【書評】迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか


拷問読書 拷問読書今週の一冊、累計121冊目。

かなり期待して読んだけれど期待を裏切らないおもしろさだった。原題は”The Survival of The Sickest”。読みやすくておもしろい。

進化とは可能な限り優れた遺伝子を残していくものなのに、なぜ病気の遺伝子が受け継がれていくのか?そもそも、なぜ人間は病気になるのか?この疑問に対して、進化医学の専門家であるシャロン・モアレムがおもしろおかしく説明していきます。

人間が病気になるのはどうしてなのか?それは、長い目で見れば自分に毒である薬を人間が使う理由と似ている。後からの副作用があるけれど、その薬を飲まなければ明日死んでしまうから。

例えば、糖尿病の遺伝子は氷河期にたいする人類の進化に関係すると書いている。寒冷化において、体内の液体が凍ると細胞が傷つけられて非常に危険になる。それを防ぐには体液が凍りにくいようにする必要がある。

純粋な水は0度で凍るけれど、糖分を多く含む水が凍る温度はもっと低い。つまり、体液をできるだけ凍らせないようにするため糖分を溜め込む遺伝子を持つ人間が生き残り、その影響で糖尿病遺伝子が受け継がれていくという説。

病気の遺伝子が受け継がれてきたのには理由があり、人類が生存に適した進化を選択した結果である、というのがこの本のスタンス。

さらにおもしろいのが冷凍保存の話。未来の科学力で復活することを期待して、死語に体を冷凍保存するサービスが現在でもある。人間の臓器は冷凍保存しても数時間で使用できなくなるので、臓器移植はいつも時間との戦いになる。

こういった人類の苦労を横目に、自分の体を完全に冷凍保存状態にできるカエルがいる。冬眠状態では心臓も完全に停止し、目も死んだ状態と変わらない。その状態から必要な時期に自然と息を吹き返すことができるのだとか。

この本を読んで思うのが、世の中のいろいろな不思議な現象も、ひもといていくとなにかしらの理由があるのだなということ。特に、理由がわからない現象ほど答えに近づいた時はおもしろいですな。

ちなみに、この本が読みやすくおもしろくなっている理由は、プロのジャーナリストが文章を書いているというところ。よい学者がよいライターであるのはまれなので、こういう形式でどんどん難しい研究も本にしてほしい。

この本の書評では、shorebirdというページが一番よかった。この本のおもしろさも指摘しながら、進化医学の最新研究から遅れているといった部分もバシバシ指摘しています。


【書評】The Blind Side マイケル・ルイス


拷問読書今週読んだ本で一番面白かった一冊、累計119冊目。

マネー・ボール」や「ライアーズポーカー」などで有名なマイケル・ルイスの本。2007年に発売され、アメリカでベストセラーになりながら日本語版が出てない。日本人には馴染みのないアメフト、それもカレッジフットボールを扱った内容だからだろうけど、アメリカでは今秋に映画化までする盛り上がりよう。

アメリカのアマゾンでやけに評価が高かったので洋書版を読んでみた。スポーツを題材にしているから英語も簡単で、アメフトの知識がほぼない自分でも十分楽しめました。むしろ、この本を読むと自然とアメフトに興味が出てくる。

本は大きく分けて2つのパートが混ざり合ってできている。ひとつはホームレスだったマイケル・オーアという少年が裕福なクリスチャンの夫婦に引き取られ、恵まれた体格と運動神経をいかしてカレッジフットボールで躍進していく話。もうひとつは、アメフトにおけるレフトタックルというポジションの進化、およびカレッジフットボールを取り巻く話。

悲惨な少年時代を過ごしたマイケルがNFLのスター候補にまで上り詰める話はもちろん面白いけど、自分はスター選手をなんとか確保しようとするカレッジフットボール界の話や、クオーターバックを守る選手達の動きを掘り下げたパートが一番楽しめた。

アメフトはチームスポーツ。パスを出すクオーターバックやボールをキャッチするレシーバーの華やかな動きの影で、タックルに来る選手をブロックしたりレシーバーが走る進路を開けるために大男がぶつかり合っている。

例えると、華やかなクオーターバックとレシーバーの周りで、明らかに極悪顔な100キロを超える大男達が押し合いへし合い、つかみ合いの大相撲を繰り広げているわけです。

こうした各自の綿密な動きがアメフトの魅力だと思うのですが、この本では特にクオーターバックを相手のタックルから守るラインの選手にスポットライトを当てている。右ききが多いクオーターバックの死角(Blind Side)である左からのタックルがレフトタックルと呼ばれるのですが、ここを守る選手が近年のアメフトではクオーターバックの次に重要なポジションとなっている。

クオーターバックの死角からタックルに来る相手選手は一番能力が高く、危険な選手。それを守るためには、体がでかいだけでなく、横への敏捷性、足の速さ、相手を受け止める手の長さや大きさなど、あらゆる素質を求められるためなかなか見つからない。

ラインの選手は平均で193センチ、140キロ以上と怪物達が多いのですが、その中で最も優れたアスリートのためのポジションというわけです。

人間ドラマとアメフトのパートがいいバランスで混ざりあっていて飽きない。スポーツ好きにはもちろん、アメフト好きにはたまらん本なのではないでしょうか。

こちらはマイケル・オーアのハイライト動画。アメフトに詳しくない自分はよく分からないのですが、外国人のコメントを読む限りでは、「相手を逃がさないフットワークがすげえ!」、「タックルされた後のバランスがヤバイ」とのこと。


【書評】波乱の時代


拷問読書今週1冊目、累計118冊目。20年近くアメリカ経済の司令塔として舵をふるってきた元FRB議長の回顧録。専門的な分野もあるにはあるが、歴代の大統領とのやりとりや、その時々の経済政策を語る話はスケールがでかくて単純に面白い。アメリカでベストセラーを記録した本。

音楽隊で働いていた軍隊時代から始まり、大学で金融関係の才能を発揮して経済雑誌の執筆を勤め、金融のコンサルティング業をやるといった回顧録を細かく話している。

途中からは、経済のことならグリーンスパンが最も詳しいとまで言われるようになり、数々の歴代大統領の経済顧問など、世界経済界のトップを走り続けていった時代の裏話がいろいろ書いている。

例えば、一緒に働いた歴代大統領でもっとも頭が良かったのはニクソンとクリントンだったとか。ニクソンは抜群に頭がよかったが、マフィアのボスのように振る舞ったり、何に対しても反対意見を言う攻撃的な性格にどうしてもなじめなかったそうな。

また、クリントンに対しての賞賛も多く、様々な分野への理解や、人の話を真剣に聞く姿勢を常に表すといった政治家としての資質を評価している。それがあったからこそ、当時の秘書だったモニカ・ルインスキーとの不倫事件にはショックを受けたと書かれている。

「シークレットサービスがいつも一緒で、クリントンの様々な顧問達も常に入れ替わり立ち替わりする状況の中、不倫なんてできるわけない!」と当初は報道をまったく信用していなかったが、それが事実と分かると非常に失望したとか。

ここまで厳重な網をくぐり抜け、ちょめちょめしていたクリントンはある意味すごい。ケネディーはすごいプレイボーイで有名だったらしいけど、クリントンは一緒に働いていた同僚達からそういうふうには見られてなかったみたいですな。

ブッシュ政権に対しては批判的。ブッシュは公約として大幅な減税を打ち出していましたが、任期中の経済の状況において減税するのはどう考えても合理的でない状況になっていた。それでもブッシュは公約を守ることを優先して減税を押し通したことなどを批判している。

このへんを読んでいて、公約を守ることは重要なんだけど、それを固執するあまり、状況が変化した時に柔軟に動けなくなるのは難しい問題だなと感じました。政治家としての立場からは公約を守らないことは重大な汚点にはなるのだろうけど、経済の専門家からすると木を見て森を見ず写ってしまうんだろう。

まあ、そのへんのたてまえと現実的な方針のバランスをうまーくとるのが政治家の力量が問われるところなんだろうと思うけど、ブッシュはダメだったと。。「さらば、財務省」に書かれていたけど、小泉元首相は理想と現実のバランスを取るのが非常に上手かったとか。


【書評】プログラマーのジレンマ


拷問読書今週1冊目。累計116冊目。天才プログラマー達による、オープンソース開発プロジェクトを追ったドキュメント。最近出版された本なので、内容も新しい。基本的にはソフトウェア開発の困難さを描いた本なので、素人でも読み進められる。

優秀なプログラマー達がそろっているのに、あれもこれも機能を実装したいとなり、いつまでたっても計画が実現しないプロジェクトの話。本の最後になってもプロジェクトは終わらない。そのため、ストーリー性はそこまでなく、本自体はそこまでおもしろくない。

ただ、様々なバックグラウンドや性格を持つプログラマー達の話は興味深いし、なんといっても、プロジェクトが計画通りに進まない行程の話がいい。

ソフトウェアにいろいろな機能を付けたがる技術者たち。当初の予定どおりに計画は進まず、イライラがつのる。これを読んでいて思ったのは、難しそうになったり、時間がかかりそうになった時、ある意味で適当に終わらせるという割り切りが重要だなということ。

完璧主義者は天才を生み出すことがあるけれど、それが弊害となって、必要とされている時に作品が間に合わなかったりもする。AKIRAを作った大友克洋のスチームボーイなんかその典型なんじゃないかと。

AKIRAの映画版が世界的な評価を得て、新作のスチームボーイを世界中のファン達が待ち望んでいた。でも、新しい技術が可能になるたびに、作者が1から書き直したり、いろいろと納得がいかないところを修正したりして何年も完成が遅れたと聞いたことがある。

結局、当時は斬新でも完成する頃には目新しくなくなり、作品自体もパッとしなかった。まあ、こけた理由は脚本がダメすぎたことで、完成時期が大幅にずれたのとは関係ないかもしれないですが。

人間は誰しも、細部にこだわりすぎて時間が予想以上に過ぎていってしまったという経験があると思うのです。例えば、テスト勉強していて単語帳を作り始めるとする。そのうち、その単語帳を作るのに思ったより手間がかかり、想像以上の時間を費やしてしまったとか。

この問題を解決するには、時間を区切ってその時間内でできることしかしないと割り切る

というやり方がある。時間内でできることしか考えないから、自然と一番重要なことに手をつけられるといった利点があります。

ただ、こればっかりやっていると、短期的なスピードにばかりとらわれて、長期的な成長がなくなるという欠点もあったり。例えば、目の前の作業を1時間以内で終わらせるには今までどおりのやりかたをするしかないけど、2時間かけて新しい方法を練習すれば、次回は30分で終わらせることができるといった状況もある。

その時々によって、常にバランスを意識するのが重要なのかなと考え中です。


【書評】資本主義崩壊の首謀者たち


拷問読書今週3冊目。累計115冊目。世界同時不況を引き起こしたのは、アメリカの金融エリートたちだ。そいつらをひたすら叩くぞ!といった内容の本 です。叩かれる人達は、元FRB議長のグリーン・スパンを筆頭に、アメリカ金融業界の重鎮たちの面々。これだけ聞くとよくある本みたいに聞こえるが、この 本は叩きに対する掘り下げが細かく、叩く対象の数が多い多い。

例えば、リーマンブラザーズ創業一家の家系図を使って腐敗の系統を説明したり、シティグループと政府の財政顧問達のつながりを指摘したり、ロスチャイルドファミリーと現在の政府高官たちの系統を説明したりと。

オバマに対しては、地域に根ざした地道な活動を続けてきた正義の弁護士であり、政治家だと評価している。でも、新しいオバマ政権の金融担当に任命された面々が過去にやってきたことはね。。。みたいな形で叩きが再開。普通、ある程度はその人達がやってきた功績も少しは紹介するのですが、この本に関しては、そういった生ぬるいことは一切なし。徹底的にウォール街の金融エリートをメッタメッタに叩きます。

こいつらが世界の金融業界を牛耳る大犯罪者たちだ!といわんばかりに、(というか、そう言っている)ユダヤ人系列の大物たちの系列一覧まで作る徹底っぷり。 なんか、ここまで一方的だと逆に、サブプライムも最初は貧しい人達が家を持てる制度だと評価されていたんですよね、と金融エリートたちをちょっと擁護してしまいそうになります。

著者はアメリカ金融界の本を多数出しているので、この分野は相当詳しいのだとは思う。スケールのでかい金融業界の闇に対しての知識もつく。しかし、本書を読んでもっとも勉強になったのは、よかった部分を少しもあげないで、ひたすら批判すると説得力が少し下がるなあということ。メリットとデメリットの両面を話さないセールスマンが信用しづらいのと同じ理屈ですな。

その点、「なぜ世界は不況に陥ったのか」は、失敗は必ず繰り替えされるから、その後どうやって被害を最小化できるかという仕組み作りが大切というスタンスだった。後付けで金融政策を叩くといった方針ではなかった感じです。

でも、この国際的な金融腐敗の実態は本当だろうし、金融会社のトップ達が政府の中枢に入りこみまくりのアメリカの構造はびっくりします。日本で証券会社の幹部達が財務省長官に上り詰めるとかまず聞かない。

ちなみに、本書で絶賛されている、アメリカの漫画家による政治の風刺画の紹介と解説はかなり面白い。筆者いわく、アメリカの風刺漫画家の知的レベルは高すぎる!とのことです。


【書評】ブラックスワン上・下


拷問読書 拷問読書今週2,3冊目。累計111,112冊目。前作「まぐれ」の続編。前作は自分にとっては衝撃的でした。少なくとも「まぐれ」を読んでからものの考え方が変わった。今までの考えをひっくり返してくれる本はなかなかない。凝り固まった頭をハンマーでたたき壊してくれるような本だった。

簡単に著者の主張を説明するとこんな感じです。今までずっと起こらなかった事態だからといって、明日も起こらないとは限らない。今まで見た白鳥が全部白だったから白鳥は白いものだと思っていても、明日に黒い白鳥が発見されればその前提はくつがえる。

過去の世界恐慌も人間は防げなかったし、金融工学が発達したと思っていても最近の同時不況が防げなかった。とにかく、未来が予測できると思ってはいけない。世界は死ぬほど複雑で、先のことになればなるほど予測の精度は絶望的に下がっていく。

つまり、長期的な予測なんて不可能だと。それが現実なのに、リスクを理解していると勘違いしている状態が一番危ない。そういう人たちは黒い白鳥にやられてしまう。

また、世の中での成功事例はほとんどがまぐれの産物であり、あとづけの解釈は意味がない。なぜなら、一握りの成功者の下には数限りない敗北者がいて、母数から考えると、その他の人々と同じようなことをしても成功する人は出てくるに決まっているから。

例えば、成功者のスティーブ・ジョブスのやり方がもてはやされているとする。彼の特徴は、独断的で、カリスマ性があり、顧客の意見を聞かず、菜食主義者であったとする。でも、ジョブスと同じような性格で同じようなやり方をしても成功しなかった人は大勢いる。ジョブスが成功できたのも運の要素が非常に強い。

黒い白鳥に対する著者であるタレブの対処方法はこんなもの。大きな影響が出そうなリスクには、それがどれだけ起こりそうになさそうでも被害を最小限に抑えられるようにしておく。逆に、被害が小さいリスクに関しては気にしない。積極的にリスクをとる。

黒い白鳥にはよいものもある。期待していなかったのに思わぬ幸運をもたらすようなものがそれにあたる。どうせ未来は予測できないのだから、幸運をもたらす黒い白鳥を積極的に狙おうということらしい。

本書、「ブラックスワン」は前作「まぐれ」よりも評判がよくて、ずっと日本語版が出るのを待ちこがれていました。待ちきれずに原書を読み進めてみたりしたが、日本語で読んでも難解な内容なので途中で止まっていた。難しい単語が多すぎた!

読んでみた感想は、「ブラックスワン」は前作以上の出来かもしれない。かなり期待して読んだけど、期待以上の出来。前作は主に金融業界の世界から不確実性の概念を語っていたけれど、今作ではもっと一般的な世界にひそむ黒い白鳥を取り上げている。特に、前作にはなかった“果ての国”という概念がおもしろい。新しい考えを持たせてくれました。


【書評】雇用の常識「本当に見えるウソ」


拷問読書今週1冊目。累計110冊目。著者はリクルートで人事制度設計などにかかわり、漫画「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人、海老沢のモデルにもなった人。本を出すのは初めてのようです。

「終身雇用は崩壊した」、「転職率が以前より増えた」などの、世間一般で信じられている俗説の真実を解き明かす本。TVや新聞などで言われていることと正反対の事実がぽんぽんと出てきておもしろい。

この本をペラペラとめくると、いたるところに統計データを元にした数字やグラフが出てくる。それぞれの論拠には統計データの証拠があげられているので、文字だけで語るより大幅に説得力があります。

■ 転職は一般化していない

数字で見ると、ここ十年の転職率は2パーセントほど上昇しただけ。欧米諸国と比べ、日本の転職率は以前低いまま。勤続一年未満の労働人口比率で、日本は実質6%、アメリカは約28%、EUは約17%。

アメリカでは転職を頻繁にするが、気に入った会社があると長居するといった傾向があるらしい。日本は若年期に頻繁に行われ、その後は長期滞在といった形。ちなみに、日本のケースでいえば、転職すれば生涯年収は下がっていく。これは、転職して年収アップ!と転職代理会社が煽っている現状とまったく逆の現象。

■ この本がおもしろいところ

日本型長期雇用のメリットは社員同士が助け合うインセンティブができることであったり、企業が長期的に社員を育てるメリットができたりする。逆に、デメリットは解雇規制により雇用の流動化が硬直して、社会全体で人材の最適配分が進まないといったところ。

企業は解雇規制があるので簡単には新しい人材を雇用できない。よって、採用のハードルも高くなり、転職は簡単にできない状況ができあがる。アルファブロガーの池田信夫先生とかは、解雇規制をゆるめて雇用の流動化をはかりべきだといった主張をよくしている。

この本のおもしろいところは、日本型雇用形態と欧米型雇用形態のどちらも理解しながら、単純に解雇規制をゆるめたら上手くいくわけではないと語っているところ。最後の章にある著者からの提案も複雑だけど、聞いたことあるような提案とはちょいと違っておもしろい。

今の日本では給料が少なくなってもよいから労働時間を減らすという選択が実質ないので、この本で書かれているような提案が少しでも実現すればよいなあという感じであります。


【書評】誰のためのデザイン?


拷問読書今週3冊目。累計109冊目。ドアのノブから自転車、ファミコン、部屋のスイッチまで、身の回りにある道具の問題点を掘り下げた本。この本の評判はいたるところで聞いていたけど、期待以上にいい本でした。もう一度読む価値ありと思わせられる、おもしろい本。

認知科学者のデザイン原理という副題にあるとおり、この本は綺麗なデザインを解説しているようなものではなし。使いやすい道具とは、使いにくい道具とはなにかと、普段の生活で使う道具をデザインの視点から解説している。

部屋のスイッチを押し間違えたことは誰にでもあるはず。直感的にわかり、初めてでもどのスイッチを押せばどこの電灯がつくか誰にでもわかる。こういうものはデザインがよい。逆に、何年も同じ家に住んでいるのに、何度も間違えるようなスイッチはデザインが悪いと書かれています。

形を変えたり、図を付け足したりするなど、ちょっと工夫すれば使いやすさが驚くほど口上する事例を本書ではたくさん取り上げている。重大な事故につながるヒューマンエラーも、原因をひもといていくと、ミスしやすいデザインで作られていたものが原因なことが多い。

この本を読んだら、普段目にするいろいろが直感的に理解しやすいか、ミスしないような作りになっているかを意識するようになると思う。

もっとおもしろいのは、なにかを使っていてミスした時。今までなら、「ああ、なんて俺はバカなんだ!また操作を間違えた!」というところが、「また操作間違えた。デザインが悪すぎる!」とデザインのせいにすることになること間違いなし。

こういったデザインをすごく意識している会社といえば、アップルがすぐ思いつきます。Ipohneとかも画面をタッチするという、わかりやすさを追求した製品だし、Ipodもスイッチを最小限に抑えて直感的に操作しやすい作りになっている。

使いやすさとデザイン性はバッティングしやすいのですが、この2つを兼ね備えた道具は神の域ですな。そういや、アップルはキーボードの無いノートパソコンとかを開発しているらしい!


【書評】それがぼくには楽しかったから


拷問読書今週1冊目。累計107冊目。無料OSであるLinuxを作ったリーナス・トーバルズの本。おもしろいので一気に読めた。LinuxはいまやWindowsに次ぐシェアを誇り、世界中の人々が日々改良をされる無料OS。億万長者になったビルゲイツとは対照的に、Linuxを作った人物はオープンソースというLinuxの性質上、大金持ちにはなっていない。

作者はただ楽しいからOSを作ったのであり、世界中の人々からフィードバックをもらいたかったからオープンソースにした。この本を読んでいると、お金よりも楽しさ、自由を重要と考える作者の考え方がよくわかる。

ちなみに、パソコンの専門知識が出てくる部分は50ページほどで、その他は専門知識がなくても読み進められる。ネット上の著作権侵害が問題になる昨今、オープンソースと知的財産権の考え方に触れられる本です。

■アップルのジョブスが引き抜きに

最高の人材を追い求めるジョブスさん。お金持ちではないものの、Linuxを作った人物として世界中のオタクにとってのヒーローになったリーナスさん。この二人が引き合うのは必然だったのかもしれません。

しかし、ペプシ社長のスカリーを独特の魅力で引き入れたジョブスも、考え方がまったく違うリーナスを説き伏せることは無理だったよう。

「ぼくたちは、根本的に、ものの見方が違っていた。ジョブスはジョブスなのだ。まったく新聞が書いているとおりの人物だった。彼にとって関心があるのは、自分の目標だけ。わけてもマーケティングのことなのだ。ぼくにとって関心があるのは技術面であって、彼の目標や話にはあまり興味がない。」

なんか、ジョブスはデスクトップ市場を支配したいならアップルと手をくもうぜ!と言ったらしい。しかし、リーナスはそんなの関心ありませんとなったみたいです。

まあ、マーケティングには興味がなくて、技術ばっかり興味がある人もアップルにはたくさんいると思う。普通の技術者なら、ジョブスに「世界を変えたくないか?お前の最高の技術をもっとも発揮できるのはアップルだけだゼ!」とでも言われればかなり魅力的だとは思うのですが、リーナスにはオープンソースコミュニティーという、自分の才能を十分発揮する場がすでにあったのが大きかったんじゃないかと。

■なぜ世界中のプログラマが無料で協力するのか

やっぱり、それは楽しいからなのですな。リーナス自身がLinuxを作ったのも楽しいからだったし。

「多少なりとも生存が保障された社会では、お金は最大の原動力にはならない。人は情熱に駆り立てられたとき、最高の仕事をするものだ。楽しんでいる時も同じだ。~中略~オープンソースモデルは人々に情熱的な生活を送るチャンスを与える。楽しむチャンスも。」

ちなみに、リーナスさんは寝るのが大好き。いっぱい寝てこそ、起きている時に精一杯頭を働かせられるのだとか。


【書評】他人と深く関わらずに生きるには


拷問読書今週3冊目。累計106冊目。久々に衝撃的な作品に出会ってしまった。文庫サイズでかなり薄い本なのに内容は激辛。おそらくこの本を読んだ人は、「いやあ、おもしろいなあ」ってなるか、「こんなの普通じゃ無理だよね」ってなるかの二通りだと思う。

著者の専門は生物学。進化の過程や生物学的な視点から、人間関係や生き方などの考え方に対して身も蓋もない展開で語っている。

しょっぱなから、「濃厚なつきあいはなるべくしない」というテーマで始まり、「おせっかいはなるべき焼かない」、「他人をあてにしないで生きる」、「退屈こそ人生最大の楽しみである」、「自力で生きて野たれ死のう」などなど極端な目次が続く。

国家は国民の道具であり、できるだけ規制を少なくするべきだというような主張を読んで薄々感じていたけど、著者はリバタニアン(自由主義差)の様子。政治の仕組みに対する提言なども後半になって出てくる。

■濃厚なつきあいはなるべくしない

「友はいつ分かれてもよいから友なのだ。いつ分かれてもよいという心構えでつきあっているうちに、結果的に三十年も五十年もつきあってしまった、というのが無二の友の真の姿である。」

著者によれば、相手をコントロールしないのが他人とつきあう上で一番大事であり、濃厚なつきあいをすればお互いの対称性が崩れるようです。だから、友とはなるべく淡々とつきあうのがよいと。

まあ、確かにお互い一緒にいて気楽だというの人同士が長く続く気がする。この身も蓋もない意見の中でもなかなか腑に落ちる部分があった。

■他人をあてにしないで生きる

他人に何かしてあげる時は、人はどこかで見返りを求めてやっていることが多い。恩を売った相手が何も返さなければ怒る人は下品であると著者は切り捨てている。だからこそ、誰かを助ける時は無理をしてはいけないと。

無理をした時点で打算的になり、なにかリターンがなければムカついてしまう。自分が好きでやったことが結果的に他人を助けるならば、リターンがなくても怒ることはないと書かれている。

実際に本書を読んでみればわかるけど、このように刺激的な内容が盛りだくさんであります。しかし、そのどれもがなんとも納得できる内容であると感じるのは自分が一人っ子で著者と似たような性格だからでしょうか。

■著者は通っている大学の教授だった

ちなみに、この人は自分の通っている早稲田大学国際教養学部の教授でもあった。授業評価や単位の取りやすさなどが書かれているマイルストーンという雑誌で調べると、学部の人気ランキングトップの教授でもあり、単位の楽勝さでもトップ。授業中の雑談がおもしろいらしい。他学部だけど今度こっそり授業にもぐってみよう。