【書評】資本主義崩壊の首謀者たち


拷問読書今週3冊目。累計115冊目。世界同時不況を引き起こしたのは、アメリカの金融エリートたちだ。そいつらをひたすら叩くぞ!といった内容の本 です。叩かれる人達は、元FRB議長のグリーン・スパンを筆頭に、アメリカ金融業界の重鎮たちの面々。これだけ聞くとよくある本みたいに聞こえるが、この 本は叩きに対する掘り下げが細かく、叩く対象の数が多い多い。

例えば、リーマンブラザーズ創業一家の家系図を使って腐敗の系統を説明したり、シティグループと政府の財政顧問達のつながりを指摘したり、ロスチャイルドファミリーと現在の政府高官たちの系統を説明したりと。

オバマに対しては、地域に根ざした地道な活動を続けてきた正義の弁護士であり、政治家だと評価している。でも、新しいオバマ政権の金融担当に任命された面々が過去にやってきたことはね。。。みたいな形で叩きが再開。普通、ある程度はその人達がやってきた功績も少しは紹介するのですが、この本に関しては、そういった生ぬるいことは一切なし。徹底的にウォール街の金融エリートをメッタメッタに叩きます。

こいつらが世界の金融業界を牛耳る大犯罪者たちだ!といわんばかりに、(というか、そう言っている)ユダヤ人系列の大物たちの系列一覧まで作る徹底っぷり。 なんか、ここまで一方的だと逆に、サブプライムも最初は貧しい人達が家を持てる制度だと評価されていたんですよね、と金融エリートたちをちょっと擁護してしまいそうになります。

著者はアメリカ金融界の本を多数出しているので、この分野は相当詳しいのだとは思う。スケールのでかい金融業界の闇に対しての知識もつく。しかし、本書を読んでもっとも勉強になったのは、よかった部分を少しもあげないで、ひたすら批判すると説得力が少し下がるなあということ。メリットとデメリットの両面を話さないセールスマンが信用しづらいのと同じ理屈ですな。

その点、「なぜ世界は不況に陥ったのか」は、失敗は必ず繰り替えされるから、その後どうやって被害を最小化できるかという仕組み作りが大切というスタンスだった。後付けで金融政策を叩くといった方針ではなかった感じです。

でも、この国際的な金融腐敗の実態は本当だろうし、金融会社のトップ達が政府の中枢に入りこみまくりのアメリカの構造はびっくりします。日本で証券会社の幹部達が財務省長官に上り詰めるとかまず聞かない。

ちなみに、本書で絶賛されている、アメリカの漫画家による政治の風刺画の紹介と解説はかなり面白い。筆者いわく、アメリカの風刺漫画家の知的レベルは高すぎる!とのことです。


【LIVE】エミマイヤーのライブに行ってきた


先日エミ・マイヤーという新人JAZZシンガーのLIVEに行ってきた。最高でした。今まで行ったすべてのLIVEの中で一番よかった。場所は渋谷クアトロ。客は200人程度でパイプイスで座って聞く形式。客層は中年層が多い。ピアノ+ウッドベース+ドラムの3ピース。特別ゲストのギタリストがたまにチャチャいれる形。声量があるのでCDよりLIVEのほうが全然いい。この人はあっという間に売れてしまうかもしれない。

CDは7曲程度しか入ってないのですが、LIVEでは新曲含めて13曲ぐらいやってた。CDに収録されていない曲のほうがいい曲多いというジレンマ!

新人だから3000円ぽっちで聞けたんですが、もう最高でしたね。最後のほうにビートルズのLet it beをピアノで弾き語りし始めたのですが、神が降臨してました。CDよりLIVEのほうがいい人っていうのは大抵声がいいんですが、その典型だなあと思った。

ちなみに、生のエミ・マイヤーは写真や動画より若くて数倍かわいい。写真だと35歳ぐらいに見えるけど、生だと22歳ぐらいに見える。あらゆる意味において、Liveでここまで違いが出る人は珍しい。


【書評】ブラックスワン上・下


拷問読書 拷問読書今週2,3冊目。累計111,112冊目。前作「まぐれ」の続編。前作は自分にとっては衝撃的でした。少なくとも「まぐれ」を読んでからものの考え方が変わった。今までの考えをひっくり返してくれる本はなかなかない。凝り固まった頭をハンマーでたたき壊してくれるような本だった。

簡単に著者の主張を説明するとこんな感じです。今までずっと起こらなかった事態だからといって、明日も起こらないとは限らない。今まで見た白鳥が全部白だったから白鳥は白いものだと思っていても、明日に黒い白鳥が発見されればその前提はくつがえる。

過去の世界恐慌も人間は防げなかったし、金融工学が発達したと思っていても最近の同時不況が防げなかった。とにかく、未来が予測できると思ってはいけない。世界は死ぬほど複雑で、先のことになればなるほど予測の精度は絶望的に下がっていく。

つまり、長期的な予測なんて不可能だと。それが現実なのに、リスクを理解していると勘違いしている状態が一番危ない。そういう人たちは黒い白鳥にやられてしまう。

また、世の中での成功事例はほとんどがまぐれの産物であり、あとづけの解釈は意味がない。なぜなら、一握りの成功者の下には数限りない敗北者がいて、母数から考えると、その他の人々と同じようなことをしても成功する人は出てくるに決まっているから。

例えば、成功者のスティーブ・ジョブスのやり方がもてはやされているとする。彼の特徴は、独断的で、カリスマ性があり、顧客の意見を聞かず、菜食主義者であったとする。でも、ジョブスと同じような性格で同じようなやり方をしても成功しなかった人は大勢いる。ジョブスが成功できたのも運の要素が非常に強い。

黒い白鳥に対する著者であるタレブの対処方法はこんなもの。大きな影響が出そうなリスクには、それがどれだけ起こりそうになさそうでも被害を最小限に抑えられるようにしておく。逆に、被害が小さいリスクに関しては気にしない。積極的にリスクをとる。

黒い白鳥にはよいものもある。期待していなかったのに思わぬ幸運をもたらすようなものがそれにあたる。どうせ未来は予測できないのだから、幸運をもたらす黒い白鳥を積極的に狙おうということらしい。

本書、「ブラックスワン」は前作「まぐれ」よりも評判がよくて、ずっと日本語版が出るのを待ちこがれていました。待ちきれずに原書を読み進めてみたりしたが、日本語で読んでも難解な内容なので途中で止まっていた。難しい単語が多すぎた!

読んでみた感想は、「ブラックスワン」は前作以上の出来かもしれない。かなり期待して読んだけど、期待以上の出来。前作は主に金融業界の世界から不確実性の概念を語っていたけれど、今作ではもっと一般的な世界にひそむ黒い白鳥を取り上げている。特に、前作にはなかった“果ての国”という概念がおもしろい。新しい考えを持たせてくれました。


【書評】雇用の常識「本当に見えるウソ」


拷問読書今週1冊目。累計110冊目。著者はリクルートで人事制度設計などにかかわり、漫画「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人、海老沢のモデルにもなった人。本を出すのは初めてのようです。

「終身雇用は崩壊した」、「転職率が以前より増えた」などの、世間一般で信じられている俗説の真実を解き明かす本。TVや新聞などで言われていることと正反対の事実がぽんぽんと出てきておもしろい。

この本をペラペラとめくると、いたるところに統計データを元にした数字やグラフが出てくる。それぞれの論拠には統計データの証拠があげられているので、文字だけで語るより大幅に説得力があります。

■ 転職は一般化していない

数字で見ると、ここ十年の転職率は2パーセントほど上昇しただけ。欧米諸国と比べ、日本の転職率は以前低いまま。勤続一年未満の労働人口比率で、日本は実質6%、アメリカは約28%、EUは約17%。

アメリカでは転職を頻繁にするが、気に入った会社があると長居するといった傾向があるらしい。日本は若年期に頻繁に行われ、その後は長期滞在といった形。ちなみに、日本のケースでいえば、転職すれば生涯年収は下がっていく。これは、転職して年収アップ!と転職代理会社が煽っている現状とまったく逆の現象。

■ この本がおもしろいところ

日本型長期雇用のメリットは社員同士が助け合うインセンティブができることであったり、企業が長期的に社員を育てるメリットができたりする。逆に、デメリットは解雇規制により雇用の流動化が硬直して、社会全体で人材の最適配分が進まないといったところ。

企業は解雇規制があるので簡単には新しい人材を雇用できない。よって、採用のハードルも高くなり、転職は簡単にできない状況ができあがる。アルファブロガーの池田信夫先生とかは、解雇規制をゆるめて雇用の流動化をはかりべきだといった主張をよくしている。

この本のおもしろいところは、日本型雇用形態と欧米型雇用形態のどちらも理解しながら、単純に解雇規制をゆるめたら上手くいくわけではないと語っているところ。最後の章にある著者からの提案も複雑だけど、聞いたことあるような提案とはちょいと違っておもしろい。

今の日本では給料が少なくなってもよいから労働時間を減らすという選択が実質ないので、この本で書かれているような提案が少しでも実現すればよいなあという感じであります。


【書評】誰のためのデザイン?


拷問読書今週3冊目。累計109冊目。ドアのノブから自転車、ファミコン、部屋のスイッチまで、身の回りにある道具の問題点を掘り下げた本。この本の評判はいたるところで聞いていたけど、期待以上にいい本でした。もう一度読む価値ありと思わせられる、おもしろい本。

認知科学者のデザイン原理という副題にあるとおり、この本は綺麗なデザインを解説しているようなものではなし。使いやすい道具とは、使いにくい道具とはなにかと、普段の生活で使う道具をデザインの視点から解説している。

部屋のスイッチを押し間違えたことは誰にでもあるはず。直感的にわかり、初めてでもどのスイッチを押せばどこの電灯がつくか誰にでもわかる。こういうものはデザインがよい。逆に、何年も同じ家に住んでいるのに、何度も間違えるようなスイッチはデザインが悪いと書かれています。

形を変えたり、図を付け足したりするなど、ちょっと工夫すれば使いやすさが驚くほど口上する事例を本書ではたくさん取り上げている。重大な事故につながるヒューマンエラーも、原因をひもといていくと、ミスしやすいデザインで作られていたものが原因なことが多い。

この本を読んだら、普段目にするいろいろが直感的に理解しやすいか、ミスしないような作りになっているかを意識するようになると思う。

もっとおもしろいのは、なにかを使っていてミスした時。今までなら、「ああ、なんて俺はバカなんだ!また操作を間違えた!」というところが、「また操作間違えた。デザインが悪すぎる!」とデザインのせいにすることになること間違いなし。

こういったデザインをすごく意識している会社といえば、アップルがすぐ思いつきます。Ipohneとかも画面をタッチするという、わかりやすさを追求した製品だし、Ipodもスイッチを最小限に抑えて直感的に操作しやすい作りになっている。

使いやすさとデザイン性はバッティングしやすいのですが、この2つを兼ね備えた道具は神の域ですな。そういや、アップルはキーボードの無いノートパソコンとかを開発しているらしい!


【書評】それがぼくには楽しかったから


拷問読書今週1冊目。累計107冊目。無料OSであるLinuxを作ったリーナス・トーバルズの本。おもしろいので一気に読めた。LinuxはいまやWindowsに次ぐシェアを誇り、世界中の人々が日々改良をされる無料OS。億万長者になったビルゲイツとは対照的に、Linuxを作った人物はオープンソースというLinuxの性質上、大金持ちにはなっていない。

作者はただ楽しいからOSを作ったのであり、世界中の人々からフィードバックをもらいたかったからオープンソースにした。この本を読んでいると、お金よりも楽しさ、自由を重要と考える作者の考え方がよくわかる。

ちなみに、パソコンの専門知識が出てくる部分は50ページほどで、その他は専門知識がなくても読み進められる。ネット上の著作権侵害が問題になる昨今、オープンソースと知的財産権の考え方に触れられる本です。

■アップルのジョブスが引き抜きに

最高の人材を追い求めるジョブスさん。お金持ちではないものの、Linuxを作った人物として世界中のオタクにとってのヒーローになったリーナスさん。この二人が引き合うのは必然だったのかもしれません。

しかし、ペプシ社長のスカリーを独特の魅力で引き入れたジョブスも、考え方がまったく違うリーナスを説き伏せることは無理だったよう。

「ぼくたちは、根本的に、ものの見方が違っていた。ジョブスはジョブスなのだ。まったく新聞が書いているとおりの人物だった。彼にとって関心があるのは、自分の目標だけ。わけてもマーケティングのことなのだ。ぼくにとって関心があるのは技術面であって、彼の目標や話にはあまり興味がない。」

なんか、ジョブスはデスクトップ市場を支配したいならアップルと手をくもうぜ!と言ったらしい。しかし、リーナスはそんなの関心ありませんとなったみたいです。

まあ、マーケティングには興味がなくて、技術ばっかり興味がある人もアップルにはたくさんいると思う。普通の技術者なら、ジョブスに「世界を変えたくないか?お前の最高の技術をもっとも発揮できるのはアップルだけだゼ!」とでも言われればかなり魅力的だとは思うのですが、リーナスにはオープンソースコミュニティーという、自分の才能を十分発揮する場がすでにあったのが大きかったんじゃないかと。

■なぜ世界中のプログラマが無料で協力するのか

やっぱり、それは楽しいからなのですな。リーナス自身がLinuxを作ったのも楽しいからだったし。

「多少なりとも生存が保障された社会では、お金は最大の原動力にはならない。人は情熱に駆り立てられたとき、最高の仕事をするものだ。楽しんでいる時も同じだ。~中略~オープンソースモデルは人々に情熱的な生活を送るチャンスを与える。楽しむチャンスも。」

ちなみに、リーナスさんは寝るのが大好き。いっぱい寝てこそ、起きている時に精一杯頭を働かせられるのだとか。


【書評】他人と深く関わらずに生きるには


拷問読書今週3冊目。累計106冊目。久々に衝撃的な作品に出会ってしまった。文庫サイズでかなり薄い本なのに内容は激辛。おそらくこの本を読んだ人は、「いやあ、おもしろいなあ」ってなるか、「こんなの普通じゃ無理だよね」ってなるかの二通りだと思う。

著者の専門は生物学。進化の過程や生物学的な視点から、人間関係や生き方などの考え方に対して身も蓋もない展開で語っている。

しょっぱなから、「濃厚なつきあいはなるべくしない」というテーマで始まり、「おせっかいはなるべき焼かない」、「他人をあてにしないで生きる」、「退屈こそ人生最大の楽しみである」、「自力で生きて野たれ死のう」などなど極端な目次が続く。

国家は国民の道具であり、できるだけ規制を少なくするべきだというような主張を読んで薄々感じていたけど、著者はリバタニアン(自由主義差)の様子。政治の仕組みに対する提言なども後半になって出てくる。

■濃厚なつきあいはなるべくしない

「友はいつ分かれてもよいから友なのだ。いつ分かれてもよいという心構えでつきあっているうちに、結果的に三十年も五十年もつきあってしまった、というのが無二の友の真の姿である。」

著者によれば、相手をコントロールしないのが他人とつきあう上で一番大事であり、濃厚なつきあいをすればお互いの対称性が崩れるようです。だから、友とはなるべく淡々とつきあうのがよいと。

まあ、確かにお互い一緒にいて気楽だというの人同士が長く続く気がする。この身も蓋もない意見の中でもなかなか腑に落ちる部分があった。

■他人をあてにしないで生きる

他人に何かしてあげる時は、人はどこかで見返りを求めてやっていることが多い。恩を売った相手が何も返さなければ怒る人は下品であると著者は切り捨てている。だからこそ、誰かを助ける時は無理をしてはいけないと。

無理をした時点で打算的になり、なにかリターンがなければムカついてしまう。自分が好きでやったことが結果的に他人を助けるならば、リターンがなくても怒ることはないと書かれている。

実際に本書を読んでみればわかるけど、このように刺激的な内容が盛りだくさんであります。しかし、そのどれもがなんとも納得できる内容であると感じるのは自分が一人っ子で著者と似たような性格だからでしょうか。

■著者は通っている大学の教授だった

ちなみに、この人は自分の通っている早稲田大学国際教養学部の教授でもあった。授業評価や単位の取りやすさなどが書かれているマイルストーンという雑誌で調べると、学部の人気ランキングトップの教授でもあり、単位の楽勝さでもトップ。授業中の雑談がおもしろいらしい。他学部だけど今度こっそり授業にもぐってみよう。


【書評】貧乏はお金持ち


拷問読書今週1冊目。累計104冊目。不道徳教育やマネーロンダリングを書いた橘玲の最新作。前作から数年ぶりなので久々の新刊。不道徳教育は究極の自由主義を唱える本だったけど、この人の書く本はほぼ金融関係の本。ちなみに今まで不道徳教育「マネーロンダリング入門」と読んだけれど、どちらも抜群の出来。

本書も発売前から当然のように予約。ワクテカしながら読んだけど、期待どおりおもしろい。本書の内容を簡単にいうと、税金を出来るだけ払わないようにし、あわよくば国家から補助金をもらう。個人で作れる“マイクロ法人”という法人格について解説している。

作者は不道徳教育というリバタニアズムの本を訳しているぐらいだから、もちろん自由主義者。この本のコンセプトも自由に生きるとは素晴らしいというもの。法人格というもうひとつの人格を作り上げ税金をひたすら下げ、国から超低金利で融資を得るような方法まで紹介している。

「会社をつくることによって、個人とは異なるもうひとつの人格(法人格)が手に入る。そうすると、不思議なことが次々と起こるようになる。(中略)まず、収入に対する税負担率が大幅に低くなる。さらには、まとまった資金を無税で運用できるようになる。もっと驚くことに、多額のお金をただ同然の利息で、それも無担保で借りることができる。」

法人は税金対策として有利なのは誰もが知っていることなんですが、その恩恵を個人単位で受ける方法が本書では解説されている。それも、しっかりとした会社を作るとかではなく、ただ書類上は法人格ではあるけれど、実質はただのフリーランサーといったやり方。

フリーランサーの人ならこの本の言うとおりにやればいいだろうし、会社に勤めていても業務委託契約みたいなものを会社と結べば可能な方法。

もちろん、大多数のサラリーマンは会社が認めてくれないので実現は厳しいかもしれない。でも、税金を合法的に払わなくする方法、法人格を使って有利な融資を受けることが実際にできるといった仕組みがあるのは知っているだけでもおもしろいはず。

「貧乏はお金持ち」というタイトルのもとになった考え方は、社会的に優遇されているのはお金持ちではなく、自営業者や農業従事者、中小企業経営者などの社会的弱者であるというもの。彼らは制度がもたらす恩恵を享受でき、本書の狙いはその恩恵を普通のサラリーマンにも応用しようとしている。

橘玲本は、制度のひずみを利用して合法的に得をしようといったものが多い。

「特定のひとにだけ分配された利権は政治的に強く守られているため、容易なことではなくならない。こうした不平等を更正するもっとも効果的な方法は、政治や社会を声高に非難することではなく、より多くのひとが利権にアクセスできるようにすることだ。そうなれば制度そのものが維持できなくなるから、否応なく社会は変わらざるをえない。」

中盤は具体的な節税方法やキャッシュフローの考え方などテクニカルな部分が多いけど、前半だけ読んでもおもしろいはず。閉塞した経済状況で、ただたんに社畜として働き続けても厳しい未来が待っている。この本が言うように、いかに国家を道具として使いこなすかが自由に生きていくための重要な点となってきそう。

まあ、稼ぎぶちがない状態では税金気にしてもしょうがないし、なにもないところからはなにも生まれないので、手に職つけるっていうのが一番重要なんですが!


【書評】走ることについて語るときに僕の語ること


拷問読書今週3冊目。累計103冊目。村上春樹の本は「ノルウェーの森」読んでもよさがあまりわからなかったけど、この本はなかなかおもしろい。走ることについて語る本なので、小説のようにエロい話はいっさいなし。走ること以外にも春樹さんの生活、小説家になろうと思った時の話なども出てくる。

■つきあいより生活習慣を優先する

ジャズバーを辞め、生活習慣を一新した春樹さん。朝5時に起きて夜10時には寝る。早朝の集中できる時間帯に仕事を片付ける。その後の時間に走ったり、雑用やあまり集中しない仕事をする。日が暮れるともう仕事はしない。音楽を聴いたり、リラックスして早めに寝る。

「もう客商売はやめたんだから、これからは会いたいと思う人にだけ会って、会いたくない人にはなるべき会わないようにしよう。」

「僕はもともと人付き合いの良い人間ではない。どこかで本来の自分に復帰する必要があった。」

こういう生活だから夜の誘いは片っ端から断ることになるらしい。しかし、落ち着いた生活を優先するためにはみんなにいい顔はできないと春樹さんは言う。

健康のためには早寝早起きとか当たり前なんだけど、現実のサラリーマンは仕事を自分の都合で切り上げられないのが大半ですよね。人間の機能的には春樹さんのような仕事の仕方が最も効率的で生産的でもあるはずなのに、普通の仕事だと厳しいですわな。

こんな生活を選べるのは特殊な職業についている人だけっていうのが現実。石器時代の人間は1日に1,2時間ほどしか働かず、他の時間は絵を描いたりと自分の好きなことをしていたらしい。こう考えると、技術が進歩して生活が豊かになっても生きる時に感じる幸福度は昔のほうが遙かに高そう。

ただ、一度便利なものを経験したり、発達した医療などを知ってしまうと古い生活に戻るのに強い抵抗があったりする。技術の進化を享受しつつも人間らしい生活ができる時代っていうのは期待できそうにないなあ。となると、春樹さんのような生活が選べるのはやっぱり特殊な才能があって、特殊な職業を選んだ人だけってことになるというオチ。

■走るのを人には勧めない

春樹さんは自分が走りたいから走ると言う。人には絶対に進めない。小学校の体育で長距離走を走らせるのも、嫌いな人には拷問だからよくないよってほどのスタンス。

走る時には小説の構想を頭の中で考えたりもするし、いろいろな事を誰にも邪魔されずに考えられる貴重な時間だそうだ。さらに、おもしろいのは走ることによって自らの老いを認識できるところにあると書いてあった部分。

以前の自分ならこの程度の距離を走っただけでは疲れてなかったのに、おかしい!となる。こういう時に人は自分が年を取っていて、残された時間が有限であることを肌感覚で認識できるそうな。

そういや元大リーガーで読書家の長谷川も似たようなことをインタビューで言っていた。毎日、練習メニューをメモして体の疲労感を記録すると、昔と今の体の違いがしっかりとわかるらしい。

日本どころか世間で認められている作家だから、これだけ非属をつらぬいても誰にも文句は言えないですな。ただ、今の春樹さんを作ったのも非属をつらぬいた結果でもあったり。


【書評】快人エジソン – 奇才は21世紀に甦る


拷問読書今週3冊目。記念すべき累計100冊目! 去年の10月頃からとりあえず続けましたが、まさかここまで続くとは。。開始当初はそこまで本好きではなかったけれど、今では本なしでは生きていけない!という具合にまでなりました。いやあ、人間何歳になっても始めるのに遅いなんてことはないもんですな。

記念すべき100冊目は題材は超有名人、世界の発明王エジソン。こいつがこんなに面白く、切れてる人だとは予想外だった!「ご冗談でしょうファインマンさん」に通じる切れっぷり、破天荒ぶり。この本はお薦めです。

■ジョーク大好きエジソン

1%のひらめきと99%の努力という言葉で有名なエジソン。努力の人というイメージが世間では強いが、本人はひたすらジョークばかり考える性格だったようだ。新技術や改良のアイデアが生まれるたびに興奮して大声でジョークを連発。12歳の頃から新聞や雑誌で読んだジョークのネタを手帳に記録していた。

面白い話を考える人とは、普段から頭の中にストックを仕入れているらしい。おもしろさとは才能ではなく、準備段階で決まる。関西人なのにおもしろくないとたびたび言われる僕にも希望が見えてきました!



■少食でほとんど寝ないエジソン

短眠を研究するとよく例に出されるエジソン。人間は食物を消化する時が一番エネルギーを使い、眠くなります。なので、胃腸に負担をかけない食事をできるだけ少食で生活する省エネ体質が短眠のキーポイントとなります。

エジソンもおなかが減った時だけ、少量の食事を食べるというやり方で研究に没頭した。とにかく一心不乱に研究に打ち込み、眠くなったらその時に寝るという生活。時間というようなつまらない概念に自分の人生を左右されたくないという方針で、研究所には時計もおかなかったそうな。

人間はしょせん自分の好きなことしかやらない。好きなことさえやらせておけば、やめろといってもやめない。しかし、度を超せば健康を害したり、作業効率が低下する。食えば食うほど睡眠時間が長くなるので、それだけ発明のチャンスが失われるとエジソンは語っています。

逆に、アインシュタインは毎日10時間以上眠ってたそうな。ちなみに、少食で睡眠時間を削るというのは何回も挑戦していますが、想像以上に過酷です。確かに、少食にすれば健康にもなるし、睡眠の質も高まる。でも、食欲という人間の欲に打ち勝つのは本当に難しい。そこまで我慢して人生楽しいのか?っていう気分にもなります。試したことない人は健康のために一度トライしてみてください。

■音楽が想像力をかきたてる

エジソンによると、音楽ほど人間の想像力をかきたてるものはないそうな。発明中はよくお気に入りの音楽を流し、気持ちをリラックス状態において仕事していた。

「人の感情に訴え、心を引きつける柔らかなリズムのほうが研究や作業の効率を高めることを明らかにすることができた。」

具体的にはラグタイムや、自然の音などをよく聞いてたらしい。

ちなみに、僕も音楽をかけながら集中するというのも何回か試したことがあります。どうもポップミュージックだと歌詞が気になって集中できないというのが初期の挫折。しかし、どんな音楽でもだんだん集中さえしてこれば気にならなくなり、後は作業ストレスを軽減する効果、つまり長時間の作業を可能にする効果があったりする。

自然の音で試してみたことはあまりないなあ。今度やってみよう。

■1%のひらめきと99%の努力の真実

有名なこの言葉ですが、エジソンが言っていた内容が曲解されて伝わっているのが真実らしい。エジソン自身は、1%のひらめきが大切であり、それが駄目では99%努力しても無駄だと言っていた。野心と想像力があり、昼夜を問わず働き続ける元気があれば成功すると後日語っている。

大の読書家であらゆることに興味を持ったエジソン。そんなエジソンの切れ具合を堪能できる。この本はおもしろいです。