クラウド化する世界
タイトルや帯の煽りからして、てっきりネット上であらゆる仕事ができるクラウドコンピューティングの話だと思っていました。日本版は出版社が売れやすいだろうと思って、流行りだしていたクラウドのイメージを強調したわけだったんですな。
めちゃくちゃ紛らわしい。おかげで、数年前に書かれたクラウドの話だったら今読んでも古いだろうと思っててスルーしていたじゃないかと。
■本の概要
本の中身は、電気の登場、パソコン、ネット、グーグルなど、様々なイノベーションによって社会がどう変化してきたか、これからどう変化していくかといった話。今読んでもまったく色褪せない。おもしろい。原題は「Big Swith」。
特に情報社会における検索技術、フィルタリング技術の発達による弊害に焦点を当てているのが、著者ニコラス・スカーのスタンスの模様。この本のおもしろい部分は間違いなくここです!
■フィルタリング技術の弊害?
フィルタリング技術発達により、消費者は自分の好みの商品を簡単にガイドしてもらえるようになった。けれど、同時にそれは機械が消費者の選ぶものをあらかじめコントロールすることになる。
例えば、Last FMという便利な音楽サービスがあります。これは自分の好みの歌手やジャンルを登録すると、自動的に自分の好みにあった歌手や曲をどんどん流してくれる。気に入らなければスキップして、気に入ったものを評価していけば精度が高まっていく。
似たような歌手を発見するのには最高なんですが、まったく違ったジャンルや今まで苦手だったジャンルの開拓はできなくなりがち。まあ、これは当然っちゃあ当然なので、アナログな方法と組み合わせれば問題ない。要はバランスの問題であって、自分の好きなジャンルの開拓は機械を使い、新しいジャンルは別の方法を使えばよいだけな気がします。
これに対してはそこまで大きな問題じゃないかなと思ったり。
■ネット社会が差別を生み出す?
こっちの問題は結構重要。ネット社会は自由であり、一見すると差別がなくなり異なる人種との交流を促進しそう。でも、実際は反対の機能を持ったりする。人間は自分と同じ趣味や考え方を持つ人と付きあいたがる傾向があり、ネット社会をそれを促進する。
ネット上のコミュニティでは自分と同じ考え方、趣味を持つ人を容易に探すことができる。テロリストはネットを使って簡単に構成員をリクルートできる。同じ思考の人間の意見を聞くと、自分の思考がさらに補強され、どんどん偏った考えが強固なものになってしまう。
この部分はなかなか考えるところが多かった。twitterとかは意見のフィルタリングが簡単にできるし、自分の好きな人だけしかフォローもしない。そうなると、どんどん自らの考えが偏っていく危険性はあるかも。
反対に、ネットによっていろいろな人と意見を交換する機会が増え、新しい考えを取り入れる機会が増えているっていう考えもできます。
■総括
この本は最終的にネットの弊害に話を持って行く感じ。著者はテクノロジーの進化に詳しく、それを利用した新しいビジネスにも言及している。それらを踏まえた上でネガティブな部分をどことなく強調しているのが他の本と違いおもしろいところ。
新しいテクノロジーによって失われるものは確かにあるけれど、それ以上に便利なのでそれを人々が利用するのを止めることは絶対にできないわけです。それによって失われたものは、必要なものであればあるほど逆に価値を持つものとして出てくる。
例えば、自然とふれあうのは大昔は当たり前だったけど、今では貴重な体験として商売にもなっている。
ネット社会の進化によって生まれる弊害も、それを補う需要がまた生まれるわけだと思うわけです。個人レベルで重要なのは、弊害を認識してそれに対処する方法も早めに考えておくことかなと。
例えば、本の決め買いはアマゾンを使って、偏りを修正したり大きな視点で見るためにたまにでかい書店を回るのもよいし。音楽も同じ方法が使える。