【書評】貧乏はお金持ち


拷問読書今週1冊目。累計104冊目。不道徳教育やマネーロンダリングを書いた橘玲の最新作。前作から数年ぶりなので久々の新刊。不道徳教育は究極の自由主義を唱える本だったけど、この人の書く本はほぼ金融関係の本。ちなみに今まで不道徳教育「マネーロンダリング入門」と読んだけれど、どちらも抜群の出来。

本書も発売前から当然のように予約。ワクテカしながら読んだけど、期待どおりおもしろい。本書の内容を簡単にいうと、税金を出来るだけ払わないようにし、あわよくば国家から補助金をもらう。個人で作れる“マイクロ法人”という法人格について解説している。

作者は不道徳教育というリバタニアズムの本を訳しているぐらいだから、もちろん自由主義者。この本のコンセプトも自由に生きるとは素晴らしいというもの。法人格というもうひとつの人格を作り上げ税金をひたすら下げ、国から超低金利で融資を得るような方法まで紹介している。

「会社をつくることによって、個人とは異なるもうひとつの人格(法人格)が手に入る。そうすると、不思議なことが次々と起こるようになる。(中略)まず、収入に対する税負担率が大幅に低くなる。さらには、まとまった資金を無税で運用できるようになる。もっと驚くことに、多額のお金をただ同然の利息で、それも無担保で借りることができる。」

法人は税金対策として有利なのは誰もが知っていることなんですが、その恩恵を個人単位で受ける方法が本書では解説されている。それも、しっかりとした会社を作るとかではなく、ただ書類上は法人格ではあるけれど、実質はただのフリーランサーといったやり方。

フリーランサーの人ならこの本の言うとおりにやればいいだろうし、会社に勤めていても業務委託契約みたいなものを会社と結べば可能な方法。

もちろん、大多数のサラリーマンは会社が認めてくれないので実現は厳しいかもしれない。でも、税金を合法的に払わなくする方法、法人格を使って有利な融資を受けることが実際にできるといった仕組みがあるのは知っているだけでもおもしろいはず。

「貧乏はお金持ち」というタイトルのもとになった考え方は、社会的に優遇されているのはお金持ちではなく、自営業者や農業従事者、中小企業経営者などの社会的弱者であるというもの。彼らは制度がもたらす恩恵を享受でき、本書の狙いはその恩恵を普通のサラリーマンにも応用しようとしている。

橘玲本は、制度のひずみを利用して合法的に得をしようといったものが多い。

「特定のひとにだけ分配された利権は政治的に強く守られているため、容易なことではなくならない。こうした不平等を更正するもっとも効果的な方法は、政治や社会を声高に非難することではなく、より多くのひとが利権にアクセスできるようにすることだ。そうなれば制度そのものが維持できなくなるから、否応なく社会は変わらざるをえない。」

中盤は具体的な節税方法やキャッシュフローの考え方などテクニカルな部分が多いけど、前半だけ読んでもおもしろいはず。閉塞した経済状況で、ただたんに社畜として働き続けても厳しい未来が待っている。この本が言うように、いかに国家を道具として使いこなすかが自由に生きていくための重要な点となってきそう。

まあ、稼ぎぶちがない状態では税金気にしてもしょうがないし、なにもないところからはなにも生まれないので、手に職つけるっていうのが一番重要なんですが!


【書評】走ることについて語るときに僕の語ること


拷問読書今週3冊目。累計103冊目。村上春樹の本は「ノルウェーの森」読んでもよさがあまりわからなかったけど、この本はなかなかおもしろい。走ることについて語る本なので、小説のようにエロい話はいっさいなし。走ること以外にも春樹さんの生活、小説家になろうと思った時の話なども出てくる。

■つきあいより生活習慣を優先する

ジャズバーを辞め、生活習慣を一新した春樹さん。朝5時に起きて夜10時には寝る。早朝の集中できる時間帯に仕事を片付ける。その後の時間に走ったり、雑用やあまり集中しない仕事をする。日が暮れるともう仕事はしない。音楽を聴いたり、リラックスして早めに寝る。

「もう客商売はやめたんだから、これからは会いたいと思う人にだけ会って、会いたくない人にはなるべき会わないようにしよう。」

「僕はもともと人付き合いの良い人間ではない。どこかで本来の自分に復帰する必要があった。」

こういう生活だから夜の誘いは片っ端から断ることになるらしい。しかし、落ち着いた生活を優先するためにはみんなにいい顔はできないと春樹さんは言う。

健康のためには早寝早起きとか当たり前なんだけど、現実のサラリーマンは仕事を自分の都合で切り上げられないのが大半ですよね。人間の機能的には春樹さんのような仕事の仕方が最も効率的で生産的でもあるはずなのに、普通の仕事だと厳しいですわな。

こんな生活を選べるのは特殊な職業についている人だけっていうのが現実。石器時代の人間は1日に1,2時間ほどしか働かず、他の時間は絵を描いたりと自分の好きなことをしていたらしい。こう考えると、技術が進歩して生活が豊かになっても生きる時に感じる幸福度は昔のほうが遙かに高そう。

ただ、一度便利なものを経験したり、発達した医療などを知ってしまうと古い生活に戻るのに強い抵抗があったりする。技術の進化を享受しつつも人間らしい生活ができる時代っていうのは期待できそうにないなあ。となると、春樹さんのような生活が選べるのはやっぱり特殊な才能があって、特殊な職業を選んだ人だけってことになるというオチ。

■走るのを人には勧めない

春樹さんは自分が走りたいから走ると言う。人には絶対に進めない。小学校の体育で長距離走を走らせるのも、嫌いな人には拷問だからよくないよってほどのスタンス。

走る時には小説の構想を頭の中で考えたりもするし、いろいろな事を誰にも邪魔されずに考えられる貴重な時間だそうだ。さらに、おもしろいのは走ることによって自らの老いを認識できるところにあると書いてあった部分。

以前の自分ならこの程度の距離を走っただけでは疲れてなかったのに、おかしい!となる。こういう時に人は自分が年を取っていて、残された時間が有限であることを肌感覚で認識できるそうな。

そういや元大リーガーで読書家の長谷川も似たようなことをインタビューで言っていた。毎日、練習メニューをメモして体の疲労感を記録すると、昔と今の体の違いがしっかりとわかるらしい。

日本どころか世間で認められている作家だから、これだけ非属をつらぬいても誰にも文句は言えないですな。ただ、今の春樹さんを作ったのも非属をつらぬいた結果でもあったり。


【書評】快人エジソン – 奇才は21世紀に甦る


拷問読書今週3冊目。記念すべき累計100冊目! 去年の10月頃からとりあえず続けましたが、まさかここまで続くとは。。開始当初はそこまで本好きではなかったけれど、今では本なしでは生きていけない!という具合にまでなりました。いやあ、人間何歳になっても始めるのに遅いなんてことはないもんですな。

記念すべき100冊目は題材は超有名人、世界の発明王エジソン。こいつがこんなに面白く、切れてる人だとは予想外だった!「ご冗談でしょうファインマンさん」に通じる切れっぷり、破天荒ぶり。この本はお薦めです。

■ジョーク大好きエジソン

1%のひらめきと99%の努力という言葉で有名なエジソン。努力の人というイメージが世間では強いが、本人はひたすらジョークばかり考える性格だったようだ。新技術や改良のアイデアが生まれるたびに興奮して大声でジョークを連発。12歳の頃から新聞や雑誌で読んだジョークのネタを手帳に記録していた。

面白い話を考える人とは、普段から頭の中にストックを仕入れているらしい。おもしろさとは才能ではなく、準備段階で決まる。関西人なのにおもしろくないとたびたび言われる僕にも希望が見えてきました!



■少食でほとんど寝ないエジソン

短眠を研究するとよく例に出されるエジソン。人間は食物を消化する時が一番エネルギーを使い、眠くなります。なので、胃腸に負担をかけない食事をできるだけ少食で生活する省エネ体質が短眠のキーポイントとなります。

エジソンもおなかが減った時だけ、少量の食事を食べるというやり方で研究に没頭した。とにかく一心不乱に研究に打ち込み、眠くなったらその時に寝るという生活。時間というようなつまらない概念に自分の人生を左右されたくないという方針で、研究所には時計もおかなかったそうな。

人間はしょせん自分の好きなことしかやらない。好きなことさえやらせておけば、やめろといってもやめない。しかし、度を超せば健康を害したり、作業効率が低下する。食えば食うほど睡眠時間が長くなるので、それだけ発明のチャンスが失われるとエジソンは語っています。

逆に、アインシュタインは毎日10時間以上眠ってたそうな。ちなみに、少食で睡眠時間を削るというのは何回も挑戦していますが、想像以上に過酷です。確かに、少食にすれば健康にもなるし、睡眠の質も高まる。でも、食欲という人間の欲に打ち勝つのは本当に難しい。そこまで我慢して人生楽しいのか?っていう気分にもなります。試したことない人は健康のために一度トライしてみてください。

■音楽が想像力をかきたてる

エジソンによると、音楽ほど人間の想像力をかきたてるものはないそうな。発明中はよくお気に入りの音楽を流し、気持ちをリラックス状態において仕事していた。

「人の感情に訴え、心を引きつける柔らかなリズムのほうが研究や作業の効率を高めることを明らかにすることができた。」

具体的にはラグタイムや、自然の音などをよく聞いてたらしい。

ちなみに、僕も音楽をかけながら集中するというのも何回か試したことがあります。どうもポップミュージックだと歌詞が気になって集中できないというのが初期の挫折。しかし、どんな音楽でもだんだん集中さえしてこれば気にならなくなり、後は作業ストレスを軽減する効果、つまり長時間の作業を可能にする効果があったりする。

自然の音で試してみたことはあまりないなあ。今度やってみよう。

■1%のひらめきと99%の努力の真実

有名なこの言葉ですが、エジソンが言っていた内容が曲解されて伝わっているのが真実らしい。エジソン自身は、1%のひらめきが大切であり、それが駄目では99%努力しても無駄だと言っていた。野心と想像力があり、昼夜を問わず働き続ける元気があれば成功すると後日語っている。

大の読書家であらゆることに興味を持ったエジソン。そんなエジソンの切れ具合を堪能できる。この本はおもしろいです。


【書評】ライアーズ・ポーカー


拷問読書今週1冊目。累計98冊目。この本は最高におもしろい。80年代のウォール街における一流投資銀行の真実を、実際にソロモンブラザースで働いていた著者が実体験をもとにして書いています。

本は内容はいまは亡き投資銀行であるソロモン・ブラザースがひたすら儲かっていた80年代の話。ボーナスに数千万円をもらう社員たちの様子や、ハチャメチャな組織の実態などが描かれている。

著者であるマイケル・ルイスの本では、マネー・ボールが一番おもしろく、「ネクスト」「ニューニューシング」は期待したほどではなかったのですが、この本は「マネーボール」と肩を並べる内容だった。

有名作家の処女作にハズレなしという法則を再確認。さらにいうと、「さらば、財務省」のように著者自身が実際に組織にいた経験から書いているのも大きい。ここまで内部事情を暴露しちゃっていいの?って思うぐらい赤裸々に書いているのも「さらば、財務省」と同じだし、だからこそ飽きずにぐいぐい引き込まれてしまう。

この2つの本で共通していたのは、どちらの作者も組織を追放されても食いぶちがあったこと。「さらば、財務省」の高橋氏は財務省に戻れなくても生きていける十分な専門知識を持っていたし、マイケル・ルイスもジャーナリストとして生きていける選択肢があった。

2人ともスーパーエリート達が集まる巨大組織に変わり者として入り、組織から離れても生きていけるという余裕があったからこそ客観的な視点を持つことができたのかも。

ちなみに、今回の世界同時不況を引き起こしたひとつの要因に、エージェンシー問題というのがあります。会社の株式トレーダーや債権トレーダーは損をしても全額責任を負うわけではなく、それならひたすら大勝負をしたほうが合理的になってしまうというやつ。

本書は債権トレーダーの話なので、顧客のお金でガンガンリスクをとって失敗したら顧客が破滅するといったモロにエージェンシー問題な場面もたくさん出てくる。投資銀行業界に興味がある人でもない人でもこの本は楽しめるはず。年収数千万円を稼ぎ出す投資業界のスーパーエリート達の実態を垣間見れます。


【書評】渋滞学


拷問読書

今週3冊目。累計97冊目。著者は東京大学の教授で渋滞の専門家。数学の難しい知識も所々出てくるのでけして読みやすい本ではないけれど、渋滞のメカニズムをいろいろな視点から解説していておもしろい。

■渋滞改善の肝

渋滞は集中的に混雑する部分から起きる。高速道路では料金所だし、ファーストフード店では注文するカウンタ。とにかく、この部分を改善することが渋滞を解決するうえでもっとも重要となるらしい。

上記のような渋滞のメカニズムと、世の中にある様々な現象の、渋滞が起こらないようになっているメカニズムとの対比がおもしろい。例えば、水道のホースは先っちょをつまんで口を小さくすると自然に水の勢いが強まる。砂時計も中心の狭い部分では砂が落ちるスピードが速まる。

こうやって、渋滞が発生しないようなメカニズムが自然現象では働いている。とにかく混雑が集中する場所でのスピードをいかに速めるかがポイントとなる。技術の進化により渋滞が緩和された例が高速道路のETC。以前は渋滞全体の30%を占めていた料金所渋滞がETCの導入によってだいぶ緩和された。

この他にも、電車でのスイカやパスモの普及。スイカをタッチする自動改札口は、タッチする部分を少し斜めにするまでは、お客がタッチする場所を認識するまでコンマ秒単位のズレが発生していたとなにかの記事で読んだ記憶があります。斜めにしたことによってコンマ数秒の認識速度が改善され、自動改札口前での長い渋滞を緩和することに大きな進歩があったとか。



■高速道路では追い越し車線が得なのか



混んでくると、走行車線と追い越し車線での渋滞状況が逆転するらしい。比較的すいている時は追い越し車線のほうが平均速度が速いけれど、混雑してくると走行車線の平均速度のほうが速くなる。

これは比較的早い段階から始まり、車間距離が200mより短くなってくると人間は自分の速度を維持しようと追い越し車線を走るほうがよいと判断する。でも、みんなが同じ行動をとれば結果として追い越し車線のほうが混雑して速度が低下してしまう。

結論としては、混雑してきた場合は走行車線を走ったほうがよく、長距離トラックの運転手は経験的にこのことを知っているそうな。

本書では上記のようなわかりやすい事例以外にも、ネットワークの混雑とか、様々な状況での渋滞を科学的に説明してくれていておもしろい。

ネット社会によって世界はフラット化したかというとそうではなく、都市にどんどん人が集まるようになっていくという説は「人は意外に合理的」でも書かれていました。これからますます渋滞問題はクローズアップされていくので、今後注目される分野なのは間違いなし。こういう現実の問題解決が具体的にイメージできる学問をしていると楽しそうですな。


【書評】世界はなぜ不況に陥ったか


拷問読書

今週1冊目。累計92冊目。普段読んでいる「池田伸夫ブログ」に紹介されていたので読んでみた。考え方はブログと似た系統だけど、基礎的な知識から詳しく金融危機のことを説明していておもしろい。

自分は経済や金融の知識はあまりないのですが、そんな人でも分かるように書かれているので読みにくい本ではないと思う。日本でいまだに通説とされているような、「公共事業を行えば、雇用を創出できる」といった言説など、ケインズ経済学に対する反対論なども詳しく書かれている。

この本で特におもしろいのが、今までの経済学者の主張と現代の状況のギャップを書いているところ。ケインズ理論に対する反論はもちろんなのですが、フリードマンの理論も一部現実にそぐわない状況もいくつか出てきたことを指摘しています。

サブプライムローン問題の始まりから、なぜ不況にまで陥ったのかはこの本でだいたいよく分かる。この本のよいところは、結果論でサブプライムローンの問題点を指摘してばかりはしてないところ。

もともとサブプライムローンは貧乏な人も家が買えるようにする仕組み。評価されていた制度だったという当時の状況を説明し、それがなぜ破綻していったかを順を追っている。

他にも、エージェンシー問題を解説した項目がおもしろい。ウォール街のランダム・ウォークにあるような、市場は合理的に動くという問題が現代ではなかなか通用しなくなってきたらしい。この本自体もバージョンが上がるごとに、最近では合理的に動かない部分がいくつかあることので修正に修正を重ねているらしい。

それはなぜかというと機関投資家のエージェンシー問題。個人投資家が投資するには、自らの投資額のリスクを自分で負うからリスクとリターンはイコールになる。でも、機関投資家は大損をしても全額を自分で賠償する責任はない。結局は会社に投資した個人投資家が損をこうむるわけで、機関投資家はリスクをどんどんとったほうが合理的になる。

このエージェンシー問題が市場が合理的に動かない原因にもなるし、今回のサブプライムの原因にもなっているようです。

ウォール街のランダム・ウォークを読んで、ドルコスト平均法で積み立てしている自分からすると結構悩まされる問題ですなあ。でもランダムウォークは株式投資するなら絶対にまず読むべき本なのは間違いないです。まず最初に読んで、それでも市場に勝つんだ!という気概があれば次のステップに進めばよいかと。


【書評】30歳からの成長戦略


拷問読書

今週2冊目。累計93冊目。タイトルが自己啓発っぽく安易で損をしている。内容はすごくいい。

論理を極めても説得できず悩み、感情と論理を融合させても心を中を見透かされる。無欲に挑戦しても自分を動かすエネルギーが足りない。最終的には相手を幸せにしようという欲を持ち、自分を捨てることにいきついたという悩みの過程がおもしろい。

著者は外資系の有名コンサルタント会社ATカーニーの元太平洋地区代表。この本は欲張っていると説明書きにも書いてあるとおり、ビジネスの基礎知識から精神的な考え方、人脈、休息の取り方まで本当に欲張っている。

いかに実力派天の邪鬼になって他人と差別化する必要があるか、ビジネスの基礎知識を凝縮して説明しているところも分かりやすい。けれども、この本で特におもしろいのは経営コンサルタントとしての著者の悩みの経験談と休息の重要性の項目。

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。 」という夏目漱石の有名な一文があります。経営コンサルに限らず、世の中はこの矛盾でいっぱいですが、その状況に対するひとつの示唆が分かります。

著者は最初ひたすら論理思考能力を学んだ。でも、論理だけでは相手は説得できない。相手の話を聞いたり、意見を尊重する感情からの訴えかけが必要となる。そこで、論理と感情を合わせもつ方法を次に覚える。

しかし、「あの人は優しいけど本当は自分のことしか考えてない。」という意見を耳にし、心の中が見透かされていることに気づく。そんな時に仏教の無欲の境地になる本などを読み、自分の欲を捨てることを学ぶ。そうして欲を相手のために使うことにして、周りの幸せを意識して初めて上手くいったらしい。

この悩みの過程が本書で一番おもしろいところ。後半になってどんどん吸い込まれていくのは、経営コンサルの悩みや葛藤を正直にさらけ出しているところだと思う。

他にも、人脈は追いかけても作れないから自分の魅力を上げることが重要。休息をしっかりとってこそ初めて仕事の意欲がわき本当によい仕事ができる。といった内容が書いている部分もいい。

論理思考と感情思考の矛盾を解決するため、あらゆるジャンルのイメージを蓄積して落としどころの切り口を探す考え方もおもしろい。論理と感情の矛盾を解決するため、著者は人文科学、歴史、宗教などあらゆるジャンルの本からイメージを作ったそうな。


【書評】MBAクリティカル・シンキング


拷問読書

今週3冊目。累計91冊目。グロービス経営大学院が出しているロジカルシンキング本。難しそうな題名だけど、読んでみると想像以上にわかりやすかった。ロジカルシンキング系の本では「考える技術・核技術」という本を読んでいる途中だけど、こっちは今回の本よりかなり読みづらい。

アマゾンの評価では、「考える技術~」のほうが難しいが内容は濃いと書いてあったけど、順番としてはクリティカル・シンキングを先に読んだ方が自分の場合は圧倒的にわかりやすい気がした。似た系統の本で、「知的複眼思考法」も買っていながらまだ読んでないのですが、クリティカル・シンキングは「知的複眼~」も参考にしていると巻末に書いている。

■演繹法と帰納法

人が何かを説得する時、すべてのパターンは演繹法と帰納法の分けられるらしい。

「人間はいつか死ぬ」→「ウメは人間だ」→「だからウメはいつか死ぬ」

この、 A→B→C という論理展開が演繹法。

「ウメは早寝早起き」、「ウメは菜食主義だ」、「ウメは定期的に運動をする」

→「だからウメは健康オタクであろう」

このA、B、Cという情報から結論をイメージするのが帰納法。

本書では例としてあげられた文章の中から、どの箇所が演繹法で、どの箇所が帰納法を使って説明されているかなどを解説していてわかりやすい。説明したい内容によって、どちらの方法を使えば適切かも教えてくれる。

「考える技術・書く技術」では、どういう状況でどちらの方法を使えばよいかをもっともっと掘り下げて説明されていた。

こういった枠組みを知ると、何かの説明を聞いた時に、「ああ、この説明では演繹法だな、ここでは帰納法だな」とイメージすることができそう。それが、なんの役に立つかというと、何かを説明された時に、その人の説明が「なぜわかりやすいか」、あるいは「なぜわかりにくいか」を知る手がかりになると思う。

それよりもっと重要なのは、人に何かを説明したり説得する時に、どうすれば「あれ?なんかわかりにくいな」となることを防止して、「うんうん、なるほど。わかりやすくて説得力もある」と言われるような説明の枠組みを考える手助けになる。

説明が上手い人は天性のものだと一般的には考えられていると思うけど、このルールを少しでも知れば、なぜその人が上手いのかがよくわかるはず。その構造を意識すれば、自分のように「説明下手すぎ(笑)」とよく言われる人間も改善の希望があるわけです!

ちなみに、上記は説明する仕組みを構造化した話ですが、笑いを取る仕組みを初めて体系化、構造化して分析した本に「ウケル技術」という本がある。コンサルタントが説明する時に頭の中で方法論を構造化できているように、お笑い芸人は笑いを取る仕組みやパターンを頭の中で構造化できているらしいです。

松本人志やケンドーコバヤシが、「笑いを取るのはパターンさえ知っていて、その時の状況に応じて使い分ければ簡単」と言っていたのを思い出した。

この他にも因果関係の構造化や、思考の落とし穴など網羅的に解説されていて、ロジカルシンキング本の一冊目にはすごくよい本。

「別にMBAなんてたいそうなものに興味はないや」っていう人でも有益。「お前の説明は何いっているかわからん!」と言われる人や、説得したい相手がいるけど、どう説明すれば上手く伝えられるかに悩んでいる人は一読の価値ありです。


【書評】アフリカ 苦悩する大陸


拷問読書

今週1冊目。累計89冊目。貧困といえばアフリカをイメージしますが、どれだけヤバイか、なぜヤバイか、どうヤバイかがわかる本。

去年読んで最高におもしろかった「銃、病原菌、鉄」という本によると、格差を生み出した究極の要因は環境の違いということでした。時代が進んで科学が発達し、環境の違いを克服できるようになったかというそうでもないみたいです。

豊かな人々が集まる地域にはどんどん豊かな人が集まり、貧困層が集まる地域はますます貧困が進んでいく。これを解決するために世界各国がいろいろ援助活動をしたりしていますが、援助資金が独裁者の財布に入るだけであったり、援助することによって貧困が進むという逆効果も生まれてしまったりと問題は複雑です。



■独裁政権を生む海外からの資金援助

白人から自由を勝ち取る解放戦争ののヒーローだったジンバブエのムガベ大統領。この大統領の独裁政権では自由な意見も平等な選挙も皆無。村を焼き払い、投票者全員をレイプするという規模で野党の選挙妨害が繰り広げられるという悲惨な状況。

経済活動も基本的には海外からの援助で賄っている。国内で起業家が出てきたとしても、厳しい規制と利権を吸い取る政治家の妨害にあって、新しい経済活動が生まれない。「不道徳教育」という本では、援助資金を送れば送るほど、貧困国は自分で経済活動を生み出す理由がなくなり貧乏になるという考えが書いていた。まさにそのことが現実で起きている国。

ここで思ったのは、むやみに公共事業の資金援助をしても逆効果を生むから、教育事業と医療をメインにした援助がもっとも合理的なんではないかなと。自国で経済活動が破綻しても独裁政権が続けられるのは、海外からの資金援助が最大の理由。

これがなくなれば経済が破綻するので自動的に独裁政権も崩壊せざるをえなくなる。自主的に経済を立て直すには、規制を緩和した民主的な国家作りが近道になると思うのです。

■なぜエイズの広がりを止められないか

単純に避妊の知識がない、処女とセックスすればエイズが治るという迷信を信じる人がいるといったような理由もある。でも、根本的な理由は他の国の人に比べてエイズ感染のリスクが相対的に小さいから。

つまり、常に死と隣合わせで生きている人たちにとって、エイズに感染するリスクよりも、目の前の快楽であったり、目の前のお客からお金をもらうほうが重要となるようです。

例えば、一年後に死ぬ確率が5割くらいある人にとっては、エイズに感染するリスクよりも目の前の快楽を選んだほうが合理的。ここでも貧困の悪循環が働いてたりする。

■黒人労働者保護が失業者を増やす

アパルトヘイトが終わり、黒人労働者を保護する法律を作った南アフリカ。この法律により、黒人労働者の失業率が劇的に増えるという皮肉な結果になる。ここのくだりは、日本の解雇規制と失業率の関係とそっくりです。

黒人を雇う時は法律で決まった最低賃金以下で働かせてはいけない。でも、教育水準が低い黒人をその賃金で雇うと基本的に企業は赤字になる。さらに、いったん雇うと解雇規制が法律で定められているので解雇もできない。

結果的に、半分の給料でも喜んで働くという黒人たちが大勢いるのにもかかわらず、黒人を雇う余裕のない企業が大半となり、失業者が増えるという仕組みが出来上がったそうな。

貧困を解決するには、経済的な観点から解決するしかないなと思うよい本でした。


【書評】嘘とだましの心理学―戦略的なだましからあたたかい嘘まで


拷問読書

今週3冊目。累計88冊目。タイトルに釣られて購入したら、えらく学術的な本で読むのに苦労した。内容も重厚ながらとにかく守備範囲が広い。大学教授が書いた本で、心理学の授業の教科書とかに使われているんだと思う。

悪徳勧誘の嘘から、小児癌の告知をしない嘘、司法場面における嘘、動物の嘘、嘘がつけるようになる年齢、精神病患者の嘘、嘘をついた時の人体反応、犯罪捜査における嘘発見、嘘をついた時の脳内メカニズムなどなど、ありとあらゆる視点から嘘を研究している。

人それぞれ興味を持つ嘘の視点は違うだろうけど、自分が一番おもしろかったのは犯罪捜査における嘘発見方法の章でした。

■犯罪捜査における嘘発見

有名なポリグラフ検査法。嘘発見器をつけられて、針の振れ幅を見て嘘をついているかどうか見るというやつです。海外ドラマの24ではよく出てきました。しかし、このポリグラフ検査法にも様々なやり方があり、それぞれ欠点もある。

①対象質問法

「あなたは強盗に入りましたか」などの事件に関係のある質問と、「今日は何曜日ですか」など関係のない質問を被験者に対して行い、それに対する生理反応の強度を測る。

これはオーソドックスなやりかたで、よく知られているやり方ですね。でも、これにも原理的な問題がある。事件と関係のない質問であっても自分にとって思い入れの強い質問内容なら嘘発見器の針に大きく反応して、ジャックバウアーみたいな捜査官に拷問されちゃうという事態に陥る危険性が高い。

②裁決質問法

こちらは事件に関与した者でなければ知り得ない事を質問事項にいれる。また、同じような系統の質問で、事件と関係のない質問も混ぜる。

例えば、バッグが盗まれて中には銀行の通帳が入っていたとする。

容疑者に対して、

1.商品券が入っていましたか

2.キャッシュカードが入っていましたか

3.通帳が入っていましたか

4.クレジットカードが入っていましたか

などの質問を投げかける。この中では、3番以外は非裁決質問であり、裁決質問である3番への反応が強い容疑者は怪しいとなる。

実際に日本で裁決質問法が使われ、盗まれたバッグが見つかった事例の話がおもしろい。その事件では、まず上記の採決質問法で怪しい容疑者を絞り出し、次に探索質問法という手法を使う。

1.バッグはこの地図のA付近にありますか

2.バッグはこの地図のB付近にありますか

3.バッグはこの地図のC付近にありますか

のように容疑者に探索質問法と手法を使い、容疑者のポリグラフ反応があった地図の場所を捜査するとバッグが発見されたというもの。

■本書でおもしろい部分

犯罪捜査における嘘発見の章は文句なしにおもしろい。この章だけでも読む価値あり。逆に、嘘をついた時の脳のメカニズムは医療的すぎてついていけない。。

もちろん、嘘は表情に表れるか?という一般人が一番知りたがる話も学術的な観点から説明されていて、こういった部分も楽しい。

研究によると人間の顔の左側は公的な顔であり、右側は私的な顔らしい。人が嘘をついたり、自分の意志と違うことを話さなければならない時は、顔の左側にその症状が強く表れるようです。アナウンサーが引きつったような顔で笑っている時は、社交的な笑いを表出したものだそうな。

この本では小児癌の子どもに対する心遣いのある嘘以外、ひたすら研究的な視点で嘘について書かれている。つまり、嘘はいけません、やっぱり正直が一番といったような道徳的な内容は皆無。正直が一番戦略上強いというようなゲーム理論的の話でもなし。

とにかく嘘をひたすら研究しましたっていう本であって、薄っぺらい心理本よりは相当密度が濃いと思う。