【書評】秀吉の人心掌握術が凄い「太閤記」


新史太閤記 (上巻) (新潮文庫)

司馬遼太郎マニアの先輩に勧められた本。めちゃオモシロかった。秀吉の幼少時代から天下を取るまでの物語。見所は秀吉の人垂らし術。さらには、信長と秀吉の相性抜群の主従関係です。

■超合理主義の鬼上司、信長

信長は人を道具としてみる。自分に役立つと分かれば身分に関係なく取り立てるし、役立たなければ切って捨てる。合理主義である信長だからこそ、身分の低い秀吉にも出世のチャンスが与えられ、秀吉はことごとくそれをものにしていく。

この主従関係がオモシロすぎる。秀吉は信長を神と思っているけれど、へまをしたり、嫌われればすぐ殺されるという緊張関係を常に持っているわけです。何かを進言する時も、常に信長に好印象を持たれようと計算し尽くし、持ち前の明るい性格を存分に使う。信長がいなければ出世も叶わなかったと、常に死ぬ覚悟で尽くしまくる秀吉の気合いが凄い。

例えば、信長に褒美をやると言われても秀吉はもらわない。貯蓄が増えると信長に警戒されるからです。ひたすら信長命の行動を取り、上司からすると神のような部下。うーむ、これは真似できん。

■人間の感情を重視する秀吉

信長が合理主義派だったけど、秀吉は人間の感情も考慮して動きます。信長は交渉時には、相手は合理的に動くと従うだろうというふうに考えるのですが、秀吉は人間心理を念頭においた行動をする。

結局、感情を軽視した信長は家来に殺されるわけですが、この超合理主義上司の欠点を間近で見ることが反面教師の役割になり、秀吉は感情を重視する政治工作を上達させたのかも。このへんが、人間は合理的に動くという前提の経済人仮説と、不合理な心理も踏まえる行動経済学の発想がだぶります。

■なんでも明るくやる秀吉

秀吉はとにかく明るくいく。出来るだけ嫌われたくない。陰湿な政治工作も明るくやるため、暗さがかすむ。信長は恐怖政治だけど、秀吉は相手の立場をたてまくる。身分や家の歴史というバックボーンがない秀吉は、信頼できる部下も少なく、こういった戦術に走るのは合理的でもあったらしい。

どうも、漫画「花の慶事」で出てくる天下人の怖い秀吉とはイメージがまったく違う。天下を取る部分で終わるので、秀吉の明るく、さわやかな部分を強調した小説でした。