芸能人はなぜ干されるのかを読んで、独占と引き抜きとシリコンバレーのエンジニアとかサッカー選手について考えた


芸能人はなぜ干されるのか?

日本では、”なぜ〜なのか”というタイトルがつく本はほぼクソみたいな自己啓発本であるという法則がある。

ただ、たまに例外となる本がありまして、それが木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのかとか、「ジャパン」はなぜ負けるのかとかいう本が当てはまります。

で、この”芸能人はなぜ干されるのか”という本は例外の中に入る凄く面白い本。最近読んだ中でピカイチ。

単にバーニングが芸能界を仕切ってるんだとか、あのアイドルは枕営業させられてるぞとか、陰謀なのか半分想像なのかよくわからない芸能雑誌のまとめ本ではなかった。

“木村政彦〜”の本が昭和からの日本格闘技史を丁寧に書き連ねた本だったら、この本は昭和からの芸能界の歴史を細かく解説している本であった。素晴らしい。

だって、吉本がそもそもどういう成り立ちでできあがったとか、松竹と吉本の昭和時代の話から、引き抜きがどういう力学で発生するかとか凄く楽しい話がいっぱいある。

引き抜きと独占とシリコンバレーのエンジニア

この本の中の主旨ともなっているのが、独占利潤と従業員の自由な転職です。

企業というのは利潤を追求したら結果的に業界独占するところに行き着く。独占して競争を排除すれば、商品は値下げしなくてよくなるし、従業員は安い給料で働かせられる。

サッカー界なんか今でこそレアルにハメスロドリゲスが20代前半でびっくりするような給料で引き抜かれたりするのが当たり前になってるけど、以前のサッカー選手の給料はそこまで高くならない仕組みだった。

ボスマン判決とか紆余曲折あって、選手が有利な立場で所属チームを変えたり、給料の交渉ができるような仕組みが出来上がってサッカー選手がいっぱい稼げる時代になったわけです。

働く個人が自由に契約できる仕組みを守るのが独占禁止法だったりするんだけど、芸能界にいたってはまったくこの仕組みは摘要されていなく、人気者になってもそこまで上がらない給料で休みなくこき使われる毎日が続くらしい。

うーむ、あのきらびやかな世界の裏がこんな搾取が。。といった本です。

高待遇を求めて独立したり所属事務所を変えようとしたら、芸能界全体から仕事が入らないようになるので、芸能人に非常に不利な仕組みがまだ続いてるとか。

ちなみに、シリコンバレーのエンジニアも実はGoogleとかAppleとか大企業同士で引き抜きしない裏協定が交わされてたと最近ニュースで話題にもなってた。

ジョブズがノキアにうちの従業員を引き抜いたらお前らがビジネスできないようにしてやるぞと脅してた過去とか載ってた。

シリコンバレーでも一人のエンジニアが何百億と儲けている会社で違いを出すんだったら、NBAの選手なみの年俸になる可能性も将来ありうるみたいな議論をテククランチでやってたな。

NBAなみになるかはおいておいて、こういうエンジニアの待遇が上がるのに不可欠なのが、独占を禁止した契約が自由にできる環境なわけですね。

ハリウッドはどうなの?

この本の面白いところは、じゃあショービジネスの本場であるハリウッドはどうなのっていうところまで深く掘り下げていたりする。

実はハリウッドでも昔は役者の待遇が悪くて、自由に交渉もできない環境だった過去があったらしい。

でも、労働組合が結成されて、エージェント制度が出来上がり、日本や韓国の芸能界とはまったく違った、役者に有利な交渉がしっかりできる仕組みが出来上がったとか。

独占禁止法、反トラスト法について

僕は経済学とかリバタリアン的な思想も結構好きで、国家が市場に介入するデメリットというのもあったりはするんですが、独占の禁止ってのは考えれば考えるほど深いテーマなんだなとこの本を読んで思った。

いや、特にそんなに深くは考えてないのだけど(笑)。

芸能界がもっと健全な業界になったら、芸能界を目指す一般人がもっと増えて、今よりもっと才能のある役者やら、アイドルやらが増えて視聴者からするとレベルの高いものが見られるようになるとは思う。

そう考えると、日本のIT業界って別にA社からB社に高待遇もとめて移籍しても業界全体から干されるとか、ヤクザに脅されるとかないから健全だな。

長くなるから書かないけれど、この本で詳しい引き抜きの力学とか、どう事務所側がそれを防ぐとかの生々しい話もめちゃ面白い。

芸能人はなぜ干されるのか?