【書評】大人げない大人になれ


拷問読書

この本はかなり面白かった。成毛さんの本は3冊目なんですが、間違いなく一番面白い。元は成毛ブログの書評が面白くて読んでいたのですが、著者である「本は十冊同時に読め」の冗談のようなぶっ飛んだ内容に軽くファンになったわけであります。

ちょっと前に読んだ「成毛式マーケティング」はあまり新鮮さがなく正直つまらなかったけど、本書「大人げない大人になれ」は一気に読まされた。2時間が一瞬でした。

この本でいいのが、最初に開いたページの著者の写真。机にまわりにプラモデルやら、鉄道模型やら、絵の具セットやら楽しそうなおもちゃがたくさん置いてある。社長なのに、FFオンラインにハマりすぎ、2年で6000時間やっていたというエピソードがあってびっくりする。会社にこないから社員がゲーム空間に入ってきて呼び出しを試みたとか。スクエアエニックスの社外取締役もかねているから、市場調査でもあるとか後付けで軽く言い訳してるのも笑えました。

「我慢なんてしなくていい」とか「キャリアプランは持つな」とか相変わらず天の邪鬼思考なことをつらつらと書いていて、そのどれもがなかなか説得力のある内容。ただ、そのへんはネット上のインタビューで以前から言っていたので特に新しい内容でもなかった。

この本で一番面白かったのが、時間の使い方の項目です。「一点集中浮気型」と書かれたその方法はまさに子供みたいな時間の使い方。興味のあることに集中し、途中で別の事に浮気しそうになったらそのままそっちに集中する。簡単にいうと、本能のままに時間を使えっていう衝撃の内容。

よくライフハックとかで、「1つのタスクに邪念を振り払って集中し、他の事が入ってきたらメモして後からやる」っていう方法があります。こういう定番のハウツーと対局をなす方法だけど、その瞬間その瞬間に一番興味あることに打ち込む浮気型は確かに自然と集中モードに入ってそう。夏休みの宿題を直前まで遅らせるのも集中を高めるのによいとか書いている。まあ、そうだけど、それで間に合わなくなった場合はどうするんだとツッコミを入れてはいけない本です。

最近読んだホリエモンの夢をかなえる「打ち出の小槌」というちょっと手にとるのが恥ずかしい名前の本にもこんな事が書いてた。「一日は24時間しかないので、与えられた時間に集中するのが重要。ちなみに集中するには休息が重要。」まあ、そうだな、でも集中するのが難しいんですよねと普通は考えるけれど、それに対する簡単な答えみたいな内容が「大人げない~」に書かれていた。

「いい時間の使い方をするには、時間の使い方それ自体を考えても意味はない。何に時間を使うか、その振り向ける先を第一に考えるべき。」とあり、ようは自分が熱中することだけをすれば自然と濃密な時間の使い方になるという単純な理屈。

ちなみに、自分の部屋は片付きすぎるほど片付いていて、無駄なものがないのですが、もうちょっと遊べるものをちりばめるべきだなあと思ってきた。Iphoneのアプリも最低限必要なものだけ入れているし。もうちょっと無駄なアプリを入れるべきだと反省し、さっそく「神パンチラ」アプリを購入しました。これはかなり面白い。さっそく来週見せびらかそうと思う。


【書評】発想の視点力


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三谷さんの書く本は基本的にハズレがない。なんで面白いのだろうかと考えてみると、物事の見方の広さや深さが半端ないからだと思う。しかも、堅苦しいビジネスの話も宇宙の話やらSF小説の話やら、歴史建造物の話やらの雑学をからめて楽しく解説してくれる。

本書「発想の視点力」は新しい視点を持つことに焦点を絞っています。たいてい人は直感的に物事を判断して、しっかりと物事を分解して比べてハカルことをしない。この本では、いろいろな比べ方、ハカリ方、深掘りの仕方を解説しています。

例えば、街頭調査ではバイアスがかかりがちな人の意見ではなく行動をハカルとか、統計では異常値に注目して比べるとか。このへんは少しばかり眠たくなる統計の話が出てくるのですが、今年の9月までインターンで通っていた「Midee」という顧客行動分析のベンチャー会社を思い出した。

この会社では、スーパーなどのカメラ映像から、顧客行動を分析して、まさに本書で書かれているような「買わなかった顧客」の行動統計を提供するサービスを行っています。このサービスを展開するうえで、営業先にデータの価値を分かってもらうのが一番難しいところなのですが、本書を読めばかなりの部分まで理解してもらえそうだなと読んでて思った。

三谷さんの本だと、前作の「正しく決める力」のほうが全体像のつかみ方みたいなイメージで、「発想の視点力」は具体的な方法のような気がする。そういう意味では、「観想力」とちょっと似ている。「PTA会長がトップコンサルタントをやってみた」は子育て本なので、誰かに教える時のヒントがちりばめられています。

一番おもしろいのは間違いなく「突破するアイデア力」。これを初めて読んだ時は衝撃的ででした。何げなく自分たちが目にしている事を、ここまで深く掘り下げて考える人がいるのかとびっくりした。五重の塔がなぜ作られたかをあそこまでドラマチックに解説してくれる人はいません。「湾岸ミッドナイト」という車漫画に出てくる、家族や子供を捨ててチューニングに命をかけるキャラについても、めちゃくちゃ熱く語るしとにかく面白い。

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【書評】希望を捨てる勇気


拷問読書

今週の1冊。累計131冊目。言いたいことをブログでガンガン言う暴れん坊経済学者、池田先生の本。出版社が考えたのか、タイトルもなかなかキャッチーであります。

基本的にブログで書かれていることがそのまま本になった印象。主張をかんたんに要約すると以下のようになります。

1解雇規制をなくし、労働力の流動化を高めろ。そしたら人的資源が最適配分される。

2少子化の日本が将来成長するには、個々人の生産性を高め、政府は起業家を応援しろ。

ほかにも細かいことは書かれているのですが、個人的に一番重要な主張はこの2つなんじゃないかと思っています。

1に関しては、解雇規制をなくせば企業はもっと労働者を雇いやすくなる。そして、労働者も転職がしやすくなり、自分にあった職場に行き着く可能性も高まる。そうすると、労働資源が最適配分されて生産性が高まる。といった感じです。

2に関しては、インフレ誘導とか、金融政策とか、小手先の政策では根本的な問題解決にはならない。国民一人一人が能力を高めて一人当たりの生産性を高めないと意味がないといった話です。

どちらもその通りだなあと思ってはいるのですが、特によく考えるのが1です。簡単に言えば、フリーランサー契約を当たり前にして、最低賃金規制なんてものをなくせば需要と供給のバランスが保たれるって話になる。

よく言われる反論として、それだと弱者を見殺しにすることになるという意見。優秀な人はよいけれど、完全な格差社会になっちゃうじゃないかと。自分の考えとしては、教育や再就職のチャンスを政府が手厚く保護して、その後の格差はあっても全然よいのじゃないかと思っております。スタート地点の格差、つまり教育の機会は平等に近づけて、その後は自由に競争されるのがいいかなと。

しかし、こういう社会だと生来の怠け者が困ります。あまり働くのが好きじゃない僕のような人です。いや、もちろん自分の夢中になったことはガンガンやるのですが、基本的に仕事が大好きだよっていう人だったり、競争大好きっていう人ばっかりじゃないと思う。

そういった人や、社会的弱者が好きなことに打ち込めるよう、最低限の生活を保障しようというベーシックインカムという制度が最近流行っている。とにかく仕事大好き人間はガンガン働いてガンガン稼いでもらって、そこから出る税金で弱者を保護しようと。予算確保が現実的にめちゃちゃ厳しいみたいだけど、夢のある話であります。

また、1の主張のように上手くはいかないっていう意見もある。「雇用の常識・本当に見えるウソ」に書かれていた一番印象に残っている部分がそこでした。この本によると、解雇規制をなくして雇用の流動性をなくせば、ニートやフリーターの親達が失業し、ニートやフリーターがますます困窮してしまうと書かれてた。

さらに、「アニマルスピリット」には市場原理の力を過信しすぎると失敗すると、ロシアの例を挙げて書かれていました。それまでの規制や慣習を無視して、いきなり規制をとっぱらって市場原理の動きに期待するのは無謀だと。

いろいろな意見を読んでいると、様子を見ながら段階的に実施するのはなんでも重要だなあと思いました。正直、どうすれば一番よいのかはなかなかわかりません。

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【書評】ロングテール


拷問読書 今週の一冊、累計130冊目。ひさびさに商学部っぽい本。

実店舗ではスペースに限りがあるため、いかに売れ筋商品を陳列するかが重要。でも、アマゾンなどのネット販売では必ずしも売れ筋ではないマイナーな商品が売れ続けたりする。こういった、たくさんのニッチ商品が長期的に売れ続けるロングテールという言葉を流行らせた本です。

ロングテールの考え方はわかりやすく、事例もアマゾンやネットオークションのebayなど、ネット上における様々なロングテールを紹介しています。IT関連雑誌であるWired.newsの編集長が出した本なので、bittorrentだったりネットゲームであったりと、やたらとネット関連の話題が多くておもしろい。「イノベーションのジレンマ」みたいな固いノリで読み始めたらびっくりしました。

この本を読んでいる時に、前に読んだセブンイレブン関連の本を思い出した。スペースの少ないコンビニでいかに陳列するか。あまり同一商品を並べすぎてもお客を混乱させる。売れなくてもよいから、売れ筋商品を引き立たせるために高価格商品を陳列する。こういった商品陳列の基本を詳しくコンビニ本では紹介されていたけど、ロングテールの概念はそれとはまったく違ってて面白い。

ロングテールの場合、そもそもネット販売だから陳列スペースは無限にある。そして、在庫リスクも店舗運営に比べて少ない。だから、商品は多ければ多いほどいい。でも、無数の商品を整理する仕組みがもっとも重要と書かれています。

確かに、ちゃんとオススメのものが整理されていたら、選択肢は多ければ多いほどいいのは間違いないですな。普通はお客が迷わないように店側で勝手に商品数を絞るけれど、しっかりと整理される仕組みさえあれば問題ないし。

最近、文化祭でホットドッグの出店をやったのですが、商品が3つあるだけでも買う人たちは結構迷っていた。黒こしょう、ハーブ、ミートソースの3種類だったんですが、そのまま紹介しても迷いまくりでした。スタンダードが黒こしょう、タマネギ多めがハーブ、辛めが好きだったらミートソースと紹介してようやく判断しやすくなってた。それでも悩む人はたくさんいて、個人的なオススメを紹介してようやく決定の時とか。その時々で売れてない種類をオススメして、在庫調整してたのは秘密です。

この本で書かれているように、多数の商品を選択しやすいように整理する仕組みがめちゃくちゃ重要で、商品を比較しやすく、選びやすいサイトが勝ち残るのだろうなとしみじみ思いました。アマゾンは評価が多くて参考になるし、関連商品もオススメしてくる。ヤフオクはもっと商品を選びやすくなったら凄いことになりそうです。

世の中にある様々なロングテールの事例も面白いけれど、無数の商品を整理することの重要性がこの本の一番のポイントなはず。いかに整理して、選びやすくするかについては書かれてない。ここらへんはサイト構築の細かい仕組みになりそうですな。

実はこのブログもカテゴリ分けとかめちゃくちゃ使いづらい。過去の記事にさかのぼるのもやりにくいし。改善したいけど、めんどくさくて手をつけてないという。。


【書評】眠れなくなる宇宙の話


拷問読書 今週の一冊、累計129冊目。

本書では古代の宇宙研究の歴史からはじまり、近代までの宇宙理論の発展を気軽に知ることができる。有名なビッグバン説や、最新の宇宙理論まで素人でもわかりやすいように説明されています。宇宙好きだけど、そこまで詳しくない人にオススメ。

宇宙のことを考えるとワクワクするわけです。何億光年と離れた星で、どんな文明社会が発達しているかを想像するだけでおもしろい。宇宙の広さと自分の存在を比べると、どんな悩みも圧倒的に小さいものに感じる。

だから、なにかに悩んでいる人や軽く落ち込んでいる人には、適当に宇宙の話をします。とりあえず最初は話を聞いておいて、「まあ、気持ちもわかるが、宇宙の広さを考えると、地球なんてゴミみたいなもんで、その中のお前の存在はチリみたいなもん。だから、お前の悩みなんて小さすぎるから悩むのは損!」と、こんな感じでまとめるわけです。

ただ、宇宙の研究は私たちの生活にそれほど役にたたない。宇宙の構造に対する様々な説も常に変わり続けている。莫大な予算がかかる宇宙開発プロジェクトよりも、貧しい人々を救うべきだという声もあります。

じゃあ、なぜ人間は宇宙のことを研究するのか。それは人間が本来もつ「知りたい」という欲求を押さえられないからだと本書では書かれている。また、人間は非合理な行動をするけれど、本来は合理性を追求したがる動物らしい。

だから、神が人間を作ったという説や、地球の果てまでいくと大きな滝があってそこで海は終わるといった話に納得できない人が出てくる。その人たちはどうしても合理的じゃない説明に納得できない。万有引力を発見したニュートンや、地球は平らではないと考えたピタゴラスは人の何倍も知りたいという欲求が強かったのだろうと思います。

さらに、僕のような一般ピープルでも宇宙のことを勉強するとよいことがあります。それは、自らを客観的に見るのに宇宙の話は役に立つからです。最初の話に戻るけれど、宇宙という圧倒的な存在について考えると、自らの存在なんてチリみたいなもんなのです。

つまり、ポジティブシンキング本を読むなら、宇宙の本を読むといいのではないかと。

ちなみに、宇宙関連の漫画では「プラネテス」、「宇宙兄弟」、「度胸星」などがおもしろかった。

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【書評】天才数学者はこう賭ける


拷問読書 今週の一冊、累計128冊目。

パウンドストーンの本でおもしろそうなのはほとんど読んでしまったのですが、この本だけはちゃんと読んでなかった。ということで、久々にパウンドストーン先生の本を読んでみた。個人的にパウンドストーンの最高傑作は最新作の「選挙のパラドクス」だと思っているのですが、この本もおもしろい。

この本では、現代のコンピュータ技術の基礎となる理論を構築した天才数学者、クロード・シャノンにまずスポットライトを当てています。この人は相当な天才数学者であったらしく、もちろんノーベル賞も取っている。

また、ブラックジャックの必勝法である、カード・カウンティング手法を開発したエド・ソープも中盤から登場します。基本はこの2人の天才数学者が、ラスベガスでのギャンブルや株式市場に高度な数式を駆使して挑んでいきます。

株式市場は効率的なので、必勝法などは存在しないという通説に真っ向から挑むクロード・シャノン。ちなみに、効率的株式市場についてはウォール街のランダム・ウォーカーが詳しいです。この本はすごくいい本で、読むと株で一儲けする気がなくなります。なぜかというと、投資家は長期的には市場に勝てないよという理論を説得力ある形で延々と書いているからです。(最近の金融市場では適用できないことも多いらしいけど)

ランダム・ウォーカーの結論はこんな感じ。「投資家は長期的に市場に負けるのだから、自分に優良株を見つける才能があると思うのは間違いである。個人投資家にとって、市場全体と同じ値動きをするインデックス株をちびちびと10年以上買い続けるのがもっともよい戦略である」

まあ、こんな形で効率的市場仮説の学者にとって、株式投資に必勝法は存在しないというのは普遍の事実のようです。もし必勝法などが開発されても、みんながそれをすぐに真似するため、必勝法は即座に使えなくなるという理屈です。

しかし、世界第二位の富豪である投資家バフェットのような例外がいるのも事実。天才数学者クロード・シャノンはケリー基準という手法を使って株式市場で驚異的な成績を残したらしい。

この本の醍醐味は天才的な頭脳を持つ数学者が、必勝法らしきものを駆使して株式市場やラスベガスに打ち勝とうとする過程。ブラックジャックでは確かに必勝法が確立された。でも、株式市場で勝利を手にしたシャノンの手法は意外と地味で、バフェットのようなファンデメンタルを重視した長期投資だったというのがまたおもしろかったりします。

で、この本のなにが最高かというと、天才数学者がその抜群の頭脳をギャンブルという世俗的なことに使いまくっているところ。シャノンはなんの役にも立ちそうにないことの研究にいつもはまっていますと自ら言っている。株だけに限らず、彼の研究室には不思議なオモチャでいっぱいだったらしい。

ソープはギャンブルで大もうけするためラスベガスを渡り歩いて大金を稼ぎまくります。「天体物理を研究しています」とかだったら学者っぽいけれど、金儲けにダイレクトにつながることをひたすら研究している姿勢が最高でありました。

ちなみにソープが開発したブラックジャックの必勝法を使って、MITの天才学生たちが荒稼ぎする「ラスベガスをぶっつぶせ」もおもしろかった。特に、奨学金のために圧迫面接を受けている最初と最後のシーンがいい。

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【書評】サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領


拷問読書 今週の一冊、累計127冊目。

現役のフランス大統領サルコジのおもしろさがよくわかる本。おもしろくて読みやすい。著者はフランス支局で働く朝日新聞の新聞記者。サルコジへの取材を通し、この変な大統領に魅力に取り付かれて本まで書いてしまった。

まず、サルコジは一国の大統領とは思えない言動や行動を繰り返す。暴徒を起こした若者をクズ呼ばわりしたり、テレビの前で人を罵倒したりする。結婚は3回で相手はスーパーモデル。ここまでで十分おもしろいのに、休日の趣味がスポーツ新聞の精読。こんな感じで、ネタとして楽しすぎる大統領なわけです。

じゃあ、なんでこんなメチャクチャな奴が大統領なんだろうと普通は思う。ところが、サルコジの言動や行動は綿密な計算にもとづいている。とにかく自分を演出するストーリーテリングにたけています。

市長時代のサルコジが有名になったエピソードとして、人質犯と自らが交渉を行った話がある。爆弾を持った犯人を説得し、見事人質を解放してヒーローとなる。一歩間違えれば死ぬので普通に凄いサルコジ。でも、交渉前に心理学の専門家と犯人の精神状況を分析していたり、解放後に自分がテレビで目立つためのマスコミをしっかり準備したりと、したたかさにたけているサルコジさんであります。

最近読んだ「アニマルスピリット」の中でも、人間は必ずしも合理的に行動しないため「物語作り」が重要な要素となると書かれていた。そういう意味でサルコジは、自分の物語を演出する才能が突出していそう。

国民の支持を得るための政策立案、普段の行動も計算して行うサルコジ。その裏には、一流のコンサルティング会社であるボストン・コンサルティングのアドバイザーがついているのが驚き。大統領のイメージ戦略に税金が使われているというのも変な話だ。

一歩間違えればヒトラーみたいな独裁者になりそうな人物なので、サルコジ反対派の国民も多い。でも、その分熱狂的なファンも獲得している。全員に好かれるよりも、ある程度の固定ファンを獲得すればよいという手法なのだろうなあと読みながら思いました。


【書評】アニマルスピリット


拷問読書 今週の一冊、累計126冊目。

人間は必ずしも合理的な行動をするわけではない。その時々の状況に応じた心理であるアニマルスピリット、この存在が経済を分析するうえでとても重要になってくるという本。行動経済学の視点から、それをどのように経済政策に当てはめるべきかという観点まで進めている。そのため、「予想通り不合理」などの行動経済学の導入本よりも一歩進んだ内容となっています。

読み始めて思ったのが、思ったより内容が難しいということ。自分は数学がからっきしだめなので、数式がズラズラと出てくる経済本はまず読まない。もちろんこの本にも数式は出てこないのですが、書かれている内容がちょっと予想より難しかった。少なくとも、「予想通り不合理」や「人は意外に合理的」のような読みやすさはない。

とはいっても、この本はかなりいい。今まで自分が持っていた経済に対する考え方を変えさせられてしまいました。「ふむふむ、そうですよね」っていう本は結構あるけれど、「うーむ、ちょっと今までの考え方は間違ってたかも」っていう本に巡り会う機会はなかなかない。そういう意味ですごくいい本でした。

まず、自分は「不道徳教育」や「ハイエク」に影響されて以来、市場原理にできるだけ任せる政策が一番よいと思ってきたわけです。大きな政府より小さな政府で、できるだけ政府の介入を少なくすればもっとも効率よく世の中が動いていくだろうっていう考え方です。簡単な例でいうと、解雇規制や最低賃金などの規制をなくし、雇いやすく、雇われやすく、辞めやすいシステムになるほど人材の流動性が上がり、それぞれにもっとも適した職場にたどり着ける確率が上がるだろうっていう考えかたです。

こうなると、どこまで政府が介入するかの線引きが難しくなってきて、究極的にはすべて民営化で採算のとれない地方はガンガン切り捨てることになる。極端な話、生まれたところで人間を差別するのも変だし、規制を取っ払うのであれば移民も完全に受け入れようって話しにもなる。

このように、規制をなくして市場原理に任せるほうがいいのだけど、どこまで政府が介入すれば一番いいのかはよくわからないと自分では思っている。経済学者の間でもここが一番意見の分かれるところなんだと思います。

さて、この本のおもしろいのは、こういった「規制のない自由市場を作り出し、市場原理に可能な限り任せるべきだ」という考えに対して、「人間はしばしば不合理に動くから政府が市場に介入しなければいけない」といったことを書いているところです。格差社会になるからとか、弱者を切り捨てることになるといったよくある理屈で完全自由市場に反対しているわけではないのが自分にとって新しかった。

つまり、人間は不合理な生き物だから、規制の少ない自由市場であっても、経済学者の思うような均衡状態にならない場合があると主張しています。自由市場に変更して成功したポーランドの例や、市場が大きすぎてこれまでの慣習などの原因から失敗したロシアの例など、実際に市場原理が失敗した例も書かれていておもしろい。

特におもしろいのが、「なぜ失業者が出るのか?」という項目。経済学的に見れば、雇ってもらえないならば賃金を落とせば両者の均衡が保たれるといった単純なお話らしい。だけど、雇い主側は従業員が他の会社に簡単に行かないように、実際の能力より高い給与を支払うインセンティブが生じているのだとか。この上澄みが不均衡を生み出し、人材の流動化への壁となるようです。このへんは、「マーケットの馬車馬」に書かれていた話と似ている。

前々から読もうとは思っていたけど、読んでよかったです。


【書評】飛ぶが如く 10巻


拷問読書 今週の一冊、累計125冊目。

最終巻ではとうとう西南戦争が集結。西郷隆盛が戦死して反乱軍が敗れ、勝利した官軍の大久保利通もその後まもなく暗殺される。日露戦争を描いた「坂の上の雲」の次に読んだ「飛ぶが如く」だったけど、期待通りのおもしろさでした。

今まで上記2冊のような長編歴史小説は読んだことがなかったけれど、読みながら一番印象に残るのはその時代を生きる人々の価値観。現代を生きる人たちと違い、時代が変われば世の中の常識やこう生きるべきとされる考えもまったく変わるのだなあと感じます。

例えば、「飛ぶが如く」の薩摩士族たちはその身分が保障されなくなろうとしている武士たちであり、幼い頃から戦場で死ぬことがもっとも幸せで名誉であると信じて生きてきている。この小説の薩摩士族たちは、明治政府による国家というものが作られる過程で、武士というアイデンティティを奪われることに対する憤りから国家に対し反乱を起こしています。

「坂の上の雲」の登場人物たちは、明治政府により作られた国家というものに命を捧げるために生きていきます。日本を侵略しようしてくる大国ロシアに対し、勝てなくてもいいからなんとか植民地にだけはされないよう国を挙げて戦った時代。ここでは、国家のためになにができるかを生きる目的としている人たちが主役です。

まあ、当時の国民みんなが似たような価値観を持っているわけではないし、庶民の間ではなんとなく生きている人々も数多くいたと思う。それでも、「あなたはなんのために生きているのですか?」と聞かれ、「ロシアの侵略から日本を守るためです!」とか、「政府を討伐する西郷先生のために戦うことです!」とか即答できる人々は単純に凄いし、尊敬してしまうわけです。

今の時代から見れば、藩や国のために自分の命を捧げるのは嫌だなと思うかもしれないけれど、使命を持って生きることは当人にとっては幸せなことだと思う。そんな事を考えていると、もし100年後の日本人たちが現在の日本人の価値観を学んだ時にどう感じるんだろうなと思いました。

仕事への価値観がまったく変わっているかもしれないし、男女関係への価値観も同様かもしれない。結婚して子供を作って、いい暮らしをするのが一般的な幸せではなくなっているかもしれないし、そういう根源的な価値観はいつまでも変わらないのかもしれません。

このように、昔の軍人たちの生き様やそれぞれの持つ使命にしびれながらも、時代や立場によってまったく違う価値観が特に印象に残った。当時の人々は生き方の選択肢が現代に比べて極端に少なかったはずなので、迷いのある人が少なかったのだろうなとも思う。自由というのは素晴らしいけれど、選択肢が多ければ多いほど人間の悩みも多くなるんだなとも思いました。


【書評】ジョゼ・モウリーニョ


拷問読書今週のノルマ2冊目。累計29冊目。その言動と実力により、サッカー界でもっとも注目されている監督、モウリーニョ本人公認の本。モウリーニョの友人であるジャーナリストが側から見たモウリーニョの記録を本にしたという形。



・以前から読みたくて期待していた本だったんですが、正直期待ハズレだった。

モウリーニョの生い立ちから詳細な人物像に迫るというような自伝本を期待していたけど、いきなり監督就任前から始まる。

さらに、モウリーニョがなぜあれほど一流選手達から信頼されるのかといった、コーチングに関する部分や、モチベーターとしての秘密に迫る部分もほとんどなし。。副題が「King of 監督」誕生ストーリーなのに、これじゃイカンですよ。。

・実際のところ、本書はアシスタントコーチからポルトの監督としてチャンピオンズリーグ優勝までの軌跡といった本。

本の大部分は、当時の監督をしていた試合の裏側などを淡々と書かれている感じで、サッカーに詳しくない人はまったく楽しめない内容。詳しい人でもポルトガルリーグ自体がマイナーなので、当時のレイリアやベンフィカ、ポルトといったチームの選手名を把握するほどのマニアは日本では少数派だと思う。

当時のチーム事情を知っていなくても楽しめる内容だったら無問題なんですが、困ったことに当時の試合の展開の解説とか、選手の起用理由などが大半。それについて淡々と書かれている部分が多いのでかなり眠くなってしまう。

僕はプレミアリーグとかは好きなのでよく見るんですが、当時のポルトだとマッカーシー、デコ、パウロ・フェレリラ、カルバーリョなど、のちのちビッグクラブに移籍した選手ぐらいしか分からず、特にその選手とモウリーニョとの逸話が書かれている部分が多いわけでもなし。

もし、これがチェルシー就任後の話も書かれていたら多少は面白い内容になっていたんだと思う。チェルシー時代だとレギュラー組から控え選手まで知っている選手が増えるし、その当時のフォーメーションの解説も当時を知っていると面白いはず。

残念ながらこの本はチェルシー監督就任で本が終わっている。チェルシー監督就任までの裏話も、アブラモビッチの豪華な船で話をしたとか新聞で読んだような内容がほとんどで特に目新しい部分もなし。ダメダ。。

・まあ、それでもモウリーニョとクラブの経営陣との政治的な話があるパートはそこそこ面白い。

この本を読むと、会長の方針と監督の方針が一致することの重要性が分かります。モウリーニョは会長に自分の指導方針をプレゼンして、自分の納得するやり方をさせてもらわないと仕事を引き受けない方針を貫いています。

ただ、クラブの会長やオーナーは結構コロコロ変わる。だから、前会長と監督の方針が合致してたとしても、会長が変わった瞬間からその監督は次期監督が決まるまでの代役になってしまうのがつらいところ。

不振のベンフィカを建て直して抜群の成績を残しながら、前会長が選挙で負けてしまったためにクラブを追われた経緯や、その当時のクラブ経営陣がいかにモウリーニョを辞めさせようと嫌がらせをする話などはなかなか面白いです。

・ビッグクラブではないレイリアを指揮した時

ベンフィカの監督を解雇されてから、モウリーニョは一時的にレイリアというチームの指揮をとります。ここで、モウリーニョは選手達に、「おそかれ早かれ俺はビッグクラブに行く。でも、このチームで見込みのある選手は一緒に連れて行く予定だ」といって選手のやる気を高めたらしい。

このへんのくだりとかはなかなか面白い。こういう、いかに選手のモチベーションを上げるか、といった具体的な部分をもっと掘り下げてほしかったしだいであります。