【書評】眠れなくなる宇宙の話


拷問読書 今週の一冊、累計129冊目。

本書では古代の宇宙研究の歴史からはじまり、近代までの宇宙理論の発展を気軽に知ることができる。有名なビッグバン説や、最新の宇宙理論まで素人でもわかりやすいように説明されています。宇宙好きだけど、そこまで詳しくない人にオススメ。

宇宙のことを考えるとワクワクするわけです。何億光年と離れた星で、どんな文明社会が発達しているかを想像するだけでおもしろい。宇宙の広さと自分の存在を比べると、どんな悩みも圧倒的に小さいものに感じる。

だから、なにかに悩んでいる人や軽く落ち込んでいる人には、適当に宇宙の話をします。とりあえず最初は話を聞いておいて、「まあ、気持ちもわかるが、宇宙の広さを考えると、地球なんてゴミみたいなもんで、その中のお前の存在はチリみたいなもん。だから、お前の悩みなんて小さすぎるから悩むのは損!」と、こんな感じでまとめるわけです。

ただ、宇宙の研究は私たちの生活にそれほど役にたたない。宇宙の構造に対する様々な説も常に変わり続けている。莫大な予算がかかる宇宙開発プロジェクトよりも、貧しい人々を救うべきだという声もあります。

じゃあ、なぜ人間は宇宙のことを研究するのか。それは人間が本来もつ「知りたい」という欲求を押さえられないからだと本書では書かれている。また、人間は非合理な行動をするけれど、本来は合理性を追求したがる動物らしい。

だから、神が人間を作ったという説や、地球の果てまでいくと大きな滝があってそこで海は終わるといった話に納得できない人が出てくる。その人たちはどうしても合理的じゃない説明に納得できない。万有引力を発見したニュートンや、地球は平らではないと考えたピタゴラスは人の何倍も知りたいという欲求が強かったのだろうと思います。

さらに、僕のような一般ピープルでも宇宙のことを勉強するとよいことがあります。それは、自らを客観的に見るのに宇宙の話は役に立つからです。最初の話に戻るけれど、宇宙という圧倒的な存在について考えると、自らの存在なんてチリみたいなもんなのです。

つまり、ポジティブシンキング本を読むなら、宇宙の本を読むといいのではないかと。

ちなみに、宇宙関連の漫画では「プラネテス」、「宇宙兄弟」、「度胸星」などがおもしろかった。

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【書評】天才数学者はこう賭ける


拷問読書 今週の一冊、累計128冊目。

パウンドストーンの本でおもしろそうなのはほとんど読んでしまったのですが、この本だけはちゃんと読んでなかった。ということで、久々にパウンドストーン先生の本を読んでみた。個人的にパウンドストーンの最高傑作は最新作の「選挙のパラドクス」だと思っているのですが、この本もおもしろい。

この本では、現代のコンピュータ技術の基礎となる理論を構築した天才数学者、クロード・シャノンにまずスポットライトを当てています。この人は相当な天才数学者であったらしく、もちろんノーベル賞も取っている。

また、ブラックジャックの必勝法である、カード・カウンティング手法を開発したエド・ソープも中盤から登場します。基本はこの2人の天才数学者が、ラスベガスでのギャンブルや株式市場に高度な数式を駆使して挑んでいきます。

株式市場は効率的なので、必勝法などは存在しないという通説に真っ向から挑むクロード・シャノン。ちなみに、効率的株式市場についてはウォール街のランダム・ウォーカーが詳しいです。この本はすごくいい本で、読むと株で一儲けする気がなくなります。なぜかというと、投資家は長期的には市場に勝てないよという理論を説得力ある形で延々と書いているからです。(最近の金融市場では適用できないことも多いらしいけど)

ランダム・ウォーカーの結論はこんな感じ。「投資家は長期的に市場に負けるのだから、自分に優良株を見つける才能があると思うのは間違いである。個人投資家にとって、市場全体と同じ値動きをするインデックス株をちびちびと10年以上買い続けるのがもっともよい戦略である」

まあ、こんな形で効率的市場仮説の学者にとって、株式投資に必勝法は存在しないというのは普遍の事実のようです。もし必勝法などが開発されても、みんながそれをすぐに真似するため、必勝法は即座に使えなくなるという理屈です。

しかし、世界第二位の富豪である投資家バフェットのような例外がいるのも事実。天才数学者クロード・シャノンはケリー基準という手法を使って株式市場で驚異的な成績を残したらしい。

この本の醍醐味は天才的な頭脳を持つ数学者が、必勝法らしきものを駆使して株式市場やラスベガスに打ち勝とうとする過程。ブラックジャックでは確かに必勝法が確立された。でも、株式市場で勝利を手にしたシャノンの手法は意外と地味で、バフェットのようなファンデメンタルを重視した長期投資だったというのがまたおもしろかったりします。

で、この本のなにが最高かというと、天才数学者がその抜群の頭脳をギャンブルという世俗的なことに使いまくっているところ。シャノンはなんの役にも立ちそうにないことの研究にいつもはまっていますと自ら言っている。株だけに限らず、彼の研究室には不思議なオモチャでいっぱいだったらしい。

ソープはギャンブルで大もうけするためラスベガスを渡り歩いて大金を稼ぎまくります。「天体物理を研究しています」とかだったら学者っぽいけれど、金儲けにダイレクトにつながることをひたすら研究している姿勢が最高でありました。

ちなみにソープが開発したブラックジャックの必勝法を使って、MITの天才学生たちが荒稼ぎする「ラスベガスをぶっつぶせ」もおもしろかった。特に、奨学金のために圧迫面接を受けている最初と最後のシーンがいい。

拷問読書


【書評】サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領


拷問読書 今週の一冊、累計127冊目。

現役のフランス大統領サルコジのおもしろさがよくわかる本。おもしろくて読みやすい。著者はフランス支局で働く朝日新聞の新聞記者。サルコジへの取材を通し、この変な大統領に魅力に取り付かれて本まで書いてしまった。

まず、サルコジは一国の大統領とは思えない言動や行動を繰り返す。暴徒を起こした若者をクズ呼ばわりしたり、テレビの前で人を罵倒したりする。結婚は3回で相手はスーパーモデル。ここまでで十分おもしろいのに、休日の趣味がスポーツ新聞の精読。こんな感じで、ネタとして楽しすぎる大統領なわけです。

じゃあ、なんでこんなメチャクチャな奴が大統領なんだろうと普通は思う。ところが、サルコジの言動や行動は綿密な計算にもとづいている。とにかく自分を演出するストーリーテリングにたけています。

市長時代のサルコジが有名になったエピソードとして、人質犯と自らが交渉を行った話がある。爆弾を持った犯人を説得し、見事人質を解放してヒーローとなる。一歩間違えれば死ぬので普通に凄いサルコジ。でも、交渉前に心理学の専門家と犯人の精神状況を分析していたり、解放後に自分がテレビで目立つためのマスコミをしっかり準備したりと、したたかさにたけているサルコジさんであります。

最近読んだ「アニマルスピリット」の中でも、人間は必ずしも合理的に行動しないため「物語作り」が重要な要素となると書かれていた。そういう意味でサルコジは、自分の物語を演出する才能が突出していそう。

国民の支持を得るための政策立案、普段の行動も計算して行うサルコジ。その裏には、一流のコンサルティング会社であるボストン・コンサルティングのアドバイザーがついているのが驚き。大統領のイメージ戦略に税金が使われているというのも変な話だ。

一歩間違えればヒトラーみたいな独裁者になりそうな人物なので、サルコジ反対派の国民も多い。でも、その分熱狂的なファンも獲得している。全員に好かれるよりも、ある程度の固定ファンを獲得すればよいという手法なのだろうなあと読みながら思いました。


【書評】アニマルスピリット


拷問読書 今週の一冊、累計126冊目。

人間は必ずしも合理的な行動をするわけではない。その時々の状況に応じた心理であるアニマルスピリット、この存在が経済を分析するうえでとても重要になってくるという本。行動経済学の視点から、それをどのように経済政策に当てはめるべきかという観点まで進めている。そのため、「予想通り不合理」などの行動経済学の導入本よりも一歩進んだ内容となっています。

読み始めて思ったのが、思ったより内容が難しいということ。自分は数学がからっきしだめなので、数式がズラズラと出てくる経済本はまず読まない。もちろんこの本にも数式は出てこないのですが、書かれている内容がちょっと予想より難しかった。少なくとも、「予想通り不合理」や「人は意外に合理的」のような読みやすさはない。

とはいっても、この本はかなりいい。今まで自分が持っていた経済に対する考え方を変えさせられてしまいました。「ふむふむ、そうですよね」っていう本は結構あるけれど、「うーむ、ちょっと今までの考え方は間違ってたかも」っていう本に巡り会う機会はなかなかない。そういう意味ですごくいい本でした。

まず、自分は「不道徳教育」や「ハイエク」に影響されて以来、市場原理にできるだけ任せる政策が一番よいと思ってきたわけです。大きな政府より小さな政府で、できるだけ政府の介入を少なくすればもっとも効率よく世の中が動いていくだろうっていう考え方です。簡単な例でいうと、解雇規制や最低賃金などの規制をなくし、雇いやすく、雇われやすく、辞めやすいシステムになるほど人材の流動性が上がり、それぞれにもっとも適した職場にたどり着ける確率が上がるだろうっていう考えかたです。

こうなると、どこまで政府が介入するかの線引きが難しくなってきて、究極的にはすべて民営化で採算のとれない地方はガンガン切り捨てることになる。極端な話、生まれたところで人間を差別するのも変だし、規制を取っ払うのであれば移民も完全に受け入れようって話しにもなる。

このように、規制をなくして市場原理に任せるほうがいいのだけど、どこまで政府が介入すれば一番いいのかはよくわからないと自分では思っている。経済学者の間でもここが一番意見の分かれるところなんだと思います。

さて、この本のおもしろいのは、こういった「規制のない自由市場を作り出し、市場原理に可能な限り任せるべきだ」という考えに対して、「人間はしばしば不合理に動くから政府が市場に介入しなければいけない」といったことを書いているところです。格差社会になるからとか、弱者を切り捨てることになるといったよくある理屈で完全自由市場に反対しているわけではないのが自分にとって新しかった。

つまり、人間は不合理な生き物だから、規制の少ない自由市場であっても、経済学者の思うような均衡状態にならない場合があると主張しています。自由市場に変更して成功したポーランドの例や、市場が大きすぎてこれまでの慣習などの原因から失敗したロシアの例など、実際に市場原理が失敗した例も書かれていておもしろい。

特におもしろいのが、「なぜ失業者が出るのか?」という項目。経済学的に見れば、雇ってもらえないならば賃金を落とせば両者の均衡が保たれるといった単純なお話らしい。だけど、雇い主側は従業員が他の会社に簡単に行かないように、実際の能力より高い給与を支払うインセンティブが生じているのだとか。この上澄みが不均衡を生み出し、人材の流動化への壁となるようです。このへんは、「マーケットの馬車馬」に書かれていた話と似ている。

前々から読もうとは思っていたけど、読んでよかったです。


【書評】飛ぶが如く 10巻


拷問読書 今週の一冊、累計125冊目。

最終巻ではとうとう西南戦争が集結。西郷隆盛が戦死して反乱軍が敗れ、勝利した官軍の大久保利通もその後まもなく暗殺される。日露戦争を描いた「坂の上の雲」の次に読んだ「飛ぶが如く」だったけど、期待通りのおもしろさでした。

今まで上記2冊のような長編歴史小説は読んだことがなかったけれど、読みながら一番印象に残るのはその時代を生きる人々の価値観。現代を生きる人たちと違い、時代が変われば世の中の常識やこう生きるべきとされる考えもまったく変わるのだなあと感じます。

例えば、「飛ぶが如く」の薩摩士族たちはその身分が保障されなくなろうとしている武士たちであり、幼い頃から戦場で死ぬことがもっとも幸せで名誉であると信じて生きてきている。この小説の薩摩士族たちは、明治政府による国家というものが作られる過程で、武士というアイデンティティを奪われることに対する憤りから国家に対し反乱を起こしています。

「坂の上の雲」の登場人物たちは、明治政府により作られた国家というものに命を捧げるために生きていきます。日本を侵略しようしてくる大国ロシアに対し、勝てなくてもいいからなんとか植民地にだけはされないよう国を挙げて戦った時代。ここでは、国家のためになにができるかを生きる目的としている人たちが主役です。

まあ、当時の国民みんなが似たような価値観を持っているわけではないし、庶民の間ではなんとなく生きている人々も数多くいたと思う。それでも、「あなたはなんのために生きているのですか?」と聞かれ、「ロシアの侵略から日本を守るためです!」とか、「政府を討伐する西郷先生のために戦うことです!」とか即答できる人々は単純に凄いし、尊敬してしまうわけです。

今の時代から見れば、藩や国のために自分の命を捧げるのは嫌だなと思うかもしれないけれど、使命を持って生きることは当人にとっては幸せなことだと思う。そんな事を考えていると、もし100年後の日本人たちが現在の日本人の価値観を学んだ時にどう感じるんだろうなと思いました。

仕事への価値観がまったく変わっているかもしれないし、男女関係への価値観も同様かもしれない。結婚して子供を作って、いい暮らしをするのが一般的な幸せではなくなっているかもしれないし、そういう根源的な価値観はいつまでも変わらないのかもしれません。

このように、昔の軍人たちの生き様やそれぞれの持つ使命にしびれながらも、時代や立場によってまったく違う価値観が特に印象に残った。当時の人々は生き方の選択肢が現代に比べて極端に少なかったはずなので、迷いのある人が少なかったのだろうなとも思う。自由というのは素晴らしいけれど、選択肢が多ければ多いほど人間の悩みも多くなるんだなとも思いました。


【書評】ジョゼ・モウリーニョ


拷問読書今週のノルマ2冊目。累計29冊目。その言動と実力により、サッカー界でもっとも注目されている監督、モウリーニョ本人公認の本。モウリーニョの友人であるジャーナリストが側から見たモウリーニョの記録を本にしたという形。



・以前から読みたくて期待していた本だったんですが、正直期待ハズレだった。

モウリーニョの生い立ちから詳細な人物像に迫るというような自伝本を期待していたけど、いきなり監督就任前から始まる。

さらに、モウリーニョがなぜあれほど一流選手達から信頼されるのかといった、コーチングに関する部分や、モチベーターとしての秘密に迫る部分もほとんどなし。。副題が「King of 監督」誕生ストーリーなのに、これじゃイカンですよ。。

・実際のところ、本書はアシスタントコーチからポルトの監督としてチャンピオンズリーグ優勝までの軌跡といった本。

本の大部分は、当時の監督をしていた試合の裏側などを淡々と書かれている感じで、サッカーに詳しくない人はまったく楽しめない内容。詳しい人でもポルトガルリーグ自体がマイナーなので、当時のレイリアやベンフィカ、ポルトといったチームの選手名を把握するほどのマニアは日本では少数派だと思う。

当時のチーム事情を知っていなくても楽しめる内容だったら無問題なんですが、困ったことに当時の試合の展開の解説とか、選手の起用理由などが大半。それについて淡々と書かれている部分が多いのでかなり眠くなってしまう。

僕はプレミアリーグとかは好きなのでよく見るんですが、当時のポルトだとマッカーシー、デコ、パウロ・フェレリラ、カルバーリョなど、のちのちビッグクラブに移籍した選手ぐらいしか分からず、特にその選手とモウリーニョとの逸話が書かれている部分が多いわけでもなし。

もし、これがチェルシー就任後の話も書かれていたら多少は面白い内容になっていたんだと思う。チェルシー時代だとレギュラー組から控え選手まで知っている選手が増えるし、その当時のフォーメーションの解説も当時を知っていると面白いはず。

残念ながらこの本はチェルシー監督就任で本が終わっている。チェルシー監督就任までの裏話も、アブラモビッチの豪華な船で話をしたとか新聞で読んだような内容がほとんどで特に目新しい部分もなし。ダメダ。。

・まあ、それでもモウリーニョとクラブの経営陣との政治的な話があるパートはそこそこ面白い。

この本を読むと、会長の方針と監督の方針が一致することの重要性が分かります。モウリーニョは会長に自分の指導方針をプレゼンして、自分の納得するやり方をさせてもらわないと仕事を引き受けない方針を貫いています。

ただ、クラブの会長やオーナーは結構コロコロ変わる。だから、前会長と監督の方針が合致してたとしても、会長が変わった瞬間からその監督は次期監督が決まるまでの代役になってしまうのがつらいところ。

不振のベンフィカを建て直して抜群の成績を残しながら、前会長が選挙で負けてしまったためにクラブを追われた経緯や、その当時のクラブ経営陣がいかにモウリーニョを辞めさせようと嫌がらせをする話などはなかなか面白いです。

・ビッグクラブではないレイリアを指揮した時

ベンフィカの監督を解雇されてから、モウリーニョは一時的にレイリアというチームの指揮をとります。ここで、モウリーニョは選手達に、「おそかれ早かれ俺はビッグクラブに行く。でも、このチームで見込みのある選手は一緒に連れて行く予定だ」といって選手のやる気を高めたらしい。

このへんのくだりとかはなかなか面白い。こういう、いかに選手のモチベーションを上げるか、といった具体的な部分をもっと掘り下げてほしかったしだいであります。


【書評】迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか


拷問読書 拷問読書今週の一冊、累計121冊目。

かなり期待して読んだけれど期待を裏切らないおもしろさだった。原題は”The Survival of The Sickest”。読みやすくておもしろい。

進化とは可能な限り優れた遺伝子を残していくものなのに、なぜ病気の遺伝子が受け継がれていくのか?そもそも、なぜ人間は病気になるのか?この疑問に対して、進化医学の専門家であるシャロン・モアレムがおもしろおかしく説明していきます。

人間が病気になるのはどうしてなのか?それは、長い目で見れば自分に毒である薬を人間が使う理由と似ている。後からの副作用があるけれど、その薬を飲まなければ明日死んでしまうから。

例えば、糖尿病の遺伝子は氷河期にたいする人類の進化に関係すると書いている。寒冷化において、体内の液体が凍ると細胞が傷つけられて非常に危険になる。それを防ぐには体液が凍りにくいようにする必要がある。

純粋な水は0度で凍るけれど、糖分を多く含む水が凍る温度はもっと低い。つまり、体液をできるだけ凍らせないようにするため糖分を溜め込む遺伝子を持つ人間が生き残り、その影響で糖尿病遺伝子が受け継がれていくという説。

病気の遺伝子が受け継がれてきたのには理由があり、人類が生存に適した進化を選択した結果である、というのがこの本のスタンス。

さらにおもしろいのが冷凍保存の話。未来の科学力で復活することを期待して、死語に体を冷凍保存するサービスが現在でもある。人間の臓器は冷凍保存しても数時間で使用できなくなるので、臓器移植はいつも時間との戦いになる。

こういった人類の苦労を横目に、自分の体を完全に冷凍保存状態にできるカエルがいる。冬眠状態では心臓も完全に停止し、目も死んだ状態と変わらない。その状態から必要な時期に自然と息を吹き返すことができるのだとか。

この本を読んで思うのが、世の中のいろいろな不思議な現象も、ひもといていくとなにかしらの理由があるのだなということ。特に、理由がわからない現象ほど答えに近づいた時はおもしろいですな。

ちなみに、この本が読みやすくおもしろくなっている理由は、プロのジャーナリストが文章を書いているというところ。よい学者がよいライターであるのはまれなので、こういう形式でどんどん難しい研究も本にしてほしい。

この本の書評では、shorebirdというページが一番よかった。この本のおもしろさも指摘しながら、進化医学の最新研究から遅れているといった部分もバシバシ指摘しています。


【書評】The Blind Side マイケル・ルイス


拷問読書今週読んだ本で一番面白かった一冊、累計119冊目。

マネー・ボール」や「ライアーズポーカー」などで有名なマイケル・ルイスの本。2007年に発売され、アメリカでベストセラーになりながら日本語版が出てない。日本人には馴染みのないアメフト、それもカレッジフットボールを扱った内容だからだろうけど、アメリカでは今秋に映画化までする盛り上がりよう。

アメリカのアマゾンでやけに評価が高かったので洋書版を読んでみた。スポーツを題材にしているから英語も簡単で、アメフトの知識がほぼない自分でも十分楽しめました。むしろ、この本を読むと自然とアメフトに興味が出てくる。

本は大きく分けて2つのパートが混ざり合ってできている。ひとつはホームレスだったマイケル・オーアという少年が裕福なクリスチャンの夫婦に引き取られ、恵まれた体格と運動神経をいかしてカレッジフットボールで躍進していく話。もうひとつは、アメフトにおけるレフトタックルというポジションの進化、およびカレッジフットボールを取り巻く話。

悲惨な少年時代を過ごしたマイケルがNFLのスター候補にまで上り詰める話はもちろん面白いけど、自分はスター選手をなんとか確保しようとするカレッジフットボール界の話や、クオーターバックを守る選手達の動きを掘り下げたパートが一番楽しめた。

アメフトはチームスポーツ。パスを出すクオーターバックやボールをキャッチするレシーバーの華やかな動きの影で、タックルに来る選手をブロックしたりレシーバーが走る進路を開けるために大男がぶつかり合っている。

例えると、華やかなクオーターバックとレシーバーの周りで、明らかに極悪顔な100キロを超える大男達が押し合いへし合い、つかみ合いの大相撲を繰り広げているわけです。

こうした各自の綿密な動きがアメフトの魅力だと思うのですが、この本では特にクオーターバックを相手のタックルから守るラインの選手にスポットライトを当てている。右ききが多いクオーターバックの死角(Blind Side)である左からのタックルがレフトタックルと呼ばれるのですが、ここを守る選手が近年のアメフトではクオーターバックの次に重要なポジションとなっている。

クオーターバックの死角からタックルに来る相手選手は一番能力が高く、危険な選手。それを守るためには、体がでかいだけでなく、横への敏捷性、足の速さ、相手を受け止める手の長さや大きさなど、あらゆる素質を求められるためなかなか見つからない。

ラインの選手は平均で193センチ、140キロ以上と怪物達が多いのですが、その中で最も優れたアスリートのためのポジションというわけです。

人間ドラマとアメフトのパートがいいバランスで混ざりあっていて飽きない。スポーツ好きにはもちろん、アメフト好きにはたまらん本なのではないでしょうか。

こちらはマイケル・オーアのハイライト動画。アメフトに詳しくない自分はよく分からないのですが、外国人のコメントを読む限りでは、「相手を逃がさないフットワークがすげえ!」、「タックルされた後のバランスがヤバイ」とのこと。


【書評】波乱の時代


拷問読書今週1冊目、累計118冊目。20年近くアメリカ経済の司令塔として舵をふるってきた元FRB議長の回顧録。専門的な分野もあるにはあるが、歴代の大統領とのやりとりや、その時々の経済政策を語る話はスケールがでかくて単純に面白い。アメリカでベストセラーを記録した本。

音楽隊で働いていた軍隊時代から始まり、大学で金融関係の才能を発揮して経済雑誌の執筆を勤め、金融のコンサルティング業をやるといった回顧録を細かく話している。

途中からは、経済のことならグリーンスパンが最も詳しいとまで言われるようになり、数々の歴代大統領の経済顧問など、世界経済界のトップを走り続けていった時代の裏話がいろいろ書いている。

例えば、一緒に働いた歴代大統領でもっとも頭が良かったのはニクソンとクリントンだったとか。ニクソンは抜群に頭がよかったが、マフィアのボスのように振る舞ったり、何に対しても反対意見を言う攻撃的な性格にどうしてもなじめなかったそうな。

また、クリントンに対しての賞賛も多く、様々な分野への理解や、人の話を真剣に聞く姿勢を常に表すといった政治家としての資質を評価している。それがあったからこそ、当時の秘書だったモニカ・ルインスキーとの不倫事件にはショックを受けたと書かれている。

「シークレットサービスがいつも一緒で、クリントンの様々な顧問達も常に入れ替わり立ち替わりする状況の中、不倫なんてできるわけない!」と当初は報道をまったく信用していなかったが、それが事実と分かると非常に失望したとか。

ここまで厳重な網をくぐり抜け、ちょめちょめしていたクリントンはある意味すごい。ケネディーはすごいプレイボーイで有名だったらしいけど、クリントンは一緒に働いていた同僚達からそういうふうには見られてなかったみたいですな。

ブッシュ政権に対しては批判的。ブッシュは公約として大幅な減税を打ち出していましたが、任期中の経済の状況において減税するのはどう考えても合理的でない状況になっていた。それでもブッシュは公約を守ることを優先して減税を押し通したことなどを批判している。

このへんを読んでいて、公約を守ることは重要なんだけど、それを固執するあまり、状況が変化した時に柔軟に動けなくなるのは難しい問題だなと感じました。政治家としての立場からは公約を守らないことは重大な汚点にはなるのだろうけど、経済の専門家からすると木を見て森を見ず写ってしまうんだろう。

まあ、そのへんのたてまえと現実的な方針のバランスをうまーくとるのが政治家の力量が問われるところなんだろうと思うけど、ブッシュはダメだったと。。「さらば、財務省」に書かれていたけど、小泉元首相は理想と現実のバランスを取るのが非常に上手かったとか。


【書評】プログラマーのジレンマ


拷問読書今週1冊目。累計116冊目。天才プログラマー達による、オープンソース開発プロジェクトを追ったドキュメント。最近出版された本なので、内容も新しい。基本的にはソフトウェア開発の困難さを描いた本なので、素人でも読み進められる。

優秀なプログラマー達がそろっているのに、あれもこれも機能を実装したいとなり、いつまでたっても計画が実現しないプロジェクトの話。本の最後になってもプロジェクトは終わらない。そのため、ストーリー性はそこまでなく、本自体はそこまでおもしろくない。

ただ、様々なバックグラウンドや性格を持つプログラマー達の話は興味深いし、なんといっても、プロジェクトが計画通りに進まない行程の話がいい。

ソフトウェアにいろいろな機能を付けたがる技術者たち。当初の予定どおりに計画は進まず、イライラがつのる。これを読んでいて思ったのは、難しそうになったり、時間がかかりそうになった時、ある意味で適当に終わらせるという割り切りが重要だなということ。

完璧主義者は天才を生み出すことがあるけれど、それが弊害となって、必要とされている時に作品が間に合わなかったりもする。AKIRAを作った大友克洋のスチームボーイなんかその典型なんじゃないかと。

AKIRAの映画版が世界的な評価を得て、新作のスチームボーイを世界中のファン達が待ち望んでいた。でも、新しい技術が可能になるたびに、作者が1から書き直したり、いろいろと納得がいかないところを修正したりして何年も完成が遅れたと聞いたことがある。

結局、当時は斬新でも完成する頃には目新しくなくなり、作品自体もパッとしなかった。まあ、こけた理由は脚本がダメすぎたことで、完成時期が大幅にずれたのとは関係ないかもしれないですが。

人間は誰しも、細部にこだわりすぎて時間が予想以上に過ぎていってしまったという経験があると思うのです。例えば、テスト勉強していて単語帳を作り始めるとする。そのうち、その単語帳を作るのに思ったより手間がかかり、想像以上の時間を費やしてしまったとか。

この問題を解決するには、時間を区切ってその時間内でできることしかしないと割り切る

というやり方がある。時間内でできることしか考えないから、自然と一番重要なことに手をつけられるといった利点があります。

ただ、こればっかりやっていると、短期的なスピードにばかりとらわれて、長期的な成長がなくなるという欠点もあったり。例えば、目の前の作業を1時間以内で終わらせるには今までどおりのやりかたをするしかないけど、2時間かけて新しい方法を練習すれば、次回は30分で終わらせることができるといった状況もある。

その時々によって、常にバランスを意識するのが重要なのかなと考え中です。