【書評】ハッカーと画家


ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち
超絶最高におもしろい。久々に遭遇した大興奮の傑作だと思う。今年に入って読んだ中で間違いなくベスト。

いくつかのネットベンチャーを立ち上げた著者が、様々なトピックに対して論理的に分かりやすく語る形式。デザイン、哲学、起業、プログラム、格差、タブーなどについて極めてわかりやすく、論理的に語っています。

ちなみに、ハッカーは犯罪者っぽい響きがあるけど、単純に優秀なプログラマーを意味する。個人主義が多いプログラマーにはリバタリアンが多いらしいけど、著者も生粋の自由主義者っぽい。

ベンチャー企業のスタートアップの話は、YAHOOに自社のアプリケーションを50億で売却した経験を元に非常に濃い話が書かれている。例えば、ベンチャーは普通の人が30年間分の働きを3年間で猛烈に働き、30年間分の給料を稼ぎ出すものだというくくりは最高に生々しく、面白い。そして、実際は一か八かでリスクの部分も具体的に書かれているのがいい。

”企業バカ”とか”ベンチャーはなぜ失敗するのか”っていう本に比べて、この”ハッカーと画家”は書かれていることの質が段違いに高い。

【口にできないこと】

時代によってタブーは変る。現在のタブーも未来の人から見れば笑えるものかもしれない。でも、現代の人間には今の常識が当たり前なのでわかりにくい。そういった事を見つけるには、他の人がそれを口にしたことで災難に巻き込まれたことを探す。タブーを真実とされると怒る集団がいて、それは真実である可能性も高い。

ここからがこの本の面白いところで、そういった考えは頭の中で巡らせてできるだけ口にしないほうがいいと書いてある。なぜなら、異端者としてそれを反対する人と議論をするのは不毛だし、それに多大な時間を費やす羽目になってしまうから。

このタブーの見つけ方、現実としてどう扱うかまでをここまで深く書いている本は初めて。ここが本書の最もオリジナルな部分かもしれない。

【10倍働くから10倍給料あげてくれ?】

秀逸なのが、富を創造するにはどうすればいいかという部分。上司に10倍働くから10倍給料をあげてくれと言っても無理。それは、大企業がそういう仕組みになっていないから。企業は普通の社員の評価を公正に計る方法がない。だから、10倍働いても10倍の成果がはっきり分からないので給料も上がらない。

本書では、しっかりと計れて、自由に生産性を高められる職だけが金持ちになれると書いている。

つまり、スポーツ選手やファンドマネージャー、企業のCEOなど。フリーのスーパー営業マンもそれに入る。成果が誰にでもハッキリとわかり、生産性を自由に上げることができる職種。これらの業種は働いた分だけお金を稼ぐことが可能になる。もちろん失敗のリスクも平等にある。

計れて、自由に生産性を高められる職につくとノルマとか仕事という感覚がなくなると思う。スポーツ選手が8時間労働を要求するとか聞いたことがない。ライバルに勝つために自分でやるわけで、それがもっとも生産性が高い。

【どうしてオタクはモテないか】

この本の中である意味一番どうでもよく、それだけに笑える部分。ただし、どうでもよい部分をひたすら論理的に考察しているのが笑える。

著者の主張を乱暴に解釈すると、オタクは頭がよくて身なりに脳みそを使っている暇がない。そして、他の人と同じように人気者になる労力を他の事柄に費やすからだ。と書いている。ここは、単純にギャグとして書いたのかもしれないけど、ひたすら論理的にオタクを擁護していてちょっと面白い。

自分もいろいろなもののオタですが、単純にオタクがモテないのは見た目が一番クリティカルなんじゃないかと思っちゃう。そして、逆説的には、モテることを諦めたからこそ他の事に脳みそを使うっていう部分もあるんじゃないかと。もちろん頭がいいんだろうけど。

そうはいいながら、著者はダンディなイケメンで学生時代もイケメン風でありました。関係ないけど、どんなものでもオタ化するほど知識がある人は面白い。でも、それを伝えられる能力がまた難しい。

NHKのデジタルネイティブという番組で、著者のグラハム動画への簡潔なインタビューが見れる。メッセージも簡潔でいい!
http://www.nhk.or.jp/digitalnative/index.html?id=n00