しないという本。

ビジネス書の中でも有名な「エクセレントカンパニー」、「ビジョナリーカンパニー」といった本の数々が、いかにエセ科学でいっぱいかということを説得力のある論拠を元に検証しているところが面白いです。



☆この本でのテーマになっているのが「ハロー効果」。

ハロー効果とは、全体的な業績を見て、それを元に評価を下してしまう傾向のこと。一般的にある会社の業績が好調な時は、その会社やCEOの何らかのやり方が成功の原因だともてはやされます。

例えば、「機軸から離れない」という企業の方針であったり、「常識に囚われない」という方針であったり。自社の得意分野でない業種への参画が成功した場合は「常識に囚われない」という経営思考が成功の秘訣だったと賞賛されます。

でも、もしそれが失敗した場合は、「機軸から離れない」という経営思考から離れてしまったからだと非難されます。つまり、結局は企業の業績が好調か悪化したかという結果から経営手法は評価され、理由は後からどうとでもつけられるということ。

面白いのは、企業のCEOのやり方が終始一貫しているのに、業績の上下によって外部からの評価が180度違ってくるのを指摘している部分です。

企業が成功したり失敗したりする理由は無数にあり、さらには不確実な環境条件、もっといえばその時の運も大きく左右するため、成功法則などというものをピックアップすることは不可能だと本書では書かれています。

☆相関関係と因果関係を混同してしまう罠

ビジネス書でよくあるのは、相関関係を探し出してそこから因果関係を証明しようというもの。例えば、成功している企業は社員の仕事に対する満足度が高いとか。

ただ、社員の満足度を高めたから成功したのか、成功している企業に勤めているから社員の満足度が高いかは分からないんですよ、と説明されています。

結局のところ、厳密な実験を行える物理とは違って、無数の不確実性と相対的な要因、さらには運に左右されるビジネスの世界で因果関係を証明しようとするのは不可能だと書かれている。

☆ビジョナリーカンパニーはダメなのか?

確かに本書が指摘しているように、ビジョナリーカンパニーはハロー効果が大きく影響された本かもしれない。でも、あの本に書かれている企業ごとの事例はいろいろな分野で応用も利くし、あれはあれで参考になるものだったりします。

例えば、芸術の傑作が素晴らしいのは作品の一部分ではなく、作品全体が素晴らしいわけで、すべての要素が進み重なってできていると書いてるところとか。大量のものを試して、うまくいったものを残す必要性とか。

成功法則というものが出てきた時に疑う姿勢が重要だということで、それが自分の前に出てきた状況で参考になるかどうかを考えることができればいいのではないかと。大量に試したくても試せない状況だってたくさんありますし。

☆まとめ

何かが上手くいったり、上手くいっている例を聞いた時は、簡単な理由を追い求めてしまったりします。でも、理由は無数にあって、さらには運の要素も大きく関係します。

この本を読むと、その時々の状況に応じて自分でよくよく考えることの重要性がよくわかる。自分が置かれる状況は唯一無二のものであり、その時々に当てはまる法則は絶対ないと意識しないといけないなと思った。

つまるところは下調べや計画をできるだけ充実させて、実行を繰り返しながらその時々に合ったやり方を探していくという方法が一番ですな。