【書評】渋滞学


拷問読書

今週3冊目。累計97冊目。著者は東京大学の教授で渋滞の専門家。数学の難しい知識も所々出てくるのでけして読みやすい本ではないけれど、渋滞のメカニズムをいろいろな視点から解説していておもしろい。

■渋滞改善の肝

渋滞は集中的に混雑する部分から起きる。高速道路では料金所だし、ファーストフード店では注文するカウンタ。とにかく、この部分を改善することが渋滞を解決するうえでもっとも重要となるらしい。

上記のような渋滞のメカニズムと、世の中にある様々な現象の、渋滞が起こらないようになっているメカニズムとの対比がおもしろい。例えば、水道のホースは先っちょをつまんで口を小さくすると自然に水の勢いが強まる。砂時計も中心の狭い部分では砂が落ちるスピードが速まる。

こうやって、渋滞が発生しないようなメカニズムが自然現象では働いている。とにかく混雑が集中する場所でのスピードをいかに速めるかがポイントとなる。技術の進化により渋滞が緩和された例が高速道路のETC。以前は渋滞全体の30%を占めていた料金所渋滞がETCの導入によってだいぶ緩和された。

この他にも、電車でのスイカやパスモの普及。スイカをタッチする自動改札口は、タッチする部分を少し斜めにするまでは、お客がタッチする場所を認識するまでコンマ秒単位のズレが発生していたとなにかの記事で読んだ記憶があります。斜めにしたことによってコンマ数秒の認識速度が改善され、自動改札口前での長い渋滞を緩和することに大きな進歩があったとか。



■高速道路では追い越し車線が得なのか



混んでくると、走行車線と追い越し車線での渋滞状況が逆転するらしい。比較的すいている時は追い越し車線のほうが平均速度が速いけれど、混雑してくると走行車線の平均速度のほうが速くなる。

これは比較的早い段階から始まり、車間距離が200mより短くなってくると人間は自分の速度を維持しようと追い越し車線を走るほうがよいと判断する。でも、みんなが同じ行動をとれば結果として追い越し車線のほうが混雑して速度が低下してしまう。

結論としては、混雑してきた場合は走行車線を走ったほうがよく、長距離トラックの運転手は経験的にこのことを知っているそうな。

本書では上記のようなわかりやすい事例以外にも、ネットワークの混雑とか、様々な状況での渋滞を科学的に説明してくれていておもしろい。

ネット社会によって世界はフラット化したかというとそうではなく、都市にどんどん人が集まるようになっていくという説は「人は意外に合理的」でも書かれていました。これからますます渋滞問題はクローズアップされていくので、今後注目される分野なのは間違いなし。こういう現実の問題解決が具体的にイメージできる学問をしていると楽しそうですな。