【書評】選挙のパラドクス-なぜあの人が選ばれるのか?


拷問読書今週のノルマ1冊目。累計34冊目。去年の大統領選挙前に発売された、ウィリアム・パウンドストーンの一番新しい本です。パウンドストーンの本はどれも面白いですが、この本も当たりでした。

この本は政治にそこまで興味がなくても抜群に面白い。なぜかというと、今まで平等の象徴と思われてきた投票制度自体に疑いを持つことができるからです。

この本は「一人一票の制度は衆愚政治につながるからよくないね」とかいうそうたぐいの本ではなく、選挙制度自体の穴により、大多数が望んでいない人が選ばれてしまうという選挙制度の落とし穴についての本です。

●第三候補の影響で、2番手の候補者が当選してしまう仕組み。

分かりやすい例でいうと、2000年の大統領選挙でブッシュがゴアに勝てたのは、ブッシュがゴアより指示されたのではなく、ネーダーという候補者の影響によるものだというもの。

これは選挙における票割れという仕組みです。例えば、ゴアとブッシュが二人で対決するとゴアが55対45で勝つとする。しかし、ゴアとある程度似たような趣向を持つネーダーが同時に立候補すると、ゴアの支持者の55のうち15ほどがネーダー指示に流れ、結果的にブッシュ45、ゴア40、ネーダー15となりブッシュが勝利するという仕組み。

このことから、共和党と民主党が対決する時、共和党陣営が支援してもう一人の民主党候補を出馬させるという不思議な図式が出来上がったりするようです。

●こうなってくると、こんな選挙制度はおかしいという人が当然出てきます。

ということで、もっとよい選挙制度を作ろうとした歴史、その結果作られてきた選挙制度の数々が本書ではたくさん紹介されています。例えば、それぞれの候補者を一騎打ちで対決させる「ランキング式」だったり、票割れ問題を解決するため、一人が二人以上に投票できる是認投票などです。

ただ、より良いものだと思われ作られた投票制度も致命的な欠陥がそれぞれあり、その欠陥のパラドクスの説明が非常に面白いです。例えば、一騎打ちで対決した時にはこのような問題が起こります。AがBに勝利し、BがCに勝利した時でも、AがCに敗北することがあるというようなことです。

●数ある投票制度の中で最もベターな制度は範囲投票らしい。

これはインターネット上でよく見られる投票制度。候補に対して、自分がどれだけ評価しているかを10段階や5段階で評価するというもの。この制度のよいところは投票者の意図を詳しく反映し、自分の嫌いな候補者を落とそうと戦略的に投票しても意味がないといった仕組みです。

ただし、これは複雑だという理由などから実際の投票制度ではなかなか採用されてない模様。ネット投票が一般的になれば将来実現するかもしれません。

●最近、面白いと思ったのはF-1の歴代優勝者の記録の記事

「メダル制なら無冠の帝王モスもチャンピオンに」

F-1の順位がポイント制でなく、オリンピックのようなメダル制だったら歴代の優勝者が大きく違ってきたというようなニュースです。

まあ、メダル制だとその時のドライバーの戦略も変わってくるから一概には言えませんが、どんなものでも順位付けには大きく制度自体が影響するのは間違いありません。

フィギュアスケートでも、最近のルール改正によって韓国のキム・ヨナが浅田真央に勝てるようになってきたという記事もこの前読んだような。。

●結果だけを見ずに、制度そのものを疑う視点を教えてくれる本です

この本のよいところは制度を疑う目を養ってくれるところです。あの人は選ばれたから一番よいのだろうとか、あの人は一番になったから一番努力したのだろうとか、現在使われているから最も優れた制度なのだろうなどといった考え方にブレーキをかけるきっかけになります。

さらにいうと、世の中にあるあらゆる制度がなぜ出来たのか、なぜ改良されていって現在のシステムになったのかなどを考えるきっかけにもなります。