ゲゲゲの女房


最近、「ゲゲゲの女房」という本を読んでみた。水木しげる大先生の奥さんが書いた本。水木先生の人生観が面白い。

水木先生はとにかく睡眠を大事にする。手塚先生とか、偉大な作家達は死んじゃったけど、水木先生が生きているのはいっぱい寝たからだと言い放っている。やはり睡眠と食事は何よりも大事だということで、自分もいかにいっぱい寝る人生をおくるかをこれまで以上に真剣に考えてみようと思う。

まあ、これだけじゃないんですが、終わりよければすべてよしと奥さんが言っているあたり、水木マジックの幸せオーラに洗脳されて、結構真面目だった奥さんも最後には幸せものになっているところがほのぼのします。

一番面白いのが、奥さんはどんな人ですか?と水木先生が聞かれた時、「生まれてきたから生きているような人間です」と答えたところ。これは信頼がなせる技なのだろうか!

次は、水木しげる伝を読んで、さらに研究を進めたいと思います。

ゲゲゲの女房完全版水木しげる伝(上) (講談社漫画文庫)


拝金とメディアの支配者


ホリエモンの初の小説である「拝金」を読んでみた。当時のライブドア騒動とリンクしたノンフィクションなんですが、その背景を知ってると結構面白い。小説としては読むと内容が薄いので、当時の回顧録という意味で読むと見方が変わっていいと思う。

主人公が携帯ゲームのビジネスモデルを考えるところとか、記者クラブ制度や電波オークションを実施せずに既得利権を守るマスコミにひたすら文句いうとことかは最近の、池田信夫氏のブログで盛り上がってる部分とリンクしたりしてる。

特に、「メディアの支配者」で書かれていた昔のフジテレビのお家騒動のネタが出てきてここが一番いい。フジサンケイグループは元々、鹿内一族が牛耳っていたんだけど、今の社長の日枝氏がクーデターを起こしている。

その後、鹿内一族を完全に切り捨てるために複雑な株式の形式を持つようになったフジサンケイグループの弱点を突いて敵対的買収を仕掛けるところとか、当事者が当時を思い返して小説にしているんだなと思うと楽しい。

ホリエモンの本はたいてい立ち読みで十分なぐらいのハウツー本だとは思うんですが、「徹底抗戦」だけは当時の留置場の話とか、検察への恨み辛みのエネルギーがうねってて最高でした。この本は、「徹底抗戦」をめちゃくちゃ薄めて読みやすい小説にしたって感じです。

ちなみに、ここまで世間体を気にせず本音をバシバシ発表するのは本当に凄いと思う。だからこそブログも面白いのかな。
メディアの支配者 上拝金徹底抗戦


孫正義LIVEが面白すぎたので、関連本を2冊読んでみた


孫正義LIVE2011(全編)

孫さんのことはまったく知らなかったんですが、2日前になにげなく聞いてみたら面白くて一気に2時間たってた。
10時に寝る早寝早起きを実践して毎日であるわけですが、その日はたまたま12時まで起きてしまってた。
意識朦朧としていていて早く寝ないとと思っている時間帯、そこからさらに2時間聞かせるというのは自分にとっては相当凄い。
自分しかわからない基準ですが。

で、面白かったので次の日に図書館行って、よさそうな本を2冊読んでみた。
”孫正義 世界20億人覇権の野望”と”志高く 孫正義正”の2冊。
結論からいうと自分としては後者がオススメ。

理由は、孫さんのぶっ飛んだ学校時代とか、ひたすら熱い部分が詳しく書かれているから。
前者の”覇権の野望”のほうはボーダフォンを買うところとか、電通のクリエイターとの話とか、
最近のビジネス部分が多い。まあ、こっちも十分面白い。

実在しているスケールでかい人物の伝記はジョブスとかバフェットとかどうしても海外の人になって
しまうけど、これらは日本の話だから知っている会社がいっぱいでてきて面白い。
やっぱり海外のよくわからない会社の名前が出てくるより、ジョーシン電気とか、電通とか、
最近の携帯ビジネスの話は予備知識があるので楽しめます。

ちなみに、金融日記の感想がブログでは一番面白かった。

こういうスケールのでかい話を聞くと、ちっちゃいことがどうでもよくなるのである意味精神安定上よろしいかもしれない。まあ、仕事しすぎだろと突っ込みたくなる時もあるけれど、自分が楽しいことをやりまくるのは誰でも楽しいはず。宇宙の話とかもそういう意味ではいいんだけど、ちょっと非現実すぎるのがイメージわかなかったりするしなあ。


「君主論」を漫画から攻める


君主論 (岩波文庫)君主論 (まんがで読破)チェーザレ 破壊の創造者(1) (KCデラックス)

マキャベリの「君主論」は恐怖で支配するみたいなイメージで有名ですが、時代背景を考えて読むと面白かったりする。偏見なしで読むと意外といい本だと評判です。結構薄い本だけど、古典で古い本なのでいきなり読むと、なんかヒドい事が書かれていて特に興味が持てないみたいな状態になっちゃいそうな本であります。

でも、日本には漫画という世界に誇る素晴らしい文化があります。とっつきやすさという最大の武器を持った漫画から入ると、時代背景を楽しく理解できて、本編の君主論も断然読みやすくなる。理解もしやすい。

ということで、まずは「チェーザレ」っていう君主論のモデルになった人物の漫画がよくできていて面白い。今は7巻あたりまで出ているけど、中世ヨーロッパの勉強もできてお得。背景描写へのこだわりとかも巻末で書かれていて、凄い力が入っている漫画だなと関心します。

さらに、漫画で読破シリーズの「君主論」が最高にいい。漫画で読破シリーズは古典を漫画で読みやすく紹介するというシリーズです。これは当たりハズレが大きい。ハズレのものは小説を題材にしたものが多いけど、単純に漫画化してチープになっただけっていう展開がよくある。

それにひきかえ、「君主論」バージョンはいい。なにがいいかというと、君主論を漫画にしたわけじゃないというところ。単純に君主論を書くまでのマキャベリの歴史、時代背景を漫画にしている。ラストはこれからマキャベリが君主論を書き始めるところで終わる。なので、君主論を漫画にしたわけでなく、君主論を書いたマキャベリの半生から作者が影響を受けた事柄をざっくりと予習できます。

で、本編の「君主論」を読むと楽しさが違ってきます。特に漫画で読破シリーズの「君主論」は予習としてかなりいい。これを読む前に本編をいきなり読んだんですが、hmhmそうか、なんか当たり前のことのような気がするなっていうイメージだった。時代背景を少しでもつかむとだいぶ楽しい。

そもそも、君主論にのっているマキャベリの絵が完全に悪人そのもの。怖い。漫画で読破シリーズのマキャベリは顔も明らかに善人キャラ。ノンキャリアとしてのマキャベリが政治に奮闘する姿が熱い。

このように、とっつきやすい漫画から興味を持って本に移行するというのは最高に素晴らしいナイスアイデアだなあと常々思っていた。そしたら、下記のような本を見つけたので思わず注文してしまいました。
マンガで鍛える読書力


【書評】ハッカーと画家


ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち
超絶最高におもしろい。久々に遭遇した大興奮の傑作だと思う。今年に入って読んだ中で間違いなくベスト。

いくつかのネットベンチャーを立ち上げた著者が、様々なトピックに対して論理的に分かりやすく語る形式。デザイン、哲学、起業、プログラム、格差、タブーなどについて極めてわかりやすく、論理的に語っています。

ちなみに、ハッカーは犯罪者っぽい響きがあるけど、単純に優秀なプログラマーを意味する。個人主義が多いプログラマーにはリバタリアンが多いらしいけど、著者も生粋の自由主義者っぽい。

ベンチャー企業のスタートアップの話は、YAHOOに自社のアプリケーションを50億で売却した経験を元に非常に濃い話が書かれている。例えば、ベンチャーは普通の人が30年間分の働きを3年間で猛烈に働き、30年間分の給料を稼ぎ出すものだというくくりは最高に生々しく、面白い。そして、実際は一か八かでリスクの部分も具体的に書かれているのがいい。

”企業バカ”とか”ベンチャーはなぜ失敗するのか”っていう本に比べて、この”ハッカーと画家”は書かれていることの質が段違いに高い。

【口にできないこと】

時代によってタブーは変る。現在のタブーも未来の人から見れば笑えるものかもしれない。でも、現代の人間には今の常識が当たり前なのでわかりにくい。そういった事を見つけるには、他の人がそれを口にしたことで災難に巻き込まれたことを探す。タブーを真実とされると怒る集団がいて、それは真実である可能性も高い。

ここからがこの本の面白いところで、そういった考えは頭の中で巡らせてできるだけ口にしないほうがいいと書いてある。なぜなら、異端者としてそれを反対する人と議論をするのは不毛だし、それに多大な時間を費やす羽目になってしまうから。

このタブーの見つけ方、現実としてどう扱うかまでをここまで深く書いている本は初めて。ここが本書の最もオリジナルな部分かもしれない。

【10倍働くから10倍給料あげてくれ?】

秀逸なのが、富を創造するにはどうすればいいかという部分。上司に10倍働くから10倍給料をあげてくれと言っても無理。それは、大企業がそういう仕組みになっていないから。企業は普通の社員の評価を公正に計る方法がない。だから、10倍働いても10倍の成果がはっきり分からないので給料も上がらない。

本書では、しっかりと計れて、自由に生産性を高められる職だけが金持ちになれると書いている。

つまり、スポーツ選手やファンドマネージャー、企業のCEOなど。フリーのスーパー営業マンもそれに入る。成果が誰にでもハッキリとわかり、生産性を自由に上げることができる職種。これらの業種は働いた分だけお金を稼ぐことが可能になる。もちろん失敗のリスクも平等にある。

計れて、自由に生産性を高められる職につくとノルマとか仕事という感覚がなくなると思う。スポーツ選手が8時間労働を要求するとか聞いたことがない。ライバルに勝つために自分でやるわけで、それがもっとも生産性が高い。

【どうしてオタクはモテないか】

この本の中である意味一番どうでもよく、それだけに笑える部分。ただし、どうでもよい部分をひたすら論理的に考察しているのが笑える。

著者の主張を乱暴に解釈すると、オタクは頭がよくて身なりに脳みそを使っている暇がない。そして、他の人と同じように人気者になる労力を他の事柄に費やすからだ。と書いている。ここは、単純にギャグとして書いたのかもしれないけど、ひたすら論理的にオタクを擁護していてちょっと面白い。

自分もいろいろなもののオタですが、単純にオタクがモテないのは見た目が一番クリティカルなんじゃないかと思っちゃう。そして、逆説的には、モテることを諦めたからこそ他の事に脳みそを使うっていう部分もあるんじゃないかと。もちろん頭がいいんだろうけど。

そうはいいながら、著者はダンディなイケメンで学生時代もイケメン風でありました。関係ないけど、どんなものでもオタ化するほど知識がある人は面白い。でも、それを伝えられる能力がまた難しい。

NHKのデジタルネイティブという番組で、著者のグラハム動画への簡潔なインタビューが見れる。メッセージも簡潔でいい!
http://www.nhk.or.jp/digitalnative/index.html?id=n00


【書評】秀吉の人心掌握術が凄い「太閤記」


新史太閤記 (上巻) (新潮文庫)

司馬遼太郎マニアの先輩に勧められた本。めちゃオモシロかった。秀吉の幼少時代から天下を取るまでの物語。見所は秀吉の人垂らし術。さらには、信長と秀吉の相性抜群の主従関係です。

■超合理主義の鬼上司、信長

信長は人を道具としてみる。自分に役立つと分かれば身分に関係なく取り立てるし、役立たなければ切って捨てる。合理主義である信長だからこそ、身分の低い秀吉にも出世のチャンスが与えられ、秀吉はことごとくそれをものにしていく。

この主従関係がオモシロすぎる。秀吉は信長を神と思っているけれど、へまをしたり、嫌われればすぐ殺されるという緊張関係を常に持っているわけです。何かを進言する時も、常に信長に好印象を持たれようと計算し尽くし、持ち前の明るい性格を存分に使う。信長がいなければ出世も叶わなかったと、常に死ぬ覚悟で尽くしまくる秀吉の気合いが凄い。

例えば、信長に褒美をやると言われても秀吉はもらわない。貯蓄が増えると信長に警戒されるからです。ひたすら信長命の行動を取り、上司からすると神のような部下。うーむ、これは真似できん。

■人間の感情を重視する秀吉

信長が合理主義派だったけど、秀吉は人間の感情も考慮して動きます。信長は交渉時には、相手は合理的に動くと従うだろうというふうに考えるのですが、秀吉は人間心理を念頭においた行動をする。

結局、感情を軽視した信長は家来に殺されるわけですが、この超合理主義上司の欠点を間近で見ることが反面教師の役割になり、秀吉は感情を重視する政治工作を上達させたのかも。このへんが、人間は合理的に動くという前提の経済人仮説と、不合理な心理も踏まえる行動経済学の発想がだぶります。

■なんでも明るくやる秀吉

秀吉はとにかく明るくいく。出来るだけ嫌われたくない。陰湿な政治工作も明るくやるため、暗さがかすむ。信長は恐怖政治だけど、秀吉は相手の立場をたてまくる。身分や家の歴史というバックボーンがない秀吉は、信頼できる部下も少なく、こういった戦術に走るのは合理的でもあったらしい。

どうも、漫画「花の慶事」で出てくる天下人の怖い秀吉とはイメージがまったく違う。天下を取る部分で終わるので、秀吉の明るく、さわやかな部分を強調した小説でした。


【書評】適正価格は気分で変る「プライスレス」


プライスレス 必ず得する行動経済学の法則

パウンドストーン先生の最新作。前作「選挙のパラドクス」は最高だった。行動経済学の本は少し飽き気味なのですが、先生の本なら読まずにはいられません。結論から言うと、行動経済学の本としては一番オススメかもしれない。

日本の本にありがちな海外の著作のまとめ的な部分もなく、綿密な調査と、歴史の紹介など、オリジナルな部分がたくさんあってどれもおもしろい。

ただ、やはり、「予想通り不合理」とか、「行動経済学 経済は「感情」で動いている」とか、「その店で買ってしまうわけ」とか、「プロパガンダ」とかそっち系の本をいくつか読んだ後だとどうしても目新しい内容がなくなってくる。そこはしょうがない。そうはいっても他の本にない新しい視点もありまして、そこだけ紹介してみます。

■どれだけふっかけてもよいか?

他の本にはなかった視点として、アンカリングはどれだけ許容されるかという部分。交渉時は最初に大きな額を言うと、その価格が基準になって最終的に落ち着いた価格も相対的に高くなるアンカリング効果があります。

では、常識外れの価格をふっかけてもよいのか?例えば、自分の車を売ろうとしていたとして、いきなり一億円とか、とうてい受け入れられないであろう価格を提示した場合はどうなるか?

実験結果によると、法外な値段を最初につけた場合でも、しっかりとアンカリング効果はあり、最初に一億円を提示した場合と、最初に一千万円を提示した場合では、一億円を提示した場合のほうが最終価格が若干だけど上がったそうな。つまり、めちゃくちゃ高い価格で初めても、そこまで損はしないという実験結果が出たと。

ただ、これは現実的ではないと思う。そもそも、営業の人が冗談のような価格を顧客に提示すると、次回の交渉の席にも立てないかもしれない。相手を怒らせるかもしれない。

自分が就職面接を受けていて「年収いくら欲しい?」と聞かれた場合、法外な値段を言うと職につける確率も下がる。

なので、アンカリングは、高い値段を先に言ってもいいけど、交渉の余地を常に相手に残す必要があるわけで、ここのさじ加減がやっぱり難しいなと。

■アンカリングから身を守るには

本書では、世の中に溢れるアンカリングの数々から、どうやって正常な判断をするべきかという視点でも語っています。そうしないと、簡単に商品価格に騙されてしまう。最初から半額でも、半額の値札を見るとお得に見えてしまう。

本書での勧めは古典的な珍しくもない方法で、じっくりと違う立場になって考えたり、一つの情報で判断しないというもの。

この部分は当たり前なんですが、あらためて考えるとハッとするわけです。よくよく考えると、世の中には「常識」という名のアンカリングで溢れているわけです。何も商品価格だけじゃない。そう考えると、常にゼロベースで考えることの重要性がよくわかるなあと1人で納得してしまいました。

■感情で動いてもよいと思う時がある

最近は、その時の幸福度を追求するには、感情で動く必要もあるなと考えております。例えば、パスタの味。雰囲気のいいレストランで食べると高いし、家でレトルトを食べると安い。上等なピエトロのレトルトなんてかなり美味いから、純粋な味ではあまり変らない。

そうなると、場所代とか、その時の雰囲気にお金を払うんだなと納得できる時もあるわけです。ここはアンカリングとは違いますが。

さらには、やりたいことは出来る限り、やりたいという情熱が一番高い時にやったほうが満足度も高いし、人生も楽しいかと思う。先延ばしにすると、後からだと結構冷めてしまう。


【書評】文系に理系の素晴しさを説く!「理系バカと文系」


理系バカと文系バカ (PHP新書)
文系には理系の良さを、理系には文系の良さを教え、バランスの取れた思考はいいですよという指南書。特に、理系的思考の長所を上手く表現しているので、自分みたいな文系人間にとってはおもしろい。内容はゆるい。

序盤では、文系バカや理系バカのパターンを紹介している。正直、ここの内容はたいしたことないので読み飛ばしてもよし。おもしろくなってくるのは中盤から。理系的な視点はどう役に立つのか。文系的な視点はなぜ必要なのかを語るところ。

特に立ち読みしてでも読む価値あるのが、終盤の「なぜ微分積分が必要か」の部分。ここは別に微分積分の重要性を書いているわけではなく、いかにそれぞれの学問が有機的に繋がっているかを熱く語っています。

物理の土台には数学がある。細々とした事象をすっ飛ばして、一気に人間や経済の動きを学問にしたのが経済学。さらに、昨今の経済学では、人間の不合理な心理も取り入れた行動経済学もある。これは心理学がかかわってくる。この有機的な繋がりを説明する部分が本書のハイライトだと思います。

さて、文系と理系とこの本では区切っているけれど、まったく数学ができない人も論理的に考えることはできるわけです。例えば、論述文の構成、「なぜなら」の説明なども論理的思考を使っている。

直感的な思考の裏には、実は綿密な論理的思考が隠されていたりもする。スーパーで晩ご飯の材料を選んでいる主婦は、冷蔵庫の残り、商品の価格、食べる人数などを瞬時に計算して商品の選択をしたりするわけで、これは高度なプログラミングみたいなもんです。

結局、完全な文系人間や理系人間というものは存在しない。ただ、新しい視点、それぞれの有機的な繋がりを見るには別ジャンルの視点を訓練する必要があるんだなという気にさせられる本です。


【書評】ネット社会の影を突く「クラウド化する世界」


クラウド化する世界
クラウド化する世界

タイトルや帯の煽りからして、てっきりネット上であらゆる仕事ができるクラウドコンピューティングの話だと思っていました。日本版は出版社が売れやすいだろうと思って、流行りだしていたクラウドのイメージを強調したわけだったんですな。

めちゃくちゃ紛らわしい。おかげで、数年前に書かれたクラウドの話だったら今読んでも古いだろうと思っててスルーしていたじゃないかと。

■本の概要

本の中身は、電気の登場、パソコン、ネット、グーグルなど、様々なイノベーションによって社会がどう変化してきたか、これからどう変化していくかといった話。今読んでもまったく色褪せない。おもしろい。原題は「Big Swith」。

特に情報社会における検索技術、フィルタリング技術の発達による弊害に焦点を当てているのが、著者ニコラス・スカーのスタンスの模様。この本のおもしろい部分は間違いなくここです!

■フィルタリング技術の弊害?

フィルタリング技術発達により、消費者は自分の好みの商品を簡単にガイドしてもらえるようになった。けれど、同時にそれは機械が消費者の選ぶものをあらかじめコントロールすることになる。

例えば、Last FMという便利な音楽サービスがあります。これは自分の好みの歌手やジャンルを登録すると、自動的に自分の好みにあった歌手や曲をどんどん流してくれる。気に入らなければスキップして、気に入ったものを評価していけば精度が高まっていく。

似たような歌手を発見するのには最高なんですが、まったく違ったジャンルや今まで苦手だったジャンルの開拓はできなくなりがち。まあ、これは当然っちゃあ当然なので、アナログな方法と組み合わせれば問題ない。要はバランスの問題であって、自分の好きなジャンルの開拓は機械を使い、新しいジャンルは別の方法を使えばよいだけな気がします。

これに対してはそこまで大きな問題じゃないかなと思ったり。

■ネット社会が差別を生み出す?

こっちの問題は結構重要。ネット社会は自由であり、一見すると差別がなくなり異なる人種との交流を促進しそう。でも、実際は反対の機能を持ったりする。人間は自分と同じ趣味や考え方を持つ人と付きあいたがる傾向があり、ネット社会をそれを促進する。

ネット上のコミュニティでは自分と同じ考え方、趣味を持つ人を容易に探すことができる。テロリストはネットを使って簡単に構成員をリクルートできる。同じ思考の人間の意見を聞くと、自分の思考がさらに補強され、どんどん偏った考えが強固なものになってしまう。

この部分はなかなか考えるところが多かった。twitterとかは意見のフィルタリングが簡単にできるし、自分の好きな人だけしかフォローもしない。そうなると、どんどん自らの考えが偏っていく危険性はあるかも。

反対に、ネットによっていろいろな人と意見を交換する機会が増え、新しい考えを取り入れる機会が増えているっていう考えもできます。

■総括

この本は最終的にネットの弊害に話を持って行く感じ。著者はテクノロジーの進化に詳しく、それを利用した新しいビジネスにも言及している。それらを踏まえた上でネガティブな部分をどことなく強調しているのが他の本と違いおもしろいところ。

新しいテクノロジーによって失われるものは確かにあるけれど、それ以上に便利なのでそれを人々が利用するのを止めることは絶対にできないわけです。それによって失われたものは、必要なものであればあるほど逆に価値を持つものとして出てくる。

例えば、自然とふれあうのは大昔は当たり前だったけど、今では貴重な体験として商売にもなっている。

ネット社会の進化によって生まれる弊害も、それを補う需要がまた生まれるわけだと思うわけです。個人レベルで重要なのは、弊害を認識してそれに対処する方法も早めに考えておくことかなと。

例えば、本の決め買いはアマゾンを使って、偏りを修正したり大きな視点で見るためにたまにでかい書店を回るのもよいし。音楽も同じ方法が使える。


【書評】家族を悪徳営業マンから守る!「生命保険のカラクリ」


生命保険のカラクリ (文春新書)
生命保険のカラクリ (文春新書)
今回からタイトルをキャッチーにしてみることにしました。飽きたらやめるかもしれません。

ネットベースの生命保険会社を作った著者が、日本の歪んだ生命保険業界の体質を暴くといった内容。騙されて高い買い物をしてしまう家族を守るためと考えると、まあまあ役に立つ。興味がなければつまらない本。

素人が騙されてデカイ買い物をしてしまう金融商品として、不動産、保険、株および投資信託があると思います。これらはかなりデカイ買い物なくせに、感情に訴えやすいので親とかおばあちゃんがコロリと買っちゃいがち。

例えば、不動産だと「やっぱり自分の家がほしい」という感情がでかい。維持費とか、引っ越しできないリスクとか、災害時のリスクとかを考え得ると賃貸のほうがよい場合が圧倒的に多いのに30年ぐらい続く借金して買ったりしちゃう。

自分の場合、不動産、株、投資信託とかはなんとなくわかるけど、生命保険の仕組みはまったく分かってなかったわけです。分かるというのは、専門家じゃない限り手を出さないのが無難だなという程度です。しかし、保険関係は一般人にとってどこまで必要なのかというのがよく分からなかった。

ちなみに、現在の自分に当てはめると、お金がないし妻子もないので問答無用で必要ないわけですが。。まあ、とにかく今の自分にはまったく縁がないであろう保険分野。なにかの間違いで血迷った営業マンが保険商品を売りつけてくるという事態にそなえ、評判よさげなこの本を読んでみた。

乱暴に感想を言ってしまうと。。。

妻子がいるなら生命保険は意味がある。医療保険は日本という国の医療保険制度が手厚いのでほぼ必要なし。健康な場合お金が戻ってくるとか、ボーナスとかが出る保険は詐欺そのものであり、意味なし。自分の貯金が手数料取られて戻ってくるようなもの。

とにかく、保険商品はややこしい。東大、外資コンサルにつとめていた著者でさえ、紹介された時は内容が把握できなかったらしい。そんな複雑な保険商品をシンプルにわかりやすく分けてくれている。それは死亡、医療、貯金の3つ。

貯金の保険商品はまったくもって意味なしだと感じました。これは、保険というベールを使って高額な手数料を奪い取る悪徳金融商品であります。満期になると戻ってくる!とかいうやつ。もっと手数料が安いETFか、リスクの低い個人国債でも買ったほうがよい。

医療型も日本は国の保護が手厚いからあまり必要なさそう。法律で月の医療費は数万円までしか請求してはいけないとか決まっているらしい。会社勤めとか、公務員ならそっちの保護がいろいろとあるからなおさらいらない。

死亡型。これだけは妻子がいて、一家の稼ぎ手が死んだ時の貯蓄が足りない若い家庭には意味ありそう。将来に貯蓄できるであろうお金を担保するという意味で、時間を買う効果があり。ただし、ひたすらシンプルな掛け捨て型を。

どんな金融商品にも当てはまるかもしれないけど、シンプルなものが一番余計な手数料が潜んでなくてよい。複雑になったり、特典がつくほど悪徳商品の危険が高くなる。

ちなみに、わたくし、金融商品の9割は手数料をふんだくる悪徳商品だと思っておりますので、やや過激な物言いになっているのをご勘弁ください。

で、この本を読んで「さあ、悪徳セールスマンから家族や友人を理論武装して守るぞ!」と思ったとしても、そうは上手くいかないと思います。なぜかというと、結局、マンション購入の時の悪夢、「やっぱり自分の家がいいもん」の一言のように、感情で押し切られる可能性が大だからです。

「この本読んで!」と言って本を渡しても、こんなつまらなさそうなタイトルの本、よっぽど興味がないと誰も読みません。

そこで、感情に訴える一番有効な手を考えました。

「あの保険会社は、サブプライムローンで潰れた大手の系列だから、潰れちゃって不払いの可能性が高いよ!」

これです。これが一番キクはず!

と、本の知識が役にたったのか、たってないのか分からないオチになりました。