地球最後の日のための種子


地球最後の日のための種子
食物の多様性を守るため、世界中の種子を集めて保護する科学者たちの物語。成毛ブログで絶賛されていたので、読んでみたけど確かに面白い。一気に読んでしまった。

■多様性が失われた種はもろい

昔の貴族は親戚やいとこ同士で結婚することもあったので、遺伝子的に子孫に障害が生まれることが多かったと聞いたことがある。馬ゲームのダビスタでも、血が濃すぎる配合を選ぶととたんに怪我がちな子馬ばかり生まれる。

これは血が濃すぎる配合のデメリットだけど、遺伝的に特定の環境に有利な配合を繰り返した結果、遺伝子の多様性が失われると、突然の疫病で一気にすべての生物が絶滅してしまう恐れがあるらしい。

これが現在の、品種改良を重ねられて特定の品種しか世界で育てられていない小麦などの栽培物に当てはまる。この本は、来るべき人類の危機にそなえ、世界中の食物の種子をジーンバンクという地下シェルターのような場所に集めることに命をかけた科学者たちの話。

■将来、人間の多様性もなくなると一気に絶滅しちゃうかも

現在は遺伝子治療や、遺伝子を選んで子供を産んだりといったことはまだ一般的ではないけれど、そういった世の中になった時の危険性がこの本を読むとよくわかる。未来の世界を描いた映画「ガタカ」では、人間はみんな遺伝子を調整されて美男子、美女ばかりの世界だった。

でも、こういう世界で突然疫病が発生すると、一気に人類が絶滅してしまう危険性があるんだなあと思った。とにかく、多様性というのは会社でも、どんな場所でも重要だとよくいわれる。でも、今まではいろんな意見があって、いろんな人がいたほうがいいんですよねみたいな感覚でしかわかってなかった。

でも、生物界の群れのルールとか、多様性を失った小麦が一気に全滅する話とかを聞くと、科学の世界の実際の知見がわかって多様性の大事さがよくわかっていい。

■PRの重要性もよくわかる

本書の主人公のスコウマンは、当初とにかく世界から飢餓をなくすという思いだけで活動していた。その時、まったくマスコミ向けのPRには力をいれていないけど、晩年になってようやくその重要性に気づく。とにかく、全世界の一人でも多くの人が、多くの食物の種子を守るという重要性に気づかないと人類の危機だと気づくかないと、失ってからではもう遅い。

となると、最近はやりのエバンジェリストという職業の大事さも痛感するなあと思った。研究者と、その功績を世に広める人が必要なんですね。


本を厳選してWEB本棚を作ってみた


ブログで本の感想書くのは数冊読んで、気が向いた時だけなんですが、今までの本でこれは殿堂入りだろうというものを集めて本棚を作ってみた。

オススメ本を厳選した本棚

■WEB本棚サービス選別の経緯

前からいろいろなWEB本棚サービスを調べていたけど、気に入るのがなかった。特に自分のアフリエイトが貼れないとやる気も8割ダウンになるのに、そういうのが多かったのです。しょうがないから自分で作っちゃおうかなと思っていたら、普通にアマゾンのストアサービスが使いやすかった。

■WEB本棚は最高のオナニー

元々、本棚っていうものは「どうだい僕の本棚は。フフフ。いい趣味しているだろう?」とドヤ顔でオナニーするためにあるものなのです。しかし、うさぎ小屋に住んでいて、本棚がひとつのスペースしかない自分としては本を買って売ってを繰り返すしかない。

そんな中、WEB本棚は全世界に自己満足本棚を公開できる素晴らしいサービスなわけです。電子書籍が普及していく今後、かなり流行ると思う。

アマゾンのやつは双方向のコミュニティ機能がないけれど、まあそれはよしとして、本ごとにコメントを付けられるのがナイス。


「史上最強の哲学入門」は死ぬほどわかりやすい


史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK)

前から哲学に興味はあったんですが、どの本から読み始めればよいのかよくわからなかったわけです。「哲学で博士号取る予定の俺が、どんな質問にも哲学的に答える」とか読んだら、「そうだったのか現代思想」という本が紹介されていた。

この本も読んでみたけどやっぱり固い。ちなみに、最近流行った「これからの正義について考えよう」は素晴らしくわかりやすかったけど政治哲学オンリーなので、哲学全般とはちょっと違う。そんなもんもんとしている時に、大好きなグラップラーバキを表紙にした「史上最強の哲学入門」を友達に教えてもらった。これだと思いました。

■格闘技漫画のパロディで哲学を語る

グラップラーバキは格闘技漫画で、さまざま名台詞がある。例えば、さまざまな合気道の伝説的達人をモデルにした達人を登場させて、「達人は保護されている!!」とかアナウンサーが言っちゃったりするわけです。それで、漫画でその達人対レスリングメダリストが対決したりする。

こういった、バキ好きならたまらない台詞と共に、難しい哲学をまぜこぜにしている本書なのですが、それが驚くほどマッチしていて本当にわかりやすい。バキ好きなら三倍楽しめるけど、語り口調が面白いので、漫画を知らなくても十分楽しく哲学が学べると思う。

■哲学の発展の歴史を体系的にまとめている

この本の素晴らしいところは、時代ごとに発展していった哲学の歴史を体系的にまとめ上げているところ。ソクラテスの時代から、プラトン、アリストテレスに移っていって、前者の考えた真理を後の人が否定して新たな真理を考え出すといった系統がわかる。

こうやって、ある考えを作り出した人に後の人が「それは間違っている!」と新たな真理を作りだす。さらに、その後の人がまた矛盾点などをついて新しい真理を作り出し、、といった感じでほぼ無限ループ状態で終わりがないなあといった感じ。

こうやって、歴史の順番にそって有名な哲学者を紹介し、それぞれの考えと今までの考えへのつっこみをおもしろおかしく紹介している。これを読んでいくと、歴史と対立構造の簡単な概念が本当にわかりやすく読めちゃうわけです。うーむ、本当に凄い。

■ソクラテスの最強のディベート術

受験参考書で「実況中継シリーズ」といったものがあったけど、難解なものは特に簡単な言葉で説明してくれるとわかりやすい。この本に難しい言葉はないし、なにより面白い。笑える。

例えば、ソクラテスの必殺ディベート術「相対主義」の紹介がまた面白い。当時最強の論客たちに論述で対決したソクラテスが駆使した必殺技。

彼はまずバカのふりをして出て行き、「今、正義って言ったけど、正義って何ですか?」という具合に相手の質問をするのである。それで相手が、たとえば、「それはみんなの幸せのことだよ」などと答えたら、「じゃあ、幸せって何ですか?」とさらに質問を続けていく。

これを繰り返せば、相手はいつか答えにつまるようになるだろう。そこで、すかさず「答えられないってことは、あなたはそれを知らないんですね。知らないのに今まで語っていたんですね(笑)」と思い切りバカにするのである。

とまあ、こんな感じで、それぞれの哲学者と得意とした必殺技も説明して、キャラを立たせている。最後の「存在の真理」だけはさすがに難解だけど、「真理の真理」、「国家の真理」、「神様の真理」までは本当にわかりやすい。この本はもっと評価されるべき!

■この本に関する他のブログのオススメ書評

バキみたいな哲学入門書 「史上最強の哲学入門」
表紙とか目次とか中身の写真が豊富。

飲茶『史上最強の哲学入門』
作者の労働に関する考えを引用している。

ライティング斉藤のブログ
グラップラーバキとのコラボに焦点を当てている。


科学は大災害を予測できるか


科学は大災害を予測できるか
地球規模の伝染病とか、ハリケーンとか、隕石の衝突とか、金融危機など全世界がパニックになるような大災害を科学はどこまで防げるかという本。最新の科学の現状と限界がしれて面白い。

■科学は大災害を予測できません

結論からいうと、上記の事柄すべて科学では予想不可能らしい。少しの情報の違いがカオス的に大きな違いになり、予想できる範囲が未知数になるとか書いているけれど、まあ科学が万能でないのは誰もが分かっていること。

ただ、ここまで科学は大災害を予想できないとはっきりと書かれていると、なんとなく大変な事が地球規模で起こっても偉い人がいろいろ考えてるんじゃないか?みたいな、庶民的な考えが通用しないことがよくわかります。うーむ、怖い。

例えば、隕石の衝突はいずれ起こるけれど、いつ起こるかは分からない。もし発見できたとしても、1ヶ月前とか、一週間前とかになる可能性が高いとか。まあ、確率的には自動車事故で死ぬ方がよっぽど高いんですけどね。

■科学者は偉い

印象的なのは、著者の科学への愛がビシビシと伝わってくるところ。災害は予想できないけれど、その対策や予防処置には科学が力になる。作者いわく、「科学者は世界規模の災害を常に考え続けたんだから、政治家はもっとそれを生かせるように頑張れよ!」って言っています。

例えば、最近読み始めた「地球最後の日のための種子」は、世界中の作物の種子を集めて、作物に大災害が起こった時に備える科学者の話だけど、いつでも未来の事を真剣に考えて行動を促し始めるのは科学者なのだなあと実感。

自分の専門分野を研究していくうちに、「うーむ、ヤバイ。これはヤバイ。このヤバさにみんな気づいていない。それがもっとヤバイ」といった気持ちになるんだろうと思う。自分は知っているけど、周りが気づいていない部分を熱く伝えたくなるこの気持ちは誰でもよく分かる気持ちかも。

■でも、科学者でも意見が分かれまくる

問題は、科学者の意見が一致しないところ。温暖化問題でも、人間が原因だという人や、温暖化は地球の自然現象で人間の影響は少ないといういろいろな説がある。科学者たちの意見がバラバラだと、そりゃあ政治家の人もどう判断したらいいかわからない。

トンデモ学説だと思われていたものが、数年たって指示されたりするのはよくあること。多様性は大事だし、それでも重要な決断に科学者の意見が分かれまくっていると困る。悩ましい。

■科学への愛を感じる

著者は科学者の良心も信じている。科学の世界では論文が重要。でも、専門的な論文を審査できるのは、同じ専門分野の偉い人。例えば、論文を審査する人の研究していた課題が、たまたま審査中の論文に答えが載っていたりする。

この時、論文のアイデアをこっそりパクることもできる。こういうことが可能な科学界の問題を指摘していたのを「生物と無生物の間」という本でよく覚えている。

ただ、「科学は大災害を予測できるか」の作者は性善説派。そういうことはできるけど、科学者の大半は良心を持っているからそんなことしないと書いている。さらに、科学者は自らへの評判が命。評判を落とすようなリスクはとらないらしいです。


極限まで好きな事だけして死んだ天才数学者の物語


放浪の天才数学者エルデシュ
「放浪の天才数学者エルデシュ」。

生涯現役で世界中を飛び回り、数学の問題を解きまくった天才数学者の話。80代で死ぬまで数学の問題を解くことにすべてをささげ、結婚もせず、子供も作らず、持ち物も最低限で数学者の友人達の家を飛び回る生活。ここまで自分の好きな事に集中する環境を作り、それを死ぬまでやり通した奇人はなかなかいない。

エルデシュの名前を聞いたのは、受験勉強中に国語の参考書に出てきた時。もっとも多く共著論文を発表した数学者で、共著を発表したというだけでその数学者の権威が上がる。本人は数学者を時間をきにせず訪ね、「君の頭は営業中かね?」という台詞が決め言葉です。

■好きなことだけする環境作りが半端ない

自分の好きな事だけをする環境を極限まで作り上げ、それを死ぬまで実行し続けた人の生涯とはどんなものかなあと興味があったわけです。だいたい予想していたけど、ここまで凄いのは初めて。もう完全に変人枠の中のさらに変人枠の王様といった感じ。

まず、趣味を作らない。持ち物も持たない。そもそもお金を稼いでも、仲間か貧しい人にあげてしまう。住居も持たない。いつも数学者の仲間に家に泊まりに行く。持つのは証明を書き留めるノートと鉛筆、最小限の着替えと粗末なブリーフケース。

数学の問題を解くことに集中する環境を極限まで作っている。そんな人生楽しいんだろうかって思うけど、本人は楽しくてしょうがないんだろうと思う。大人になってからは、コーヒーや薬物で寝ないようにして、何年も毎日19時間数学の問題を解き続け、死ぬ直前ももちろん数学の証明をしていた。これも、本人が望んだ死に方だったそうな。

■幸福を追求するには?

周りと合わせようとすると、その分ストレスがかかり、自分の望む幸福人生から遠ざかるかもしれない。もしかしたら、万人が認める幸福な過ごし方をいうものを実現し、周りに認めてもらう優越感も楽しいかもしれない。でも、究極に極限まで幸福を追求すると、エルデシュのような生き方になるのかもと思った。

前例とか、周りの目も気にしない。とにかく自分の好きなことを好きなようにやり続けて、それが許される実力を日々重ねていく生き方は真似できないけど凄い。

とにかく数学以外は周りに頼りっぱなしで、家に泊めてくれた友人たちがエルデシュの服の洗濯から身の回りのことまで全部しなければならなかったとか。まあ、天才だから許されるのかもしれないけど、それでも愛嬌と思いやりのある人物で皆に愛されていたらしい。

とは言っても、普通の生活が最高に幸せだと思う人がいたり、いろいろなことをやるのが楽しいと思う自分みたいな人もいるので、極端な一例として読むと面白いと思う。

ちなみに、ここまで書いたけど、まだ最初の数ページしか読んでいない。ただ、この本は間違いなく面白そう。


【書評】「非才」 才能神話をひっくり返す本


非才!―あなたの子どもを勝者にする成功の科学

スポーツ選手とか、実業家の成功はどの程度が生まれ持った才能で、どの程度までが本人の努力だっていうのは個々人で意見が大きく分かれるところです。この本は、「才能の部分なんて一切ない」という、ある意味極端な論点にたった本。

似たような本で、グッドウェルの「天才」がありますが、「非才」のほうが断然面白いです。「天才」のほうはパラパラ読んで途中で読むのを止めてしまった。何が違うかというと、「非才」は細かい部分までの科学的な説明が多い。ちなみに、「その数学が戦略を決める」とか、面白い本ばっかり訳している山形さんの翻訳。

■相当量の練習で培ったパターン認識が重要

とにかく反復を繰り返すことによって、無意識にできるようになるのが重要らしい。脳みそを二階層に分けて、最初の階層を無意識のパターン認識で処理して、二階層目を実際に考えるようになるという説明が面白い。

例えば、史上最高のテニス選手と言われるフェデラーは反射神経が並外れていると考えるのが普通。でも、卓球の勝負になると、凡人程度の反射神経しか記録できなかったらしい。

なんでかというと、テニスの熟練者は相手の手や肩や肘の動き、体全体の動きなどからどこにサーブが飛んでくるかを認識する。つまり、様々なテニス特有の状況でのパターン認識の膨大な積み重ねと、自分の体が無意識に反応するまでの練習量が違いを分けるとか。

これは数学でも芸術分野でも一緒で、一見生まれ持ったセンスから産み出たようなものが、実は膨大な量の練習の結びつきで出来上がるというのをなかなかの説得力で展開されます。もちろん、質の高い練習の重要性も書かれている。

■では、なぜ100メートル走の上位入賞者は黒人ばかりなのか?

最高の環境で相当の練習を達成しても、ジャマイカ人に日本人が勝てるのは想像できない。このへんに対する著者の主張はやっぱりちょっと弱い。「黒人はなぜ足がはやいのか?」によると、黒人でも足の速いのは西アフリカに先祖を持つ人達で、特にジャマイカ人は足の速い遺伝子を持つ割合が多いと書かれていた。

この「非才」という本は、そのへんの事情も細かく書いているのがすごいのだけど、そもそもスポーツの成績における人種間の優劣は時代によってよく変わるという点を指摘していた。ジャマイカでは短距離走で成功するための土壌、インセンティブが他の国に比べて著しく高いという部分も書かれている。

また、長距離で東アフリカ系の選手が優秀なのは、遺伝子よりも高度の高い山々で、長距離を走って通学しなければいけない環境の大きさを主張している。

■なかなか元気づけられる本ではあります

才能だよと片付けられる部分を科学的に反論していて説得力がある本書。とは言っても、身長や容姿など、明らかに親の遺伝子を受け継ぎそうな事柄を考えると、すべてが努力で解消できるとはなかなか思えない。

でも、今まで才能3割、正しい努力7割ぐらいかなあと思っていたのが、才能1割、正しい努力9割ぐらいだろうかと考えが補正される本。なんというか、やる気が出る本でした。

ちなみに、類書の「天才」はたいして面白くない。「黒人はなぜ足が速いのか」もちょっと専門的な話が多すぎてつまらない。卓球選手としても一流だった作者の実体験もあり、「非才」が圧倒的にオススメ。


「民の見えざる手」が予想以上に面白い


民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論
大前研一の新書をなんとなく読んでみたら、思った以上に面白かった。特に、アジアの新興国の最近のビジネス事情とかがよく分かる。これを読むと、韓国、中国など近隣諸国と日本の勢いの違いも分かるし、インドネシアとか急成長しそうな国のだいたいの知識もつく。

ちなみに、大前研一という人は、日本で一番有名な経営コンサルタントといってもよいぐらい伝説的な人です。マッキンゼーが日本に進出し始めた時に入社して、日本支社長、アジア太平洋地区会長まで務めたフリーザ様級のビジネスマン。

たまにはやる気が出る本でも読むかと思った人に最適。勉強する気が結構おきます。

■アジア圏の国に人材力で負ける日本

海外の一流大学で教鞭を執っている著者によると、10年前に比べて優秀な日本人はガクンと減ったらしい。ハーバードなどでも韓国人や中国人が目立ってきて、日本人はほんと元気がないとか。特に韓国人の勉強時間は半端ない。学校終わった後に平均6時間やるとか。。

日本の大学でも一番勉強しているのは留学生。さらに、台湾からやってきた留学生は基本的に英語、中国語、日本語が話せる人が普通で、4各語とか5各語話す留学生が珍しくない。これは、留学生と交流があるサークルに入っている友達も言ってた。

日本企業も新卒で日本人取るより、優秀な留学生を取らないとグローバル化する世界市場で生き残っていけないから、パナソニックとか日本人の採用枠を減らしているし。

まあ、こういう話はネット上でもよく話題になりますが、やっぱり本になるともっと実情を詳細に書いてある。例えば、国力は人口より人材力で決まる理屈とか、就職氷河期は不況が原因じゃないから終わらないとか。

特に面白いのが、ウェルマートなどの米国一流企業では軍人を積極的に採用しているという話。なんでも、不確実な戦場で部下を指揮した経験のある軍人は、ハーバードなどのMBAコースでビジネスを学んだ学生より人材市場では人気なのだとか。

不確実な事態に臨機応変に対処する経験とリーダーシップを戦場で経験している軍人には、後は小売り業のノウハウを教えるだけで優秀なビジネスマンになれるというのが理屈らしい。


■新興国、途上国の事情

この本の価値は、アジアやヨーロッパの新興国の現在の経済事情がおおざっぱにわかるというのが一番でかい。おそらく、数年後には賞味期限切れしているので、この本を読むなら少なくとも一年以内がよいと思う。

例えば、インドネシアは中国より魅力的なマーケットで、その原動力になった現在のユドヨノ政権の話とか。ウクライナのIT産業レベルとか、ルーマニアの事情とか、今まで知らなかった魅力的な新興国の話がたくさん。

特に、これから海外をまたにかける商社マンになりたい人は、中国語よりインドネシアとかロシアの言葉を習ったほうがよさそう。中国語ができてもライバルが多いけど、新興国の言葉が話せるといきなり現地に飛ばされて比較的大きなことを任されて出世コースに乗れる可能性が断然高い。

大学の友達で、インドネシア語を習って、この夏はインドネシアに数週間旅しに行ったS君の先見性をちょっと見直した。

■老後にそなえて趣味を増やせ

この本の最後には、個人はグッドライフを求めよというような事が書いてある。引退してから趣味が少ないと友達もできないし、頭も使わないし、つまらなくて孤独死してしまうよと。なんでもやるのに遅いことはないから、新しい趣味をドンドン作れといいこと書いています。

バリバリ働いていない分際で趣味のことばかり考えている自分ですが、今年はカートも始めたし、プログラミングの楽しさも分かったし、最近は和菓子の魅力にも気づいた。今年中には、定期的に運動したくなるようなものを一つ始めようと思います。候補としてはサッカー、フットサル、テニスといったところ。


「ネットバカ」は今年読んだ本でベスト


ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること
今年読んだ中で、今のところ一番よかった本!今までの持っていた考えを揺さぶられた。タイトルも本の見た目も非常にしょぼくて、出版社に売る気はあるのかと問いただしたいけれど、中身は最高に濃い。

著者の「クラウド化する世界」はかなりよかったのでブログをチェックしてみたら、このブログもこれまた面白かった。「ネットバカ」の原題は「the shallows」なんですが、この本が発売されるまでずっと楽しみにして、英語版が出てほんの数ヶ月で訳本が出た。このスピード感は日本の出版社素晴らしい。

■道具が人間の脳にもたらす変化

グーグルなどで簡単に情報が取り出せるようになり、それによって失われてしまった人間の機能がこの本の主題。面白いのは、ネットだけでなく、今までの人類史において道具の発達がいかに人間の考え方や考える能力に影響してきたかを細かく検証している点。

例えば、時計の登場によって人間は今までより遙かに効率的に動くようになり、それと同時に時間にとらわれずに集中する能力も衰退してしまった。こういった、便利な道具が登場する時に生じる、見過ごされがちなトレードオフの関係を本書では詳細に検証しています。

「時計」、「本」、「インターネット」など、画期的に便利な道具の登場によって、人類の失われた能力がここまで説得力ある形で説明している本はなかったんじゃないかと。

■ネット世界におけるマルチタスクに慣れると注意散漫症候群になる?

現在のIT社会では、目の前の事への集中を邪魔するものであふれている。例えば、勉強していてもメールの返信が気になったり、携帯電話が鳴ったり、調べ物をネットで検索するとついついクリックしてしまうバナー広告や文字広告がわんさかある。さらには、twitterというリアルタイムに更新されるメディアも日本では大流行しています。

こうしたマルチタスクで作業することに慣れていると、それらをすべて遮断していても、ひとつの事に集中する能力は著しく衰えていると本書では指摘されています。自分は朝6時ぐらいに起きて、12時まで携帯も切って勉強に集中できる環境を作っているけど、結構注意散漫になっているのはこれが原因なんだろうか。

とにかく、効率的に速く仕事をこなすにはマルチタスクが欠かせない世の中。こういう時代だからこそ、いかに一つのことに集中する環境を確保できるかをまったく違う角度から再認識できます。この本に書いてあることは、単純にひとつのことに集中しましょうっていう簡単なことじゃなくて、いかにそういう環境で人間の脳みそが変化していったかを書いてあるのがすごくいい。

■グーグルやtwitterがある世界で暗記教育は時間の無駄という考えは本当か?

「グーグルで検索できる時代に暗記は時間のムダ。暗記はネットにさせて、人間にしかできないクリエイティブな事柄に頭のリソースを使うべき」という考えが現在では主流です。

例えば、twitterでフォロー数がかなり多い孫さんは「twitterで疑問を書くと、世界中に人々からアドバイスが瞬時にもらえる。右脳と左脳に加えて、第三の脳ができたみたいだ。」と言っていた。

自分も、答えが明確な事柄だとすぐに検索して調べるようにしている。それが一番速くて効率的だから。この本では、疑問が出てから、答えに至るまでのプロセスがかつてないほど省略されたネット社会において、人間の失われた能力について検証している。

その中には、ネット社会では無駄と考えられている暗記をしないことによって、脳内の重要なシナプスが弱まって、結果的にクリエイティブなアイデアを作り出す能力にも影響するようなことが書かれています。

このあたりの内容は、本当に目から鱗だった。最近はプログラミングでWEBサービスを作るのに夢中になっているわけですが、数学嫌いな自分にとってプログラミングする時に使う脳みそは今まで経験したことのない部分を使っている実感がリアルに体験できている。

プログラミングには一つ一つの細かいロジックを分解して、モデルとビューとコントローラに分けるMVCモデルというフレームワークがある。これを組み合わせを考えている時、普段の生活では使わない脳みそをフル活動させている気がするし、そういう物事を抽象化する能力は他の事柄にも絶対役に立つと思う。

なんでもそうだけど、答えが一気に出ると、それまでの過程がすっ飛ばされるので考えることをしなくなるというのはわかりやすい。

■でも、便利な道具を使わないと取り残されるし。。

ここが本書のキモだと思う。いくらネットを使うと注意散漫症候群になってしまうといっても、ネットなしの生活は不便すぎる。ビジネスでも、マルチタスクしないとライバルに差をつけられる場面は多々あるはず。

著者のニコラスカー先生も、本書執筆の時は山小屋に篭もったけど、書き終えた後にyoutubeや音楽サービスを使った時、この便利さからは離れられないと感じたみたいです。好む、好まざるに関係なく、時代の波には逆らうことはできない。

とりあえず、道具で便利になることにより、失われるものがあるとしっかり認識するのは重要だとして、集中するための環境作りも大事。便利な道具によって失う部分に注目することが、いろいろなヒントになりそうだなあと思ったしだいでありました。


虎屋―和菓子と歩んだ五百年


虎屋―和菓子と歩んだ五百年 (新潮新書)
ひょんなことから、高級和菓子屋「とらや」に行くことになった。どうせ行くなら研究してから行こうと思い、ホームページをさらりと見た後、本書を読んで500年の歴史を持ち、「とらやの歴史は和菓子の歴史」とまで言われる所以を勉強してみたわけです。

■和菓子は五感の芸術

美しさを視覚で、銘々された名前を聴覚で、味わいを味覚、香りを嗅覚、食べる時の完食を触覚で味わう和菓子は五感の芸術と言われています。特に高級和菓子ともなると、普段の食べ物では重視しない、見た目の美しさの視覚と、考えられた名前の聴覚へのこだわりが強い。

■皇室、財閥、歌舞伎界などの御用達

この本に出てくる代々のお得意様の顔ぶれが半端ない。大昔から皇室のために和菓子を作ってきただけあって、明治天皇の特注の和菓子を作ってそれぞれの名前を命名してもらったり、最近では歌舞伎界の海老蔵の襲名で特注の和菓子を作ったらしい。

ゴルフボールの形をした「ホールインワン」という和菓子は、三菱財閥創始者、岩崎与太郎の子孫であり三菱4代目の岩崎小弥太が作らせたものだったりと、それぞれの和菓子の逸話に財界人がわんさか出てくる。

■何度も訪れた危機を乗り越えてきたとらや

今でこそ日本は不況で、特に贅沢品となる高級和菓子なんてまっさきに打撃を受ける業界。デフレ時代ではユニクロとか安いのがウリの店は繁盛するけど、高級店の「とらや」は結構厳しい状況らしい。ただ、世界大戦や大地震など、今まで何度も廃業の危機を乗り越えてきた店なわけで、それに比べれば「こういう不況は過去には何度かあった」みたいな認識らしい。うーむ、さすがに歴史がすごい。

■時代の変化に対応してきて生き残ってきた

もともと京都の和菓子店だった「とらや」ですが、皇室が東京に移るのにあわせて東京に店を移動させる。最初はお偉いさんの注文のみだったのが、販売もするようになり、百貨店やデパートなどで売り出す。その時々に、ブランドイメージの維持と時代の流れに合わせる葛藤などがあったらしい。

■政治の世界にも進出する15代目

「とらや」はずっと黒川家で先祖代々受け継いできた会社です。同族企業の社長の業績は、誰でもいいから優秀な人を跡取りにする企業に比べて落ちるのは、久保先生の「コーポレートガバナンス」という本でも統計的に立証されている。それでも、500年潰れずに生き残ってきたのは確固たるブランドイメージが強力なのと、受け継がれてきた経営方針みたいなものが根付いているのかもしれない。

そんな黒川家でも、15代目だけは後継者不足で東大出の優秀な若者を養子にしている。これがが15代目の武雄さんなわけですが、この人の経営が結構すごい。当時では珍しかったダイレクトメールという手法や、米国産のフォード車を配達に初めて使ったりといろいろと新しいことを試している。

そんな武雄さんが政界に進出したきっかけは、皇室の御用達を取り消されかけた時。なんとか皇室御用達は続けてもらうことに成功したんだけど、この時、政治力の重要さを実感して政界にも進出していく。

■実際に、伊勢丹のカフェに食べに行ってきた!

本を読んでたら猛烈に食いたくなったので、新宿伊勢丹のとらやのカフェに「あんみつ」を食いに行ってきた。高級デパート店の入り口のすぐ横に位置するとらや。たいていの百貨店で「とらや」はこの特等席を確保しているらしい。さすがだ。。

30分ほど待つので、売っている羊羹を眺める。すると、どこからともなくマダムが現れ、とらやは京都発祥だとか、京都の限定品が美味いと教えてくれた。高級和菓子店だけにこういう客層は非常に多いらしく、百貨店ではマダム達が張り合って高い和菓子を注文する光景は日常茶飯事だとか。

ようやく入れたので、さっそく定番商品である「あんみつ」を食べてみる。1000円ぐらい。金魚の形をした寒天みたいなものを口にいれた瞬間、あまりの美味さにびびる。「とらやで食べると他の店で食えなくなる」と言われてはいたんですが、本当にそんな感じ。心の中でスタンディングオベレーション。これはヤバイ。

絶対また来ようと心に誓いながら、本来の目的である羊羹を買って帰りました。


JAPANはなぜ負けるのか


サッカーと経済学に興味があったら絶対面白い。今年読んだ経済書の中で一番面白かった。

「ヤバイ経済学」とか「不道徳教育」を初めて読んだ時は、常識が破壊されつつも、納得のゆく合理的な説明に衝撃を受けたわけですが、そういう本をいろいろ読んでいるとあまり目新しい事を書いている本が見つからなくなってくる。

まあ、たまに「ブラックスワン」とかすごい本が出てくるんですが、なにげなしに書店で手にとった本書はかなりよかった。元々は「なぜイングランドは負けるのか」という本を日本向けに書き足した内容。

これを読めば、「インランド代表が弱いのは国内リーグで自国の選手がレギュラーで活躍できないからだ。だから、外国選手を選抜で使うのに規制をするべき。」という、よくある言説が間違いだと合理的に説明してくれます。

プラティニとかは上記のようなルールを作ろうとしているけど、試合数が多すぎて選手が疲れちゃう問題とか、ジャッジにテクノロジーを導入するとかそういう方向に力をいれてもらいたい!

しかし、本番では見事にイングランドがドイツに粉砕されて悲しかった。

「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理