「世紀の空売り」はマイケル・ルイスの最高傑作


世紀の空売り

金融危機を予測して大もうけしたトレーダー達の話。デビュー作のライアーズポーカーは金融業界の実情を、実際に優秀なトレーダーだった著者が赤裸々に語る本だった。今回の本は現代版「ライアーズポーカー」といったところ。本当に面白い。

ルイスの本は、「ブラインド・サイド」、「ニューニューシング」なども傑作だけど、やっぱり金融業界の事を書かせれば元本職だけあって凄い。

■変人ばっかの登場人物

この本に出てくる人達は変人ばっかり。幼い頃から義眼でひたすら内向的な性格の人とか、人の神経を逆なでするのが趣味みたいな人とか。そのどれもが、サブプライム関連の金融商品が暴落するのを予想し、自分は間違っていないという信念をつらぬいて売り抜ける。

■暴落するのがわかっても、それで儲けるのは難しい

例えば、サブプライム関連商品の詐欺具合とか、こんな事を続けてたらいつか崩壊するのがわかったとしても、それを利用して儲けるのは意外と難しい。まず、いつ崩壊するかのタイミングは分からない。

それまで、空売りするということは簡単に言うとその日がくるまで損をし続ける金融商品を持ち続けないといけない。精神的にもつらいし、なにより豊富な資金力が必要。ヘッジファンドを運営してるなら顧客へのプレッシャーもある。

顧客は儲かっている時はなにも言ってこないけど、損失を出している時はマネージャーへの圧力が凄い。本書の主人公の一人も、サブプライム関連商品が暴落するのを信じて空売りしてたけど、途中で顧客から訴訟まで起こされそうになったりしている。

■サブプライム関連商品の空売りも思ったより難しい

CDSという金融商品を利用して主人公達はサブプライム関連商品を空売りしたわけですが、これが当初はなかなか取得できない。まず、市場が崩壊した時に生き残ってそうな大会社じゃないと空売りしても意味ない。

そうなると、ゴールドマンサックスとか大手銀行から買うしかないわけだけど、大口顧客じゃないとなかなか相手してくれない。いかにCDS関連商品を手に入れるかという駆け引きも面白い。

■市場は効率的ではないかもしれない

株式投資の教科書「ウォール街のランダムウォーカー」では株式市場は効率的だから儲けようとしてもムダだと書いてある。ただ、今回の話は債券市場。債券市場は株式市場より規制が緩く、詐欺同然のサブプライム関連商品が普通に売られ続けて、株式市場より世間の監視もなかった。

この結果、本書の主人公達は大もうけすることができたんだけど、人間が作るものに完璧なものはないっていう証明かもしれない。自分は株式投資も債券投資もやる知識もないし、やる気もさらさらないけれど、いつの世の中も抜け道というものはあるもんだなとしみじみと思った。


地球最後の日のための種子


地球最後の日のための種子
食物の多様性を守るため、世界中の種子を集めて保護する科学者たちの物語。成毛ブログで絶賛されていたので、読んでみたけど確かに面白い。一気に読んでしまった。

■多様性が失われた種はもろい

昔の貴族は親戚やいとこ同士で結婚することもあったので、遺伝子的に子孫に障害が生まれることが多かったと聞いたことがある。馬ゲームのダビスタでも、血が濃すぎる配合を選ぶととたんに怪我がちな子馬ばかり生まれる。

これは血が濃すぎる配合のデメリットだけど、遺伝的に特定の環境に有利な配合を繰り返した結果、遺伝子の多様性が失われると、突然の疫病で一気にすべての生物が絶滅してしまう恐れがあるらしい。

これが現在の、品種改良を重ねられて特定の品種しか世界で育てられていない小麦などの栽培物に当てはまる。この本は、来るべき人類の危機にそなえ、世界中の食物の種子をジーンバンクという地下シェルターのような場所に集めることに命をかけた科学者たちの話。

■将来、人間の多様性もなくなると一気に絶滅しちゃうかも

現在は遺伝子治療や、遺伝子を選んで子供を産んだりといったことはまだ一般的ではないけれど、そういった世の中になった時の危険性がこの本を読むとよくわかる。未来の世界を描いた映画「ガタカ」では、人間はみんな遺伝子を調整されて美男子、美女ばかりの世界だった。

でも、こういう世界で突然疫病が発生すると、一気に人類が絶滅してしまう危険性があるんだなあと思った。とにかく、多様性というのは会社でも、どんな場所でも重要だとよくいわれる。でも、今まではいろんな意見があって、いろんな人がいたほうがいいんですよねみたいな感覚でしかわかってなかった。

でも、生物界の群れのルールとか、多様性を失った小麦が一気に全滅する話とかを聞くと、科学の世界の実際の知見がわかって多様性の大事さがよくわかっていい。

■PRの重要性もよくわかる

本書の主人公のスコウマンは、当初とにかく世界から飢餓をなくすという思いだけで活動していた。その時、まったくマスコミ向けのPRには力をいれていないけど、晩年になってようやくその重要性に気づく。とにかく、全世界の一人でも多くの人が、多くの食物の種子を守るという重要性に気づかないと人類の危機だと気づくかないと、失ってからではもう遅い。

となると、最近はやりのエバンジェリストという職業の大事さも痛感するなあと思った。研究者と、その功績を世に広める人が必要なんですね。


本を厳選してWEB本棚を作ってみた


ブログで本の感想書くのは数冊読んで、気が向いた時だけなんですが、今までの本でこれは殿堂入りだろうというものを集めて本棚を作ってみた。

オススメ本を厳選した本棚

■WEB本棚サービス選別の経緯

前からいろいろなWEB本棚サービスを調べていたけど、気に入るのがなかった。特に自分のアフリエイトが貼れないとやる気も8割ダウンになるのに、そういうのが多かったのです。しょうがないから自分で作っちゃおうかなと思っていたら、普通にアマゾンのストアサービスが使いやすかった。

■WEB本棚は最高のオナニー

元々、本棚っていうものは「どうだい僕の本棚は。フフフ。いい趣味しているだろう?」とドヤ顔でオナニーするためにあるものなのです。しかし、うさぎ小屋に住んでいて、本棚がひとつのスペースしかない自分としては本を買って売ってを繰り返すしかない。

そんな中、WEB本棚は全世界に自己満足本棚を公開できる素晴らしいサービスなわけです。電子書籍が普及していく今後、かなり流行ると思う。

アマゾンのやつは双方向のコミュニティ機能がないけれど、まあそれはよしとして、本ごとにコメントを付けられるのがナイス。


「史上最強の哲学入門」は死ぬほどわかりやすい


史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK)

前から哲学に興味はあったんですが、どの本から読み始めればよいのかよくわからなかったわけです。「哲学で博士号取る予定の俺が、どんな質問にも哲学的に答える」とか読んだら、「そうだったのか現代思想」という本が紹介されていた。

この本も読んでみたけどやっぱり固い。ちなみに、最近流行った「これからの正義について考えよう」は素晴らしくわかりやすかったけど政治哲学オンリーなので、哲学全般とはちょっと違う。そんなもんもんとしている時に、大好きなグラップラーバキを表紙にした「史上最強の哲学入門」を友達に教えてもらった。これだと思いました。

■格闘技漫画のパロディで哲学を語る

グラップラーバキは格闘技漫画で、さまざま名台詞がある。例えば、さまざまな合気道の伝説的達人をモデルにした達人を登場させて、「達人は保護されている!!」とかアナウンサーが言っちゃったりするわけです。それで、漫画でその達人対レスリングメダリストが対決したりする。

こういった、バキ好きならたまらない台詞と共に、難しい哲学をまぜこぜにしている本書なのですが、それが驚くほどマッチしていて本当にわかりやすい。バキ好きなら三倍楽しめるけど、語り口調が面白いので、漫画を知らなくても十分楽しく哲学が学べると思う。

■哲学の発展の歴史を体系的にまとめている

この本の素晴らしいところは、時代ごとに発展していった哲学の歴史を体系的にまとめ上げているところ。ソクラテスの時代から、プラトン、アリストテレスに移っていって、前者の考えた真理を後の人が否定して新たな真理を考え出すといった系統がわかる。

こうやって、ある考えを作り出した人に後の人が「それは間違っている!」と新たな真理を作りだす。さらに、その後の人がまた矛盾点などをついて新しい真理を作り出し、、といった感じでほぼ無限ループ状態で終わりがないなあといった感じ。

こうやって、歴史の順番にそって有名な哲学者を紹介し、それぞれの考えと今までの考えへのつっこみをおもしろおかしく紹介している。これを読んでいくと、歴史と対立構造の簡単な概念が本当にわかりやすく読めちゃうわけです。うーむ、本当に凄い。

■ソクラテスの最強のディベート術

受験参考書で「実況中継シリーズ」といったものがあったけど、難解なものは特に簡単な言葉で説明してくれるとわかりやすい。この本に難しい言葉はないし、なにより面白い。笑える。

例えば、ソクラテスの必殺ディベート術「相対主義」の紹介がまた面白い。当時最強の論客たちに論述で対決したソクラテスが駆使した必殺技。

彼はまずバカのふりをして出て行き、「今、正義って言ったけど、正義って何ですか?」という具合に相手の質問をするのである。それで相手が、たとえば、「それはみんなの幸せのことだよ」などと答えたら、「じゃあ、幸せって何ですか?」とさらに質問を続けていく。

これを繰り返せば、相手はいつか答えにつまるようになるだろう。そこで、すかさず「答えられないってことは、あなたはそれを知らないんですね。知らないのに今まで語っていたんですね(笑)」と思い切りバカにするのである。

とまあ、こんな感じで、それぞれの哲学者と得意とした必殺技も説明して、キャラを立たせている。最後の「存在の真理」だけはさすがに難解だけど、「真理の真理」、「国家の真理」、「神様の真理」までは本当にわかりやすい。この本はもっと評価されるべき!

■この本に関する他のブログのオススメ書評

バキみたいな哲学入門書 「史上最強の哲学入門」
表紙とか目次とか中身の写真が豊富。

飲茶『史上最強の哲学入門』
作者の労働に関する考えを引用している。

ライティング斉藤のブログ
グラップラーバキとのコラボに焦点を当てている。


大学の休講をメールで通知するサービス作った


「休講メール」
http://umekun.sakura.ne.jp/qcomail/

夏休みの前半に完成していたけど、授業が始まるのでそろそろ公開。
現在、早稲田大学のオープン科目のみに使えます。

使い方は、受信先のメアドとパスワードを入力して、通知して欲しい授業のキーワードを入力するだけ。後は、放置。

例えば、「バスク語(初級) 吉田 浩美」という授業を取っていたら、「バスク語 初級 吉田」 こんな感じでキーワード入力します。

専門科目は早稲田ネットポータルというログインサイトに入らないと情報が取得できないので、残念ながら使えない!大学側が公開してくれたら簡単なんだけど、セキュリティ関係で無理みたいです。

というわけで、早稲田大学に通っている誰かモノ好きな人、試しに使ってみてください。

ここから情報を自動的に取っているけど、早くも休講決定の授業は結構あります。
http://open-waseda.jp/gakubu/call_off.php


科学は大災害を予測できるか


科学は大災害を予測できるか
地球規模の伝染病とか、ハリケーンとか、隕石の衝突とか、金融危機など全世界がパニックになるような大災害を科学はどこまで防げるかという本。最新の科学の現状と限界がしれて面白い。

■科学は大災害を予測できません

結論からいうと、上記の事柄すべて科学では予想不可能らしい。少しの情報の違いがカオス的に大きな違いになり、予想できる範囲が未知数になるとか書いているけれど、まあ科学が万能でないのは誰もが分かっていること。

ただ、ここまで科学は大災害を予想できないとはっきりと書かれていると、なんとなく大変な事が地球規模で起こっても偉い人がいろいろ考えてるんじゃないか?みたいな、庶民的な考えが通用しないことがよくわかります。うーむ、怖い。

例えば、隕石の衝突はいずれ起こるけれど、いつ起こるかは分からない。もし発見できたとしても、1ヶ月前とか、一週間前とかになる可能性が高いとか。まあ、確率的には自動車事故で死ぬ方がよっぽど高いんですけどね。

■科学者は偉い

印象的なのは、著者の科学への愛がビシビシと伝わってくるところ。災害は予想できないけれど、その対策や予防処置には科学が力になる。作者いわく、「科学者は世界規模の災害を常に考え続けたんだから、政治家はもっとそれを生かせるように頑張れよ!」って言っています。

例えば、最近読み始めた「地球最後の日のための種子」は、世界中の作物の種子を集めて、作物に大災害が起こった時に備える科学者の話だけど、いつでも未来の事を真剣に考えて行動を促し始めるのは科学者なのだなあと実感。

自分の専門分野を研究していくうちに、「うーむ、ヤバイ。これはヤバイ。このヤバさにみんな気づいていない。それがもっとヤバイ」といった気持ちになるんだろうと思う。自分は知っているけど、周りが気づいていない部分を熱く伝えたくなるこの気持ちは誰でもよく分かる気持ちかも。

■でも、科学者でも意見が分かれまくる

問題は、科学者の意見が一致しないところ。温暖化問題でも、人間が原因だという人や、温暖化は地球の自然現象で人間の影響は少ないといういろいろな説がある。科学者たちの意見がバラバラだと、そりゃあ政治家の人もどう判断したらいいかわからない。

トンデモ学説だと思われていたものが、数年たって指示されたりするのはよくあること。多様性は大事だし、それでも重要な決断に科学者の意見が分かれまくっていると困る。悩ましい。

■科学への愛を感じる

著者は科学者の良心も信じている。科学の世界では論文が重要。でも、専門的な論文を審査できるのは、同じ専門分野の偉い人。例えば、論文を審査する人の研究していた課題が、たまたま審査中の論文に答えが載っていたりする。

この時、論文のアイデアをこっそりパクることもできる。こういうことが可能な科学界の問題を指摘していたのを「生物と無生物の間」という本でよく覚えている。

ただ、「科学は大災害を予測できるか」の作者は性善説派。そういうことはできるけど、科学者の大半は良心を持っているからそんなことしないと書いている。さらに、科学者は自らへの評判が命。評判を落とすようなリスクはとらないらしいです。


極限まで好きな事だけして死んだ天才数学者の物語


放浪の天才数学者エルデシュ
「放浪の天才数学者エルデシュ」。

生涯現役で世界中を飛び回り、数学の問題を解きまくった天才数学者の話。80代で死ぬまで数学の問題を解くことにすべてをささげ、結婚もせず、子供も作らず、持ち物も最低限で数学者の友人達の家を飛び回る生活。ここまで自分の好きな事に集中する環境を作り、それを死ぬまでやり通した奇人はなかなかいない。

エルデシュの名前を聞いたのは、受験勉強中に国語の参考書に出てきた時。もっとも多く共著論文を発表した数学者で、共著を発表したというだけでその数学者の権威が上がる。本人は数学者を時間をきにせず訪ね、「君の頭は営業中かね?」という台詞が決め言葉です。

■好きなことだけする環境作りが半端ない

自分の好きな事だけをする環境を極限まで作り上げ、それを死ぬまで実行し続けた人の生涯とはどんなものかなあと興味があったわけです。だいたい予想していたけど、ここまで凄いのは初めて。もう完全に変人枠の中のさらに変人枠の王様といった感じ。

まず、趣味を作らない。持ち物も持たない。そもそもお金を稼いでも、仲間か貧しい人にあげてしまう。住居も持たない。いつも数学者の仲間に家に泊まりに行く。持つのは証明を書き留めるノートと鉛筆、最小限の着替えと粗末なブリーフケース。

数学の問題を解くことに集中する環境を極限まで作っている。そんな人生楽しいんだろうかって思うけど、本人は楽しくてしょうがないんだろうと思う。大人になってからは、コーヒーや薬物で寝ないようにして、何年も毎日19時間数学の問題を解き続け、死ぬ直前ももちろん数学の証明をしていた。これも、本人が望んだ死に方だったそうな。

■幸福を追求するには?

周りと合わせようとすると、その分ストレスがかかり、自分の望む幸福人生から遠ざかるかもしれない。もしかしたら、万人が認める幸福な過ごし方をいうものを実現し、周りに認めてもらう優越感も楽しいかもしれない。でも、究極に極限まで幸福を追求すると、エルデシュのような生き方になるのかもと思った。

前例とか、周りの目も気にしない。とにかく自分の好きなことを好きなようにやり続けて、それが許される実力を日々重ねていく生き方は真似できないけど凄い。

とにかく数学以外は周りに頼りっぱなしで、家に泊めてくれた友人たちがエルデシュの服の洗濯から身の回りのことまで全部しなければならなかったとか。まあ、天才だから許されるのかもしれないけど、それでも愛嬌と思いやりのある人物で皆に愛されていたらしい。

とは言っても、普通の生活が最高に幸せだと思う人がいたり、いろいろなことをやるのが楽しいと思う自分みたいな人もいるので、極端な一例として読むと面白いと思う。

ちなみに、ここまで書いたけど、まだ最初の数ページしか読んでいない。ただ、この本は間違いなく面白そう。


【Webサービス】本、漫画、写真集を表紙で選べるサイトのベータ版作った


「えらぶん」 http://erabun.com/

ベータ版でデザインもできてないけど、とりあえず公開。

■なんだこのサイトは?

本とか漫画とか雑誌とか写真集の表紙をランダムに三冊ずつ表示するサービス。
好きなジャンルと発売時期を細かく指定できる。

■こんな感じで使います

・三ヶ月以内に発売した少年コミックの表紙をフンフンと眺める
・今年発売した経済書をフムフムとチェックする
・去年発売したタレント写真集をムフムフと眺める

■コンセプト

とくにお目当てのモノがないけれど、棚に並んでいる本を適当に眺めてたら新しい本に出会えるようなサービスが作りたかった。

■今後の予定

・とりあえずデザインを整える
・カテゴリをもっと細かく指定できるように
・キーワード検索に対応できるように

このサイトに対する不満、小言などがあれば、ぜひツイッターで教えてください。
アカウントはumekun123。


【書評】「非才」 才能神話をひっくり返す本


非才!―あなたの子どもを勝者にする成功の科学

スポーツ選手とか、実業家の成功はどの程度が生まれ持った才能で、どの程度までが本人の努力だっていうのは個々人で意見が大きく分かれるところです。この本は、「才能の部分なんて一切ない」という、ある意味極端な論点にたった本。

似たような本で、グッドウェルの「天才」がありますが、「非才」のほうが断然面白いです。「天才」のほうはパラパラ読んで途中で読むのを止めてしまった。何が違うかというと、「非才」は細かい部分までの科学的な説明が多い。ちなみに、「その数学が戦略を決める」とか、面白い本ばっかり訳している山形さんの翻訳。

■相当量の練習で培ったパターン認識が重要

とにかく反復を繰り返すことによって、無意識にできるようになるのが重要らしい。脳みそを二階層に分けて、最初の階層を無意識のパターン認識で処理して、二階層目を実際に考えるようになるという説明が面白い。

例えば、史上最高のテニス選手と言われるフェデラーは反射神経が並外れていると考えるのが普通。でも、卓球の勝負になると、凡人程度の反射神経しか記録できなかったらしい。

なんでかというと、テニスの熟練者は相手の手や肩や肘の動き、体全体の動きなどからどこにサーブが飛んでくるかを認識する。つまり、様々なテニス特有の状況でのパターン認識の膨大な積み重ねと、自分の体が無意識に反応するまでの練習量が違いを分けるとか。

これは数学でも芸術分野でも一緒で、一見生まれ持ったセンスから産み出たようなものが、実は膨大な量の練習の結びつきで出来上がるというのをなかなかの説得力で展開されます。もちろん、質の高い練習の重要性も書かれている。

■では、なぜ100メートル走の上位入賞者は黒人ばかりなのか?

最高の環境で相当の練習を達成しても、ジャマイカ人に日本人が勝てるのは想像できない。このへんに対する著者の主張はやっぱりちょっと弱い。「黒人はなぜ足がはやいのか?」によると、黒人でも足の速いのは西アフリカに先祖を持つ人達で、特にジャマイカ人は足の速い遺伝子を持つ割合が多いと書かれていた。

この「非才」という本は、そのへんの事情も細かく書いているのがすごいのだけど、そもそもスポーツの成績における人種間の優劣は時代によってよく変わるという点を指摘していた。ジャマイカでは短距離走で成功するための土壌、インセンティブが他の国に比べて著しく高いという部分も書かれている。

また、長距離で東アフリカ系の選手が優秀なのは、遺伝子よりも高度の高い山々で、長距離を走って通学しなければいけない環境の大きさを主張している。

■なかなか元気づけられる本ではあります

才能だよと片付けられる部分を科学的に反論していて説得力がある本書。とは言っても、身長や容姿など、明らかに親の遺伝子を受け継ぎそうな事柄を考えると、すべてが努力で解消できるとはなかなか思えない。

でも、今まで才能3割、正しい努力7割ぐらいかなあと思っていたのが、才能1割、正しい努力9割ぐらいだろうかと考えが補正される本。なんというか、やる気が出る本でした。

ちなみに、類書の「天才」はたいして面白くない。「黒人はなぜ足が速いのか」もちょっと専門的な話が多すぎてつまらない。卓球選手としても一流だった作者の実体験もあり、「非才」が圧倒的にオススメ。


「民の見えざる手」が予想以上に面白い


民の見えざる手 デフレ不況時代の新・国富論
大前研一の新書をなんとなく読んでみたら、思った以上に面白かった。特に、アジアの新興国の最近のビジネス事情とかがよく分かる。これを読むと、韓国、中国など近隣諸国と日本の勢いの違いも分かるし、インドネシアとか急成長しそうな国のだいたいの知識もつく。

ちなみに、大前研一という人は、日本で一番有名な経営コンサルタントといってもよいぐらい伝説的な人です。マッキンゼーが日本に進出し始めた時に入社して、日本支社長、アジア太平洋地区会長まで務めたフリーザ様級のビジネスマン。

たまにはやる気が出る本でも読むかと思った人に最適。勉強する気が結構おきます。

■アジア圏の国に人材力で負ける日本

海外の一流大学で教鞭を執っている著者によると、10年前に比べて優秀な日本人はガクンと減ったらしい。ハーバードなどでも韓国人や中国人が目立ってきて、日本人はほんと元気がないとか。特に韓国人の勉強時間は半端ない。学校終わった後に平均6時間やるとか。。

日本の大学でも一番勉強しているのは留学生。さらに、台湾からやってきた留学生は基本的に英語、中国語、日本語が話せる人が普通で、4各語とか5各語話す留学生が珍しくない。これは、留学生と交流があるサークルに入っている友達も言ってた。

日本企業も新卒で日本人取るより、優秀な留学生を取らないとグローバル化する世界市場で生き残っていけないから、パナソニックとか日本人の採用枠を減らしているし。

まあ、こういう話はネット上でもよく話題になりますが、やっぱり本になるともっと実情を詳細に書いてある。例えば、国力は人口より人材力で決まる理屈とか、就職氷河期は不況が原因じゃないから終わらないとか。

特に面白いのが、ウェルマートなどの米国一流企業では軍人を積極的に採用しているという話。なんでも、不確実な戦場で部下を指揮した経験のある軍人は、ハーバードなどのMBAコースでビジネスを学んだ学生より人材市場では人気なのだとか。

不確実な事態に臨機応変に対処する経験とリーダーシップを戦場で経験している軍人には、後は小売り業のノウハウを教えるだけで優秀なビジネスマンになれるというのが理屈らしい。


■新興国、途上国の事情

この本の価値は、アジアやヨーロッパの新興国の現在の経済事情がおおざっぱにわかるというのが一番でかい。おそらく、数年後には賞味期限切れしているので、この本を読むなら少なくとも一年以内がよいと思う。

例えば、インドネシアは中国より魅力的なマーケットで、その原動力になった現在のユドヨノ政権の話とか。ウクライナのIT産業レベルとか、ルーマニアの事情とか、今まで知らなかった魅力的な新興国の話がたくさん。

特に、これから海外をまたにかける商社マンになりたい人は、中国語よりインドネシアとかロシアの言葉を習ったほうがよさそう。中国語ができてもライバルが多いけど、新興国の言葉が話せるといきなり現地に飛ばされて比較的大きなことを任されて出世コースに乗れる可能性が断然高い。

大学の友達で、インドネシア語を習って、この夏はインドネシアに数週間旅しに行ったS君の先見性をちょっと見直した。

■老後にそなえて趣味を増やせ

この本の最後には、個人はグッドライフを求めよというような事が書いてある。引退してから趣味が少ないと友達もできないし、頭も使わないし、つまらなくて孤独死してしまうよと。なんでもやるのに遅いことはないから、新しい趣味をドンドン作れといいこと書いています。

バリバリ働いていない分際で趣味のことばかり考えている自分ですが、今年はカートも始めたし、プログラミングの楽しさも分かったし、最近は和菓子の魅力にも気づいた。今年中には、定期的に運動したくなるようなものを一つ始めようと思います。候補としてはサッカー、フットサル、テニスといったところ。