パウンドストーン先生の最新作。前作「選挙のパラドクス」は最高だった。行動経済学の本は少し飽き気味なのですが、先生の本なら読まずにはいられません。結論から言うと、行動経済学の本としては一番オススメかもしれない。
日本の本にありがちな海外の著作のまとめ的な部分もなく、綿密な調査と、歴史の紹介など、オリジナルな部分がたくさんあってどれもおもしろい。
ただ、やはり、「予想通り不合理」とか、「行動経済学 経済は「感情」で動いている」とか、「その店で買ってしまうわけ」とか、「プロパガンダ」とかそっち系の本をいくつか読んだ後だとどうしても目新しい内容がなくなってくる。そこはしょうがない。そうはいっても他の本にない新しい視点もありまして、そこだけ紹介してみます。
■どれだけふっかけてもよいか?
他の本にはなかった視点として、アンカリングはどれだけ許容されるかという部分。交渉時は最初に大きな額を言うと、その価格が基準になって最終的に落ち着いた価格も相対的に高くなるアンカリング効果があります。
では、常識外れの価格をふっかけてもよいのか?例えば、自分の車を売ろうとしていたとして、いきなり一億円とか、とうてい受け入れられないであろう価格を提示した場合はどうなるか?
実験結果によると、法外な値段を最初につけた場合でも、しっかりとアンカリング効果はあり、最初に一億円を提示した場合と、最初に一千万円を提示した場合では、一億円を提示した場合のほうが最終価格が若干だけど上がったそうな。つまり、めちゃくちゃ高い価格で初めても、そこまで損はしないという実験結果が出たと。
ただ、これは現実的ではないと思う。そもそも、営業の人が冗談のような価格を顧客に提示すると、次回の交渉の席にも立てないかもしれない。相手を怒らせるかもしれない。
自分が就職面接を受けていて「年収いくら欲しい?」と聞かれた場合、法外な値段を言うと職につける確率も下がる。
なので、アンカリングは、高い値段を先に言ってもいいけど、交渉の余地を常に相手に残す必要があるわけで、ここのさじ加減がやっぱり難しいなと。
■アンカリングから身を守るには
本書では、世の中に溢れるアンカリングの数々から、どうやって正常な判断をするべきかという視点でも語っています。そうしないと、簡単に商品価格に騙されてしまう。最初から半額でも、半額の値札を見るとお得に見えてしまう。
本書での勧めは古典的な珍しくもない方法で、じっくりと違う立場になって考えたり、一つの情報で判断しないというもの。
この部分は当たり前なんですが、あらためて考えるとハッとするわけです。よくよく考えると、世の中には「常識」という名のアンカリングで溢れているわけです。何も商品価格だけじゃない。そう考えると、常にゼロベースで考えることの重要性がよくわかるなあと1人で納得してしまいました。
■感情で動いてもよいと思う時がある
最近は、その時の幸福度を追求するには、感情で動く必要もあるなと考えております。例えば、パスタの味。雰囲気のいいレストランで食べると高いし、家でレトルトを食べると安い。上等なピエトロのレトルトなんてかなり美味いから、純粋な味ではあまり変らない。
そうなると、場所代とか、その時の雰囲気にお金を払うんだなと納得できる時もあるわけです。ここはアンカリングとは違いますが。
さらには、やりたいことは出来る限り、やりたいという情熱が一番高い時にやったほうが満足度も高いし、人生も楽しいかと思う。先延ばしにすると、後からだと結構冷めてしまう。