【書評】定量分析


拷問読書

今週3冊目。累計70冊目。僕は文系で数学が大の苦手であります。受験は私大で数学なし。高校も数学の成績はいっつもビリ。ただ、最近になって統計学に興味を持ったり数学者の伝記を読んだりして数学への興味が出てきた。いまさら理系に進めばよかったなあと後悔しています。

自分の興味のある経営の分野で使う数学となると、最近流行りのデータマイニングや回帰分析、限界利益、機会費用などの項目。このへんの知識を、文系の人にも分かりやすく説明しているありがたい本が本書。難しい数式はなく文字が多いので文系にも優しい。実際のところ、数学ではなく算数が分かれば理解できるかもしれない。教科書的な本なので読むのにはそこそこ時間がかかりましたが、コンビニ店経営の事例を使っていて分かりやすく、内容が面白い。

●合理的意志決定

この本のテーマはいかに合理的意志決定をするか。そのための様々な方法を紹介するというもの。例えば、なんとなく分かっていた気がしていた機会費用。機会費用といえば、何かをする費用ではなく、何かを出来なかった費用のことです。この機会費用の説明で社員研修の例を用いています。

「企業が社員研修を行う時、休日手当を払ってでもなぜ休日に行うことが多いのか?」

休日に社員を出勤させるための休日手当、交通費などの費用。平日に社員を研修させた場合、社員が生み出していた利益ロス。この2つを比べると、後者のほうが前者より高くつくことが多い。こういった事柄を、問題形式や図表を使って説明されています。

機会費用のことはある程度知っていても、企業の研修費用といった新しい例題で読むと理解が深まった気がします。機会費用は普段の生活でも当てはまる部分はたくさんあると思うのですが、その中でもよくあるのが「時間を買う」という考え方だと思う。

例えば、社長さんは時間が重要なので長距離バスより新幹線。学生はお金がないので新幹線より長距離バス。前者は時間を買っていて、後者は時間を売っている。自分は貧乏なので、なかなか時間をお金で買う選択肢がないのが悲しいところです。。貧乏でも借金して将来のために時間を買え!という考えは持っているのですが。

●確実性のもとでの意志決定

合理的意志決定方法の考え方の後は、ほぼ確実に予想できる数字にもとづいた時の判断方法が書かれています。ここまでは、どの手順を選んだらどの結果が出るかがはっきりしているので分かりやすい。

例えば、祭りの時に出店を出すことになり、店員数を選ぶ問題があります。

1人定員を雇うのに250の費用がかかる。

定員数1人→人件費前利益700→生産性700→人件費後利益450→限界生産性700

定員数2人→人件費前利益1,100→生産性550→人件費後利益600→限界生産性400

定員数3人→人件費前利益1,300→生産性433→人件費後利益550→限界生産性200

この例でとると、生産性が一番高いのは定員1人の時。アルバイトにとっては大変だけど、1人だったらこき使えるといった感じ。定員2人になるとアルバイトの負担は少なくなって、1人あたりの生産性は下がるけどトータルの利益は増える。

この時に重要なのはアルバイト1人当たりの生産性ではなく、人権費後の利益が最大になる方法を選ぶこと。結局、定員2人が最も合理的だという結論に達します。まあ、普通に考えれば当たり前のことなんですが、手段が目的になったり、木を見て森を見ずになったりすることは自分の経験で何度もありました。この後に説明される限界効率の問題も面白かった。

最後の章には不確実性のもとでの意志決定の話が出てくる。結局、世の中では不確実なことが大半なのでここが一番重要なのですが、できるだけリスクを少なくする合理的方法というものが書かれています。

いくつかの選択肢がある時、どれが一番お得かということの根拠を探す方法をこの本では教えてくれます。どれがお得か分からないからだいたいで決めたり、直感的に決めたりすることが多い自分にとってはありがたい本であります。定量分析ってよく聞くけど、もひとつなんのことかわからないってな人にもお勧め。


【書評】八月の砲声


拷問読書 拷問読書

今週1,2冊目。累計68,69冊目。第一次世界大戦の始まりを描く大書。1963年ピューリッツァー賞受賞。面白い映画や本というのはたいていもう一度読みたくなります。特に内容が難しかった場合はすぐに最初から確認したくなる。映画ではエターナルサンシャインとかメメントで、小説では坂の上の雲。

その中でも特にこの本は読み終わった直後に最初から読み返したくなりました。面白いというのはもちろんだけど、内容が複雑で難しく、一度読んだだけではなかなか理解しがたい。歴史の細かい事例をネットで調べながら読むのに最適。

本書では予定通りに物事が進まないというありふれた出来事が、世界大戦というスケールで書かれています。戦争を早く終わらせようと思いながらも、膨大なお金や資源を投入してしまい完全に後には引けなくなる各国の首脳陣。ケネディ大統領は、この本を側近達全員に読ませてキューバ危機を乗り切ったらしい。

●戦争の残虐性

本書では、ベルギーに侵攻したドイツ軍の残虐性がかなりクローズアップされています。フランスに攻め入るためには、ベルギーを通過しなければならない。ドイツ軍に残虐行為を行う口実を与えないため、ベルギーの町では武器となるものをすべて渡し出す。

それでもテロ行為の指示をしたという口実でベルギーの司祭を見せしめで殺し、村人を人質にとってテロが発生しだい殺すということもします。ベルギー人も一般人のふりをして、ドイツ兵を家の中から狙撃したりとゲリラ戦で抵抗する。結果的にベルギーの村という村は焼き尽くされ、一般市民がみせしめにどんどん処刑されていきます。

こういった行為は戦争という極限状態ではよくあることらしいですが、当時の模様を淡々と描かれる本を真剣に読んだのは初めてでした。テロ行為や報復を恐れて住民を皆殺しにするのだと心理が、戦争中にはどんどん広がるものらしい。

この反省を生かし、時代が進むにつれて戦争時の残虐行為に厳しい処罰を科すようになる国は増えていくのですが、今でも似たような状況で残虐行為は行われることが多いはず。

戦争を経験したことがないので、完全な妄想で状況を考えてみます。

例えば、日本と北朝鮮が戦争するとする。北朝鮮の人々はみな日本に対して敵意をむき出しの感情を持っている。5人で行動していた時に8人の不振な動きをしていた北朝鮮人市民を拘束した。全員を監視仕切れないし、突然市民が豹変していつ襲われるかは分からない。

こうなると、やられるかもという恐怖と集団心理が働いて、ごく普通の人でも残虐行為に走ってしまうのかなあと思っています。さらに、その状況で一人反対意見をとなえると、密告される恐れから仲間内のリンチを受ける可能性もある。

こういった恐ろしい極限状態を作り出す戦争がどのような課程で広がっていくか。それを時系列で細かく描かれています。

●本書は大戦初期の1ヶ月の話

上下巻合わせて1000ページ近いのに、第一次世界大戦の初期の模様しか描かれていません。それだけ最初の1ヶ月が重要だという著者の認識なのかは分かりませんが、短い期間に起こった事柄を濃密に書いています。面白いのは戦争にかかわった様々な視点から描かれていること。同盟を結んだり、歴史的にも仲の良かったアメリカとイギリスの関係などもありますが、基本的にどの国も自国のことしか考えていません。

イギリスはフランスとドイツのどちらの味方につくかを迷い、先にベルギーに侵攻した国を敵とみなす方針を打ち出す。ドイツは、フランスへ素早く攻め入るためにベルギーへの協力をあおぐ。この本ではあまりにたくさんの登場人物や地名が出てくるので、途中で誰が誰だか混乱するぐらいです。

特に面白いのがドイツ軍に押され、パリを離れるかどうかを検討しているフランス政府首脳陣の話。その時点でフランス国民は、自国がそこまでドイツに押されているとは感じていない。政府首脳陣がパリから逃げ出すとなると、国民に大きな動揺が生じる。でも、このままではドイツ軍が侵攻してきて、フランスの閣僚達の身が危険になる。

同盟国のイギリスも、自分たちの血は出来るだけ流したくないのであまりやる気がない。フランスの指揮官は、なんとかマルヌ会戦にイギリス軍の参加を取り付けるため必死の演説をします。様子を見ていたアメリカもドイツの残虐性を無視できなくなり、参戦に傾いていく。

短期決戦で終わるはずだった戦争が各国の誤算でどんどん泥沼に陥っていきます。本書の見所は、どの国も自国に有利になるように考えながら慎重に行動しつつも、実際に戦争が起こると数々の誤算が嵐のように押し寄せてくるところ。

綿密な予定を立ててもそう上手くは行かないのが世の常だとは思うのですが、世界大戦というスケールで起こった史実は、どんな失敗のエピソードよりもスケール感が違います。


【書評】ご冗談でしょう、ファインマンさん


拷問読書 拷問読書

今週3,4冊目。累計66,67冊目。ノーベル賞を受賞した物理学者ファインマンの自叙伝。かなり期待して読み始めましたが期待以上でした。あらゆる分野の人にお勧めできる素晴らしい本。

権威を徹底的に嫌い、つねに愉快なイタズラをたくらむファインマン先生。好奇心の塊のような頭脳を持ち、あらゆる事に興味を持って人生を楽しむ様子が楽しい。催眠術をかけられる助手に立候補する大学時代、研究所で金庫破りの名人になった話、ドラムや絵描きに目覚める話など魅力的なエピソードが盛りだくさん。

もちろん科学の話も出てきますが、難解な数式などは出てこないので文系でも心配なく読める。読み終わると世の中のあらゆる事象に対する好奇心がアップすること間違いなし。

●登場人物もオールスター

ファインマン先生がまだ駆け出しの頃、大学で講義することに。研究テーマが面白いという噂を聞きつけやってきたのが、アインシュタイン、世界で最もかしこい男と呼ばれたノイマン、オッペンハイマーなどのそうそうたる面子。自分が板書して何度も計算しなければ解けない公式を、出席者たちは頭の中ですぐ答えを出してしまう。若き日のファインマン先生が興奮する模様などが描かれています。

●科学の教科書を選定する

専門の物理学者の意見も欲しいということで、教科書の選定委員に選ばれるファインマン先生。ここで先生は教科書の内容に驚愕します。そこは計算する意味を持たないものを計算させ、ただ意味を理解しないまま暗記させるような内容であふれていた。ほぼすべての教科書に対し論理的な説明を持って辛口の採点をする話、接待攻勢をもちかける教科書業者への対応などが面白い。

●科学者の倫理

本書の最後には、ファインマン先生の考える科学者の倫理感の話があります。ここが本書のクライマックスですが、この演説の内容が最高によい。世の中にはびこるエセ科学への批判に始まり、「科学者が自分に正直になることの大切さ」を説いています。

科学者が自分の仮説を立てて実験でそれを検証する。ところが、その実験で自分の仮説と合致する結果が出ると、そこで実験を終えてしまう人が非常に多い。もう一度同じ実験をすると、まったく違った結果が出るかもしれないのにそれを怠る。

「科学的良心、すなわち徹底的な正直さともいうべき科学的な考え方の根本原理。もし実験をする場合、その実験の結果を無効にしてしまうかもしれないことまでも、一つ残らず報告するべきなのです。」

似たような考え方は生物と無生物のあいだ にもあり、そこでは他人の論文を選定している科学者が、他人の研究結果を盗んでしまいがちなシステムの危うさまで言及されていました。

ファインマン先生の、驚く心を失わず、人の目を気にしない生き方は読んでいて痛快です。


【書評】よその子


拷問読書

今週1冊目。累計64冊目。特殊学級の教師トリイが書いたノンフィクション。識字傷害のロリ、複雑な家庭の問題から暴力的になったトマソ、自閉症のブー、12歳で妊娠したクローディアなど4人の子どもを中心とした物語。自分は映画とか本で泣くことはまずなく、冷徹人間のレッテルを欲しいままにしてきたのですが、最後に生徒達が教室を離れるシーンは一瞬だけ涙で字が読めなくなりました。

トマソは幼い頃に両親を殺され、自分を厄介者扱いする里親にたらいまわしにされたあげく、誰に対しても憎悪を向ける子どもに育つ。ロリは幼いころの両親の虐待により頭を怪我し、どうがんばっても文字を読むことができない。重度の自閉症で言葉も喋られず、しょっちゅう奇声をあげるブー。成績優秀ながら12歳で妊娠してしまったクローディア。この4人が同じ教室で学ぶという形式で物語は進みます。

●魅力的な子どもたち

特に印象に残ったのが乱暴者のトマソ。自分を愛してくれる人が誰もいない状況で育ち、常に「いつか父さんが迎えにきてくれるんだ」と妄想を現実のように話しています。その純粋な妄想が泣けるし、識字傷害のロリの学習を助ける役を任命され段々と成長していく過程が面白い。

識字傷害を持ちながら、底抜けに明るいロリも印象的です。周りを思いやる気持ちが人一倍強く、勉強の意欲も高い。だけど、どれだけ頑張っても脳の傷害の影響で文字が読めるようになれない。それを怠けていると思われ担任の教師に叱られたり、他の生徒の前で本を読むように強制されたりする。作者のトリイがつきっきりで教えることになるのですが、最後に進級できないと分かった時の場面は読んでて一緒に泣きそうになります。

●現実でまったく通用しない学問

「フロイト心理学を研究し、この子どもたちの問題を解決できればどれだけいいだろう」というくだりが本書には出てきます。幼い頃に親からの愛情が不足したため情緒障害になってしまったのだ、といった心理分析が教室内ではまったく役に立たない。どうすれば子どもを良い方向へ導いていくかは、教室内での失敗や成功の連続しかない。

さらに子どもたちは、経験や勉強で分かったような接し方をしてくる大人を敏感に感じ取り警戒してしまう。ノンフィクションなので最後にすべてが解決してハッピーエンドともなりません。子どもたちの世界からは人間の本質がかいま見られます。文句なしのお勧め本。

ちなみに、この本を紹介してくれたブログは「分裂勘違い君劇場


【書評】ウケる技術


拷問読書

今週5冊目。累計59冊目。夢をかなえるゾウで有名になった水野敬也氏の本。本書ではウケるという技術を体系化。笑いを取るトークの細部にどれほど戦略的な構造が隠されているかを解明しています。

プロカウンセラーの聞く技術という少し前に売れた本がありました。でも、相手の話を上手く聞くといった「受け身」の本とは異なり、この「ウケる技術」は完全に「攻め」の姿勢です。「聞く技術」で唱えられているのが「askするなlistenせよ」という精神なら、この「ウケる技術」では「相手の話の面白い部分をくみ取り、突っ込め」という、サービス精神が信条となっています。

「ウケる技術はセンス、あるいは才能という一言で片付けられてきたのが現状でしょう。ところが、あらためてウケる人の無数の会話を地道に生理していくと、誰でもマネすることができる夕餉のパターンの組み合わせに分解できることがわかってきました。」

人対人の会話という不確実な状況で、いかに戦略的にウケるか。ウケるパターンを分解し、体系化し、整理し、どう応用していくか。これが本書のテーマです。以前、ダウンタウンのまっちゃんが電波少年の企画でアメリカ人相手にウケるためのコントを作っていた時も、同じような考え方を話していました。その時は、アメリカ人にどういう笑いがウケるかをいろいろ試して、今までのパターンの応用を細かく解説していました。

本書を読むと、なにげない会話で面白いことをポンポンと言える人は常にいろいろなことを考え、脳みそをフル回転させているんだなあとよく分かります。自分は面白いことを言うタイプではなく、周りの才能溢れる突っ込みプレイヤーに生かされないと駄目なタイプ。周りの突っ込み上手な人のサービス精神と、頭のよさをあらためて感じたしだいであります。

ウケるパターンの例が面白いので、気軽な読み物としてもお勧めです。本書に影響されすぎて寒いキャラになってしまう危険性はあるので注意は必要ですが。。

著者の水野氏が出している水野愛也の「スパルタ恋愛塾」における、うらっつらkindness理論がまた面白い。


【書評】正しく決める力


拷問読書今週5冊目。累計54冊目。著者は19年ほどBCGやアクセンチュアといった外資コンサル会社で働き、戦略グループ統括までしていた三谷宏治氏。三谷氏の「突破するアイデア力」という本が物凄く面白かったので、新しくでた本書も読んでみたらまたまた面白かった。

ちなみに「突破するアイデア力」は、日々の生活からどういった視点で学びがあるかといったことを、あらゆる角度から語っている本です。SF小説からだったり、旅からだったり、昔の建築物だったりいろいろな切り口で書かれています。そのどれもが深い視点まで掘り下げていて、その考えの深さに一気に引き込まれます。内容は著者のHPで公開されているのでタダで読むことができたりする。

話が飛びましたが、本書のテーマは大事な事を考え、話して、実行するというシンプルなもの。ただ、世の中の90パーセント以上の人はこれが出来てないと書いています。たいていは、思考がバラバラになり、話すと論点がズレ、何をするかを決めきれない。

これを正すには練習するしかない。その考え方、実行方法をシンプルに、難解な用語もまったくなく、中学生でも分かるように書かれています。でも、簡単に書かれているからといって内容も軽いというわけでもありません。簡単だけど難しいこと、それをどう克服するかに焦点が当てられています。

そのために必要なのは、「重要思考」、「Q&A力」、「喜捨法」の3つ。この中で特に重要なのが最初の重要思考。

●重要思考

このパートは本当にシンプル。何かをしたり、決めたりする時に、「それは大事なことか」と何度も自問するだけ。分かりやすい例でいえば、お金を節約したいと思った時にあれこれと節約方法を考えるのではなく、一番ウエイトが大きいものから考える。この場合は、毎日の食事代よりも、家賃であったり、大きな買い物といった形。

次にどの程度大事かを常にはかる。経験で判断すると判断を間違える。文化財修理のプロは感だけに頼らず、対象を詳細にX線、顕微鏡などで観察してどうするべきかを考えるようです。

●本書に書かれている意志決定クイズが面白い

乗っていた飛行機が雪原の中の湖に墜落。救命ボートに乗りながら、短時間で機体に残る貴重なアイテムのどれを確保するかを決める。初期の目的地までは30キロ。周りは低木と雪に覆われ、湖が点在し、それを川がつなぐ。風は強く、気温も零度を切る。

助けが来るのは2週間以降かもしれず、着ているのは冬物の普段着。この状況をどう切り抜けるか。機体に残るアイテムは様々。本、コンパス、寝袋、マッチ、テント、ハチミツ、水を綺麗にする浄水錠剤などなど。

10分間の間にどのアイテムを選ぶか、それはなぜかと考える。大事なことから「大戦略」、「効用」、「手段」で考えるというもの。簡単な思考の練習にもなる。考えかたのプロセス、解答例みたいなものは本書に書かれています。

何が一番大事か、それはなぜか。このシンプルな考え方の道筋が面白く、分かりやすく書かれている本。事例の話題もビジネス、災害派遣、学校教育、子育てまでと豊富で一気に引き込まれる文章です。昨晩はこの本が面白すぎて、気がついたら朝になっていました。

さっそく他のブログでも取り上げられていて、特に秀逸なのがこちらのブログ


【書評】ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか


拷問読書今週4冊目。累計53冊目。商売において利益を上げる方法にはたくさんありますが、その多種多様な利益モデルを勉強できる本。この手の本では定番の、何でも見透かしている系の先生と、企業の戦略部門で働く生徒によるストーリー形式になっています。

本書で紹介される利益モデルは全部で23個。この利益モデルについて読んでいった後、世の中で売られている製品やサービスと照合されていくと面白い。例えば、今日買った電化製品はどの利益モデルに当てはまるだろうとか、今日使ったサービスはどういった収益構造になってるかとか。

●ファイアウォールで利益を守れ

分かりやすい例がこの部分。例えば、バービー人形は2000円ほどで売られているのが普通。ここで、あえて1000円ほどのバービー人形を売り出す。この商品自体は安いのでほとんど利益は上がらない。では、なぜわざわざ儲からない安いモデルを売り出すか?

その理由は他社の参入を防ぐため。わざと安い価格帯も売り出しておいて、安いというだけでライバルに参入するきっかけを作らせないというもの。さらに、子供にも手が届く低価格で販売しておく意味もある。それをきっかけに商品に興味を持った親に、高級バービーを売るというプラミッド式の利益モデルにもなるから。

このように、本書ではいろいろな業種のビジネスモデルを紹介。それぞれの製品がどのような戦略にもとづいて売り出しているかを、チャオ先生と生徒であるスティーブによる対話形式で説明しています。

●世の中の製品やサービスを違った視点で観察

本書は利益モデルの辞書的な本として使えます。例えば、街中を歩いていて、ふとこの製品の利益モデルはなんだったかなーと考える。その後にこの本に戻ってきて、チャオ先生が説明していた23個の利益モデルのどれに当てはまるかを確認。

まったく同じという形式にはならないかもしれけれど、大抵は似たような形式が見つかるのではないかと。

同じように教え子と先生の対話で進む「ザ・ゴール」という本がありますが、「ザ・プロフィット」は「ザ・ゴール」ほどストーリー展開が派手ではないです。むしろ淡々と進みます。教え子のスティーブも出来すぎ君じゃないかと思うぐらい、チャオ先生の難解な問いかけに結構スラスラと答えていきます。

そういう意味で、「ザ・ゴール」よりも理解するのは難しめ。一度読んだだけでははっきりと理解できないので、やはり利益モデルのガイドブック的に思いついた時に読み返すという方法がベストな本でした。


【書評】国際紛争―理論と歴史


拷問読書今週1冊目。累計50冊目。国際社会において紛争の起こる原因は何なのか、このことを国家間の力関係や時代背景を元に解説していく本。教科書みたいで読みやすい本ではないのですが、紛争のメカニズムを知ることができます。

●バランス・オブ・パワー



国際紛争の背景にはバランス・オブ・パワーのメカニズムが潜んでいる。この部分で面白かったのが、必ずしも強い国に協力するという構造がすべてではないこと。例えば、ドイツが強くなりすぎることを恐れ、アメリカがドイツと敵対する小国を援助したりする。

「国家がパワーをバランスさせようとするのは、平和を維持しようとするためではなく、自らの独立を維持しようとするからである。」

国家紛争の歴史は、バランス・オブ・パワーの歴史かもしれないです。上記のことは、利己的に動くことによって、結果的に国家間のバランスが保たれているという意味で面白かった。

例えば、世界が1つになるにはどうすればいいか?という問題も、大きな敵を作ればすぐ解決しますな。映画「インデペンデンス・デイ」のように、宇宙人が地球を侵略してきたら世界中が協力せざるを得なくなります。

つまり、お互いに協力したほうがよいという仕組みを作り、経済的にも相互にもちつもたれつつの関係を作りだすのが世界平和に繋がるんではないかなと。グローバル化の進展し経済的な協力体制が高まるにつれ、戦争のコストが高くつくという考え方は「フラット化する世界」でも書いていました。

異なる文化や宗教があるから争いが起こるのだという考えもありますが、協力したほうがお得だという価値観を共有すれば、結構合理的に人間は動くものだと思うのです。

●日本がアメリカに戦いを挑むのは合理的だったのか?

第二次世界大戦において、冷静に考えて勝てそうにないアメリカに対してなぜ日本が戦争をしかけたか。アメリカは負けると分かっていて日本は戦争に突入しないだろうと考えていたようです。

「日本人が合理的なら、アメリカへの攻撃は日本の破滅以外の何者でもないことは明らかだ」と当時のアメリカの国務次官補も言っていたようです。

ただ、アメリカは日本への石油の禁輸措置によって日本の南進を阻止しようとした。当時の日本は石油の9割を輸入に依存していたので、戦争を始めるほうが徐々に絞め殺される

よりもましだと日本は決断したと書かれています。

この部分を読んでいて感じたのは、追い詰められると北朝鮮は何をするかわからない。そう思わせるのが北朝鮮の最大の武器であり、厄介なところだなということです。戦争を起こすことが不合理になるような逃げ道というものを作っておくのは重要なのですが、そこに付けいれられる可能性もあったり。

●新しい世界秩序

あらゆる人種や宗教が混沌とする世界で、世界政府の樹立は現実的でない。世界平和を目指す上でなにが決めてになってくるかというと、自分としては情報の共有と経済的な相互依存ではないかと思っております。

簡単にいうと、喧嘩の主な原因は意思疎通の欠如だったり、お互いの誤解から生じるものだったりが多いものです。そういう意味で、インターネットが普及して情報の共有が簡単になっていく世界では可能性はあるのでないかと。

もう1つの経済的な相互依存。お互いに争うと今まで培ってきた経済的な相互関係が失われてしまうという状態が世界中で起これば、自動的にそれが戦争抑止の力として発達していくのではないかと。


【書評】マネーロンダリング入門


拷問読書今週1冊目。累計45冊目。タイトルから犯罪指南書みたいでイメージ悪いですが、グローバルな社会で税金のあり方というものを考えられる真面目な本です。本書は「不道徳教育」で、リバタニアンという究極の自由主義について書いた橘玲が作者。

この「不道徳教育」という本は、自分の今までの価値観を根底から揺さぶられるような強烈な本で最高に面白かったのですが、本書「マネーロンダリング入門」も当たりでした。

●スイス系の金融機関の優位性

スイスの金融機関が他国より優位に立っている理由は、その守秘性。スイスがEUに加盟しないのは、租税情報を他国と交換すれば金融立国の基盤が崩壊するからのようです。

このことは、結果的に世界中の犯罪組織の脱税手段として使われることにもつながる。9.11の事件以後には国際世論の圧力もあり、EU移住者の銀行口座に対する源泉課税の代理徴収を余儀なくされています。

結果的に、税金が安いオフショアに資金が流出していくので、スイスの銀行の最大の敵はタックスヘブンとなるオフショア銀行の模様。

●アメリカのテロ対策

現在、世界の基軸通貨はアメリカドル。よって、あらゆる世界の犯罪組織も取引相手がドルを要求するためドル立てで資金を持っている。アメリカ政府がアメリカドルを管理する金融業者に圧力をかけ、気に食わないテロ国家の資金を凍結させることもできる。

しかし、これはなかなか難しい選択。あまりに自国の都合によってドルを凍結しすぎると、犯罪集団はユーロなどの新たな通過に流れ、すぐに新しい世界の基軸通貨が出来上がってしまうと本書では書かれています。

このアメリカの対テロ戦争における大きな矛盾の項目がすごく面白い。アメリカはドルを支配しているが、他国の通過は支配していない。対テロ戦争で勝利するため犯罪組織の資金をドルから切り離せば、膨大な額のマネーがユーロなどの他国通貨に流れ、ドルの崩壊をもたらすと。

一時期アメリカは、北朝鮮のドル立て海外口座を凍結していましたが、簡単に使える方法ではないわけですな。

●今後、富裕層による税金亡命は増え続ける

経済がグローバル化することによって、マネーも企業もどんどん多国籍化してきている。この時、税金を少しでも安くするために、富裕層の人々や企業はどんどん税金の安いところに流れていく。この影響は、財政破綻や年金危機を通じて個々人の生活にまで及んできています。

個人の「多国籍化」、「無国籍化」こそが、グローバル資本主義の終着点なのだと本書には書かれていますが、税金のあり方そのものを変えていかないとこの流れは止まらないような気がしますな。

脱税できない税として消費税がありますが、所得が低いほど負担が大きくなるという問題もありバランスが難しい。まあ、インターネットなどの普及によって経済のあり方が変わっているのだから、税金のあり方もどんどん変わる必要があるなと感じた1冊でした。


【書評】銃・病原菌・鉄


拷問読書 拷問読書今週のノルマ5,6冊目。累計43、44冊目。「なぜ世界に格差が出来たのか?」という究極の疑問を環境の違いという主題を元に科学的に解明するめちゃくちゃ面白い本。著者は医学部教授で進化生物学などが専門。

歴史学に定量分析という手法を使い、人類の格差が生じた原因を食糧生産環境、気候、移住環境、家畜の存在などあらゆる要因を紐解いてドンドンと解明していきます。歴史の知識が浅い自分でもすっかり引き込まれてしまった。

●豊かな国と貧困国との違いは人種間の優劣ではなかった

この本の主題はこれです。人種差別は公には否定されていますが、ほとんどの西洋人は文明の優劣を人種間の優劣と考えているらしい。本書ではその考えを真っ向から否定し、究極的には環境の違いに説明を求めている。

環境の違いというと簡単だけど、それは病原菌や移住環境、食料など様々な要因からなります。例えば、知識の伝達が困難な場所で生活してきた人々は文明を発達させられなかった。食物栽培に適した土地を持たない人々は狩猟生活が合理的な選択となり、文明を発達させる時間的余裕をもてなかったなどなど。

宇宙船を飛ばすほど科学が発達した国がある一方で、現在も狩猟生活を続ける部族があるのはなぜか。この単純な疑問を、人類誕生のスタートラインから突き詰めていくスケールのでかさに本書の凄さがあります。



●必要は発明の母ではなく、発明が必要の母だった

本書の下巻に書かれている内容で一番印象に残ったところ。一般には何か問題があった時、それを解決するために発明が生まれるとよく言われています。しかし、本書では技術が発明された後にその技術の使われ方が考えられると書かれている。

「実際の発明の多くは、人間の好奇心の産物であって、何か特定のものを作り出そうとして生み出されたわけではない。発明をどのように応用するかは、発明がなされたあとに考え出されている。」

例えば、エジソンの蓄音機は商業的価値がないと当初エジソン自身が言っていた。その後、他の人が録音再生装置として改良したものを作りだした。音楽の録音再生に蓄音機の主要な用途があるとエジソンがしぶしぶ認めたのは発明から20年たってから。

自動車も当初は使用用途が明確ではなく、重くてでかい内熱機関は馬という輸送機関に対抗できるものではなかった。それがのちのち改良され、発明から約20年後に自転車に内熱機関を取り付けオートバイが作られ、最初のトラックができたのは内熱機関の発明から約30年後。

ここを読んでいて思ったのは、必ずしも問題を解決するためにアイデアが生まれるわけではないのだなということ。何か便利なものや面白いアイデアができれば用途を限定せず、違う視点を持って新しい使い方を考え出すのが重要なんだなと妙に納得できたパートです。

●天才の出現は先駆者の力によるもの

発明の話から天才の出現に話が続きます。文明の発達は非凡な天才の出現が大きいのではないかという考えを真っ向から否定していきます。

「たとえばわれわれは、ジェイムズ・ワットはやかんから立ち上る湯気にヒントを得て蒸気機関を発明したと聞かされている。しかし、これは作り話であり、ワットが発明を思いついたのは、トーマス・ニューカメンが発明したニューカメン型蒸気機関を修理していた時である。」

天才の発明はどれも似たりよったりの由来があり、ある人がある人の発明を改良し、またある人がそれを改良していくという歴史があるようです。ようは、パクリが発明の母ということになります。これは音楽界でもいえることだし、あらゆる分野が模倣と改良の歴史によって先進的なものが作りだされてきたと言えますな。

本書では発明のもととなる知識の集約が起こった環境を追求し、どういった要因が発明を促すことになったかを解き明かしていっています。

●多様性の重要性

文明の発達における多様性の重要性というものを歴史的事実を元に説明されています。例えばコロンブスの航海。これはヨーロッパの多様性が生んだものであり、中国はその分野でどうして遅れたかの説明が面白い。

コロンブスは大航海のための資金提供を多数の国の王に頼むことができた。それは、ヨーロッパには多数の国があったからであり、1つの国に断られても他の国に頼むことを可能にした。ところが、当時の中国では国が統一されていて、1人の王に断られるとその時点で可能性は閉ざされてしまった。

ヨーロッパも中国も知識の伝達が可能な土地であり、文明が発達してきた。しかし、ヨーロッパは知識の伝達が可能だが、異なる国々を作りだす山脈などの障壁があった。一方の中国では知識の伝達が可能である環境には恵まれたが、ヨーロッパのように多様な国が生まれるほどの環境的な障害がなく、国が統一されたことによって多様性が生まれなかった。

「このように比較していくと、技術の発達は、地理的な結びつきからプラスの影響とマイナスの影響を受けたことがわかる。その結果、時間的に長い尺度で評価した場合、技術は、地理的な結びつきが強すぎたところでもなく、弱すぎたところでもなく、中程度のところでもっとも進化のスピードが速かったと思われる。」

このヨーロッパと中国の比較は、知識を共有しながらも多様性を維持する大切さがよくわかる内容でした。歴史の中で個人のもたらす影響は世間で思われているほど大きくなく、その個人を作り出した環境の重要性というものが強調されています。

●まとめ

面白い本というのは、まったく新しい視野を提供してくれるものだと最近は思ってきました。その意味でこの本は抜群に面白く、なおかつ歴史の勉強にもなります。もちろん著者の仮説を検証している本なので、本書の内容が正しいという確証はありません。

この「銃・病原菌・鉄」は、何気なく考えていた人種間の生物学的差異というものに対して違う視点を提供してくれる本。個人的には下巻の面白さが半端なかったです。