【書評】飛ぶが如く 10巻


拷問読書 今週の一冊、累計125冊目。

最終巻ではとうとう西南戦争が集結。西郷隆盛が戦死して反乱軍が敗れ、勝利した官軍の大久保利通もその後まもなく暗殺される。日露戦争を描いた「坂の上の雲」の次に読んだ「飛ぶが如く」だったけど、期待通りのおもしろさでした。

今まで上記2冊のような長編歴史小説は読んだことがなかったけれど、読みながら一番印象に残るのはその時代を生きる人々の価値観。現代を生きる人たちと違い、時代が変われば世の中の常識やこう生きるべきとされる考えもまったく変わるのだなあと感じます。

例えば、「飛ぶが如く」の薩摩士族たちはその身分が保障されなくなろうとしている武士たちであり、幼い頃から戦場で死ぬことがもっとも幸せで名誉であると信じて生きてきている。この小説の薩摩士族たちは、明治政府による国家というものが作られる過程で、武士というアイデンティティを奪われることに対する憤りから国家に対し反乱を起こしています。

「坂の上の雲」の登場人物たちは、明治政府により作られた国家というものに命を捧げるために生きていきます。日本を侵略しようしてくる大国ロシアに対し、勝てなくてもいいからなんとか植民地にだけはされないよう国を挙げて戦った時代。ここでは、国家のためになにができるかを生きる目的としている人たちが主役です。

まあ、当時の国民みんなが似たような価値観を持っているわけではないし、庶民の間ではなんとなく生きている人々も数多くいたと思う。それでも、「あなたはなんのために生きているのですか?」と聞かれ、「ロシアの侵略から日本を守るためです!」とか、「政府を討伐する西郷先生のために戦うことです!」とか即答できる人々は単純に凄いし、尊敬してしまうわけです。

今の時代から見れば、藩や国のために自分の命を捧げるのは嫌だなと思うかもしれないけれど、使命を持って生きることは当人にとっては幸せなことだと思う。そんな事を考えていると、もし100年後の日本人たちが現在の日本人の価値観を学んだ時にどう感じるんだろうなと思いました。

仕事への価値観がまったく変わっているかもしれないし、男女関係への価値観も同様かもしれない。結婚して子供を作って、いい暮らしをするのが一般的な幸せではなくなっているかもしれないし、そういう根源的な価値観はいつまでも変わらないのかもしれません。

このように、昔の軍人たちの生き様やそれぞれの持つ使命にしびれながらも、時代や立場によってまったく違う価値観が特に印象に残った。当時の人々は生き方の選択肢が現代に比べて極端に少なかったはずなので、迷いのある人が少なかったのだろうなとも思う。自由というのは素晴らしいけれど、選択肢が多ければ多いほど人間の悩みも多くなるんだなとも思いました。