【書評】超ヤバイ経済学 superfreakonomics


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ヤバイ経済学の続編を洋書で読んでみた。訳書はまだ出てないので邦題を勝手に予想。(邦題が出たので、もっとヤバイ経済学から修正)

この本は、奇才の経済学者が身近な事柄を経済学的な視点から研究していく内容。
前作も最高に面白かったけど、今作のほうが面白い。アメリカのアマゾンの評価では「前作ほどのインパクトがない」とかいう評価もあるけれど、奴らはまったくもってわかっておりません。

音楽アルバムでも、たいていデビュー作が一番よいということはあるけれど、この本に限っては続編でもパワーが落ちてない。単純に「人間はインセンティブで動く」という同じテーマを扱っているので、始めて読んだ時ほどの感動が薄れてしまっているだけじゃないかと。そうに違いない。今作も間違いなく面白い。

前作の「ヤバイ経済学」では、「相撲で八百長はあるか?」とか「米国のある州における犯罪率低下は中絶合法化が一番効果的だった」とか、面白い内容を数字を使って解き明かしていく内容でした。著者たちはどうせ売れないだろうと思って書いたら、予想外に全世界で馬鹿売れしてびっくりしたとか。この本の影響でやたらとインセンティブを発言の中で連発しちゃった恥ずかしい過去を持つ人も、僕以外にいるはずです。

今作でも章ごとに読んでて面白いトピックを扱っている。中でも面白かった部分を絞ると以下の3つになります。

1 女が男に比べて平均賃金が低くなる本当の理由
2 温暖化を地球工学で効果的に、安く解決する方法
3 飲酒運転と飲酒して歩いて帰るのは後者のほうが死亡率が高い

1では、現代において男女差別よりも、女性にとって子供が重要だという部分のほうが大きく影響しているという話を数字を使って分析していく。

2では、地球温暖化のために重要だと思われている数々の事柄の誤解。そもそも地球の気温変化に人類の影響はあるのかなどから始まる。ここらへんは珍しい言説ではないかも。面白いのが人工的に大気中にスモッグみたいなものを発生させて、若干の大気汚染と引き替えに一気に地球を冷やす方法など。

3では、飲酒した後に車を運転した場合と歩いて帰った場合、後者のほうが死亡の危険性が高いという驚きの数字を出してくる。チャイルドシートが逆に死亡率を高めるリスクなど、常識をぐらぐらと揺さぶってくる部分。個人的に一番面白かった。

前作でも今作でも、経済学という一見とっつきにくい学問を「わかりやすく」「面白く」「深く」という視点で紹介していく著者たちの姿勢は最高です。学者だったらもう少し遠慮するんだろうけど、とにかくセンセーショナルな書き方をしようという姿勢がいい。あまりやり過ぎると売るためのポーズに見えるかもしれないけど、経済学なんて元々一般ウケしない分野だからこれぐらいやったらちょうどいいと思います。

科学、数学、経済学、哲学とか、なかなかおもしろさを伝えにくい分野でこういう本がどんどん出てくると学校の先生は楽なんじゃないかと。


【書評】コモンズ


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とりあえず今年読んだ中でダントツによかった。本書はインターネット上での著作権のあり方について、サイバー法の第一人者である法律家が書いた本。人を殴れるぐらい分厚いので躊躇してしまうけど、著作権に興味があれば絶対おもしろい。

【本の概要】

著作権というものがなければ、誰もが簡単に盗作しほうだいになる。そうなると、人々が新しいものを作る動機がなくなってしまう。音楽家は新しい曲を作るインセンティブを失うし、企業はモノを生産してもお金を稼げない。だから、著作権は大事。

と、こう考えるのは簡単なのですが、あまりにも著作権を保護しすぎると新しいイノベーションが起こらなくなる。例えば、Jazzは元々いろいろな曲のフレーズを即興で組み合わせて発展したものだし、ウォークマンのダビングが違法とされると今日のipodも生まれなかったかもしれない。

行き過ぎた著作権保護はその産業の発展を阻害する。そもそも完全にオリジナルなアイデアなど存在しない。新しいアイデアは既存のアイデアを参考にして発展させたものばかり。では、どこまでが合法でどこまでが違法にすればよいのかっていう永遠のジレンマがあります。

このへんは、市場原理に任せる部分と、政府が介入する部分の線引きをどうするかで専門家の意見が分かれる経済学に近いところがある。この本の著者は、インターネットの世界において、産業の発展を著しく阻害するほどの行き過ぎた所有権保護が行われていると指摘しています。

【思ったこと】

リバタニアンよりの考えを持つ自分としては、とにかく著作権をしばる規制を政府が段階的にゆるめてみて、どういった収益方法が生み出されていくかをどんどん実験するべきじゃないかと思うわけです。

と思ったけど、その前に、過剰な著作権保護がイノベーションを阻害して、結果的にその産業そのものを衰退させてしまう要因となってしまうという考えがもっと広まらないといけない。この考えを理解しつつ、バランスを取りながら維持される著作権なら価値がありそう。というわけで、義務教育では著作権とイノベーションの関係について分かりやすく教えるといいかもしれない!

音楽業界もCDの売上げがガタ落ちになってるけど、itunesの売上げは伸びている。違法ダウンロードで手に入る音楽だとしても、お金があって時間に余裕がない人は手軽なitunesでポチッと音楽を購入しちゃう。

「価値があるものなら人間はお金を出すんだよ!」っていう人もいるかもしれないけど、ここでお金を出す動機になってるのは間違いなく利便性だと思うわけです。もし、ウイルスの危険もなく、すぐにタダでipodに入れる方法があればそっちを選ぶ人が多いのは間違いない。単純に、手軽に、素早く、安心の質が手に入るのでitunesでポチッとする。

こうなると思ったのが、利便性と時間に対しての価値がどんどん高まりそうってことです。とにかく、いくら便利になっても一日に24時間しかないのは変えようがない。そうなると、いかに素早く、簡単に商品が購入できるかとか、情報を手に入れられるが重要になってきます。それと同時に、複製できないモノにも価値が高まる。アーティストのLIVEとか、学者の講演会とか。

この前読んだ「フリー」という本は、ネットで本の内容が全部無料で読むことができる。時間が無い人のための要約版は有料。このへんは要約版もデジタル形式なので、最終的には無料に近づいてしまう複製可能なモノだけど。

【講義ノートの著作権】

こういうことを考えていると、大学の授業のノートの貸し借りにも考えが及んでいきます。

授業に頑張って出てノートを取り、それを友達に貸すと、貸した人の評判は高まりますが、平均点は高まり、相対評価の場合は損をすると貸した人は考える。これはイカンと思うわけです。もっと、生徒同士が助け合うことが全員のメリットになるようなシステムにならないと。

こうなると、自分が教授なら、できるだけ生徒同士で助け合うことが生徒にとってのメリットになるようなシステムを考えたくなる。理想としては、講義に出なくてもよいし、ノートや教科書で理解できるのならそれで問題ない。最後のテストで不正無くよい点数が取れればその生徒にとって一番よいのだから、ノートを貸し借りして多くの生徒が内容を理解できたらそれはそれでOKなわけです。

話が長くなり、脱線しまくりなため、このへんで終了。この話は別のところに書いてみようかと思いまする。


【雑誌】クーリエジャポンがおもしろすぎ


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友達とか、成毛ブログで触れられてから気になっていた雑誌クーリエジャポン。今月の「次の、ITライフ」というタイトルに誘われ、ついついローソンで買ってしまったのが数日前。その日にこの雑誌の魅力に取り付かれ、隅から隅まで数日で読みあさってしまいました。この雑誌はおもしろすぎ。

まず、雑誌の系統を紹介すると、世界中の政治、経済、ビジネス、科学、などあらゆる時事ネタを扱うもので、タイムズとかニューズウィークに近いものがある。実はこの雑誌じたい、タイムズ、ワシントンポスト、エコノミストなど世界中の一流雑誌のおもしろい記事を集めたオールスター雑誌なわけです。

アルジャジーラとか中国、インドなどの主要雑誌も入っている。いいとこどりなわけで、おもしろくないわけがない。なんか去年はピューリッツアー賞を受賞したとか雑誌の一部分に書いてた気が。

さらに、この雑誌は680円だけど、iphone専用でも販売しており、こちらは350円ほどで購入できる。iphone専用アプリは結構いい出来。全体像を眺めてから一部分の記事をズームアップして、次の文章に流れるといった読み方ができる。雑誌専用アプリとしては最先端な気がする。やっぱり紙の視認性にはかなわないけれど、選択肢が増えるのはいいことだし、iphoneでも読めるようにするとか時代の最先端を行っているのがいい感じであります。

世界中のメディアの視点を眺めるという意味で、今後は毎月チェックしようかと思いまする。


【書評】ピクサー、任天堂、ユニクロの最新本比較


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「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたか」

「任天堂 “驚き”を生む方程式」

「成功は一日で捨て去れ」(ユニクロ)

上記の三冊を最近読みました。ピクサー本は単純にピクサーファンだから。任天堂の本はたまたま安く手に入ったから。ユニクロの本は池田信夫ブログで評価されていたのがきっかけ。

結論から言うと、ピクサー>>>>>>ユニクロ>>>任天堂 の順番で面白かった。単純にピクサーファンなので多分に偏見がまじってます。本の薄さではピクサー本がダントツに薄い。でも内容は濃い。

【ピクサー本】

天才クリエイター達がいかに働きやすい職場を提供するか、どうやってヒット作をハズレなく連発していくかを解き明かす本。本の著者である社長もクリエイターであり、映画監督でもある人です。

一つは監督がとにかく好きなものを作れる環境を、これだけ大きな舞台で実現しているところ。ハリウッド映画では、「最新のCGI技術を使い、流行の環境問題をからめ、売れてる俳優を使うからそれにぴったりの脚本を書いてね」といった形で予算が出ることが今でも珍しいことではないみたいです。

さらに、一応マーケティング的にも売れやすい方法をとっているため、そこそこ制作費回収できるパターンでもあるらしい。しかし、ピクサーでは本当に面白い作品を作るため、監督が本当に作りたいもの、興味のあるものを第一優先にするとか。オモチャが夜中に動き出すと面白い、お化けの世界を想像したら楽しいなどの純粋な監督の子供時代の夢を映像化されたのがピクサーのヒット作の数々らしい。

また、アメリカによくある流動的な雇用体系ではなく、日本的な終身雇用制に近い会社形態を取っているのが一番印象に残った。トップとクリエイター達の距離をできるだけ近い職場環境、監督に言いたいことが直接いえる場を作り出す工夫をしながらも、優秀なクリエイターを家族にできるだけ長く囲っておく経営方針。もちろんお金の面もあり、一番の原動力は楽しい仕事という面がそういうことを可能にしているんだと思う。

終身雇用制を可能にしてる秘訣は深く書かれていなかったけど、単純にクリエイティブな仕事だから高給も払えるし、オモシロい仕事だからこそ離職率も低いという単純な理屈だと思う。なので、日本的大企業で同じようにやっても、こんな理想的な終身雇用制度は実現できなさそう。ひたすら一般的な業務を楽しくできる工夫を徹底的に研究するぐらいかも。

【成功は一日で捨てされ】

去年、日本で一番稼いだユニクロの社長の本。即断即決、スピード感がもっとも重要であると書いている。とにかく素早く失敗して進化を早めるという経営方針。ユニクロの農業進出、イギリスへの展開など失敗した事業もいろいろと書いてあり、経営本にありがちな成功事例ばかりではない部分は結構いい。

ちなみに、大学ではユニクロでバイトしている友達が結構いるのですが、ひたすらきついらしい。覚えることは他のバイトに比べて10倍ぐらいあり、厳しい店舗は年末もなかなか休ませてもらえなかったりと。一番負担なのが制服はユニクロの服を着るという部分。一応割り引きで買えるけど、制服を自費で購入するというこの制度は考えてみるとあくどい。さらに、この制服は毎回同じ服装ではいけないカジュアル服。こういった負の部分はもちろんこの本では書いていない。

逆に、今乗っているユニクロのマーケティング展開など、社内資料を現場で観覧できるのは楽しいとか。季節を狙ったフリースやら、新ブランドやらの展開戦略などの最新情報がオモシロいらしいです。

【任天堂本】

WiiやDSなどで復活した山内社長の事業戦略が詳しく書かれている。ゲームは生活必需品ではないため、一瞬でもユーザーに退屈感をもたれてはいけない。そういったユーザーに不便さを感じさせないノウハウが任天堂には蓄積されていて、業務リモコンとかに進出しても違いが出せるのだとか。

ファンには間違いなくおもしろい本なのだけども、どうも経営本にありがちな成功事例をならべる感が強く、個人的にはもひとつだった。

この3冊の中では、ピクサーの本だけが普通の会社本とは違いかなりオススメ。クリエイター系の会社でしかできない方針かもしれないけど、これ系の本の中では間違いなく異色。ユニクロと任天堂の本は調子のよい会社のよくある経営本といった感じ。勉強になる点はもちろんあるけど、普通の経営本でもあり。


2009年のオススメ本ランキング


2009年に読んだ本の中から、イチオシ本をランキングしてみた。
一度データが飛んだため、書評が消えたものもあるという悲しい状態。

【かための本】

拷問読書【1位】坂之上の雲【小説】
日露戦争に勝利するという奇跡を描いた司馬遼太郎の代表作。国民全体が極貧に耐え、学問で出世して国を守るぞというエネルギーが凄い。

拷問読書【2位】ブラックスワン【経済】

今までの考え方をひっくり返させられる凄い本。ここ数年で最も影響受けた本かもしれない。世の中はあまりに複雑なため、未来を予想できると勘違いするなと力説してます。

拷問読書【3位】銃・病原菌・鉄【科学】

世界の貧富の差はなぜ生まれたか?人種間の知能の違いではなく、生まれた土地が決定的な要素となったという仮説を徹底的な歴史の検証によって証明していく本。

拷問読書【4位】フリー【経済】

「タダほど高いものはない」の通説は現代社会において通用しない。今後さらに普及が予想される無料ビジネス、経済を検証している。

拷問読書【5位】選挙のパラドクス【政治】

「多数決は平等である」という常識が根本から覆されます。投票制度の裏を突いた選挙の紹介や、真に優れた投票制度とは何なのかを検証する本。

拷問読書【6位】ライアーズ・ポーカー【金融】

ウォール街の一流投資銀行で、一流の成績を収めた著者が内情を赤裸々に暴露。

年収数千万を稼ぐブローカー達の世界が垣間見れます。

拷問読書【7位】迷惑な進化【科学】

伝染病など、あらゆる病気は合理的な進化の過程の産物だった。

人類を脅かす病気が、実は人類自ら選択した結果だったという専門家が書いた本。

拷問読書【8位】羽生善治・決断力【思考】

日々進化する将棋業界で生き残るため、いかに学習し、何を捨てるか。

相手の弱点をひたすら突く戦術や、不利な状態でのかく乱など、内容がめちゃくちゃ濃い。

拷問読書【9位】誰のためのデザイン?【科学】

使いやすいデザインとはなにか?を考え、周りの道具への視点が変わる本。

読み終わった後は、身の回りの道具に始まり、自分の言動や動さまで意識してしまう。

拷問読書【10位】アニマルスピリット【経済】

人間は非合理な行動を取るからこそ、政府が市場原理に介入するべきだという、今までの経済書より一歩進んだ本。行動経済学の理論をふまえて資本主義を語っているのが新しい。

【次点】

正しく決める力【思考】
イノベーションのジレンマ【経済】
30歳からの成長戦略【思考】
ダメな議論【思考】
ロングテール【経済】
希望を捨てる勇気【経済】
天才数学者はこう賭ける【科学】
飛ぶが如く【小説】
さらば財務省!【金融】
なぜビジネス書は間違うのか【経営】
数学で犯罪を解決する【科学】
その数学が戦略を決める【科学】
よその子【教育】
ビルゲイツの面接試験【思考】
貧乏はお金持ち【金融】
マネーロンダリング入門【金融】

【ゆるめの本】

拷問読書【1位】快人エジソン【伝記】

エジソンがどれだけ変人だったか分かる本。新婚初夜に嫁のことを忘れて研究所で一晩過ごしてしまうのは当たり前。ベンチャー企業家エジソンの変態っぷりが堪能でき、夢中で読んでしまう。

拷問読書【2位】大人げない大人になれ【エッセイ】

その瞬間にやりたいことだけをやると嫌でも集中するなど、面白いアイデアが詰まっている。こういう大人になると人生楽しいだろうなと、読んでて楽しくなってくる本。

拷問読書【3位】奇跡のリンゴ【農業】

無農薬でリンゴを栽培するという不可能に挑んだ記録。家族を極貧生活においやり、周囲からは馬鹿にされながらも止めることができない姿は狂気そのもの。

拷問読書【4位】他人と深く関わらずに生きるには【エッセイ】

自由原理主義者でもある著者の人生哲学書。虫取りが好きな著者は、自分が行きたいから虫取りに行き、子供は親と遊んでもらうために虫取りについて行く。

拷問読書【5位】ご冗談でしょう、ファインマンさん【伝記】

普段の生活で遭遇する、ありとあらゆる出来事に興味をいだくファインマン教授。なんにでも興味を抱き、その瞬間を楽しみ尽くすおもしろさを教えてくれる本。

拷問読書【6位】走ることについて語るときに僕の語ること【エッセイ】

マラソンが趣味の小説家、村上春樹のエッセイ。小説家になるまでの経緯、一日の過ごし方など、超早寝早起きである著者の変わった生活様式がおもしろい。

拷問読書【7位】LOVE理論【恋愛】[書評なし]

2009年もっとも笑えた本。恋愛本200冊以上を読んだ恋愛体育教師「水野愛也」先生の笑えてためになる恋愛理論が楽しめる。ちなみに、著者は「夢をかなえるゾウ」、「ウケル技術」「温厚な上司の怒らせ方」の作者。

拷問読書【8位】4‐2‐3‐1―サッカーを戦術から理解する【サッカー】[書評なし]

サッカーのフォーメーション、戦術を監督視点で徹底的に解説する本。この本を読むとサッカー観戦がいっそう楽しくなり、視野角の狭いTV観戦に不満が出てきてしまう。

拷問読書【9位】サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領【政治】

問題発言で有名なサルコジの腹黒さが堪能できる本。モデルと3回も再婚し、贅肉が目立つ写真を掲載した新聞社に圧力をかけて修正させるなど、おもしろエピソードが満載。

拷問読書【10位】怠惰を手に入れる方法【ナマケモノ】[書評なし]

自分を変えようと努力しても無理だった作者がたどり着いた怠惰生活。楽なパジャマ生活、近くにスナック、できるだけカロリーを消費せず動く素晴らしい怠惰生活を紹介するエンターテイメント。著者はピューリッツァー賞も受賞した劇作家。


【書評】ハーバード流交渉術


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大学で最も厳しいゼミの課題図書。このゼミの教授はコンサル出身の経済学専門で、授業も鬼のように厳しいけれど質も高いと評判であります。半期の授業だけどテストが5回もまんべんなくあって、学期末の追い込みが通用せず、常に授業を真剣に取り組まないとついていけないらしい。頭のいい授業の進め方だなあと関心しながらも、単位取るのきつそうだなあと思ってました。

自分のゼミとは関係ないけれど、このゼミの課題図書は厳選されてそうなので大阪行きの新幹線の中で読んでみた。だいたい3時間ぐらいで読める。

ただ、この本はひたすら論理的な交渉術を書いているので、実際にこの通りにしても「なんだこいつ、感じ悪い奴だな」と思われて、感情で動く相手に対して交渉決裂!となる可能性も高そうであります。

大手コンサル会社の日本支社社長が書いた「30才からの成長戦略」という本に書いてたことで、「論理思考の切れ味は抜群だけど、それだけでは説得できない。次に感情に訴える方法を極めたがこれだけでも足りない。最後は相手のためになりたいという気持ちを持つことにたどり着いた」と書いてた。この本はタイトルがアレですが、コンサルタントの悩みや苦悩が素直に書かれていて面白かった。

とはいっても、論理的な交渉方法というものは基礎知識として絶対に必要だと思うので、そういう意味でこの本は一度読むと人生全般に役立つかと。別にビジネスマンではなくても、人間関係は交渉の連続であったりするわけなので。

このハーバード流交渉術は相手に知られてはいけないものではなく、むしろ相手もこの本を読んでいたほうが交渉がスムーズにいくと書いてある。なぜかというと、お互いにとって有利な着地点を一緒に探すといった形式を取るかららしい。

内容はひたすら論理的な方式にそった交渉方法。相手を攻撃せず問題点を指摘するとか、議論に違いが出たら客観的事実に基づいて交渉を進めるとか、こういった方法を知っている人にはなじみのある内容かもしれません。

ただ、ハーバード大学の交渉学研究所の人が書いたというブランド力なのか、交渉系の本ではかなり上質な本な気がします。他の本をあまり読んだことないのでわからないけど。。おもしろいのは、交渉術の例示でイスラエルとアメリカなど実際の国際関係の交渉のまつわる例がふんだんに取り入れられているところ。

相手に協力をするとなにかしらの恩恵を将来に返してもらうことが期待されるのが普通。だけど、アメリカがイスラエルに援助すればするほどイスラエルの要求は高まるというジレンマなどが紹介されてておもしろい。

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[書評】フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略


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最近読んだビジネス本ではダントツに面白かった。ロングテールもかなりよかったし、クリス・アンダーソンの本はいい!ビジネス書にありがちな退屈感が一切ない。経済学とネット文化という自分好みの領域を満たしてくれるのも大きい。

本の内容は、インターネットの普及によって大きく発展した無料ビジネスモデルの徹底的な研究内容。無料の景品から購買行動を誘導する昔ながらの無料を使ったビジネスモデルも詳しく紐解き、ネットの登場によって従来の無料ビジネスモデルが劇的に変換されたことを書いています。

「フリーランチはない!」というのが経済学の常識だったわけですが、ネットの登場によってこの認識は大きく変わる必要があるそうです。現在のネット上における無料ビジネスモデルでは、「完全なフリーランチはもちろんないが、その限界費用は気にならないほど安い!」とのこと。

つまり、今まで無料の製品は有料製品に比べて質が落ちたり、アフターサービスが悪かったり、めんどくさい広告やアンケートなどが付いてきた。しかし、グーグルのGMAILなどに代表される無料ネットサービスは質がいい。むしろ、有料メールサービスより遙かによい。これは、ネットという限界費用を極限まで低くした状態で大量のユーザーにサービスを提供できる状況だからこそできるビジネスモデルとなるらしい。

経済学の観点からすると、サービスの限界費用はいずれ下がっていき、0に近づいていくらしいけど、無料ビジネスモデルは最初からサービス価格が無料となる。こう考えると、経済学の理論も時代や状況の変化によってどんどん変化しないといけないのがよくわかってくる。

ちなみに、経済学の主流派は時代によってどんどん変わっていき、いったいどの理論が正しいのか誰にも分からない。大学の経済史の先生も、「昔はマルクス主義が当たり前だった。教授たちもおおっぴらに間違いを認めないけど、こっそり主張を変えるんだよー」と言ってた。

今の主流派もそのうち否定されるのだったらむなしくなるわ!と思ったりもしたけれど、ネットの登場だったり投資銀行のエージェンシー問題みたいに、未来の状況はどんどん変わるからそれに応じて理論も変化するのは当然なのだなと納得。

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[書評】大作家“ろくでなし”列伝


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息抜きの読書として、気軽に読めて面白い。世間ですごいと言われている人は極端に変な人が多いのですが、教科書に出てくるような大作家の変人ぶりを紹介する本。ほとんどの登場人物は、変人というよりも人格破綻者扱いされていて楽しい。

ひたすらギャンブル中毒のドストエフスキーとか、女に対してひどい扱いをする川端康成のエピソードなど、有名作家たちの最低っぷりを楽しめる。こういうのを読んでいると、なにかを成し遂げた人には、周りに迷惑かけまくっても自分の好きなことを選択するという極端な集中力を持つ人が多いなあとあらためて思います。

こういうエピソードでは、新婚初夜に結婚したのをすっかり忘れて、研究室で研究に夢中になってしまったエジソンが一番印象に残っています。スティーブジョブスも本気でヤバすぎる性格しているし。

とはいえ、ここまで最低人間にならなくても一義を成し遂げた人はたくさんいるので、これに影響されてますますわがままにならないようにしようと気をつけるしだいであります。

ちなみに、この本の序盤の文章がかなりいい。「まずはじめに言っておくが、圧倒的な才能の差は間違いなく存在する。努力ではとうてい埋められない壁というものは文学の世界でこそ顕著に表れる」といったようなことを、しょっぱなから断言してて気持ちよい。さらにその後、文豪たちの変態っぷりを見せつけられると、これはかないませんわとなるわけです。

以下の2冊は、エジソンやジョブスがいかに人格破綻者かということがよくわかる、非常にさわやかな本です。かなり面白い。

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【書評】100万回生きたねこ


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正直、「絵本好きなんですよ僕」とか言う人がいると、大人になって絵本好きアピールとはなにか違う狙いがあるに違いないと勘ぐっていたわけです。間違っていました。いい絵本は大人も子供も楽しめるし、むしろ大人になって読み返して初めてよさがわかるんだなとしみじみ反省であります。

この「100万回生きたねこ」は何回死んでも死なないネコの話。王様のネコになったり、ドロボウのネコになったりと、いろいろな人に飼われては死んでまた生き返る。何回も生き返るからなのか、まったく飼い主にも興味もなく(むしろ嫌い)、とにかく自分だけが好きなネコです。

そんな無敵状態で世の中に冷めた目線を持つネコも、初めて好きになる白いネコができる。自分だけが大好きだった不死身のネコも、初めて自分の子供が好きになり、白いネコが死んだときは初めて大泣きする。その後、不死身のネコはどうするか・・。といった話。

命は有限であるからこそ人生は面白いとか、自分大好き人間が初めて他人を本気で好きになる過程とか、いろいろな要素がちりばめられていて、大人になってからのほうが100万倍楽しめる。特に自分の場合は他の人よりもはるかに自分大好き人間で、一人でも結構楽しく生きていけるんじゃないかと常々思っている人格破綻者なので、ぐっとくるものがありました。

そういえば、実家でも「ハナちゃん」というネコを飼っていたけれど、いつも冷めた目つきで見られていた記憶がある。もしかしたらハナちゃんも不死身だったのかもしれない。

大人も楽しめるアニメといえば、ピクサーの映画が大好きなんですが、「カールおじさんの空飛ぶ家」を今度見に行こうと思う。


【書評】ダメな議論


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最近読んだ本の中では一番勉強になった。ちまたに溢れているダメな議論をたくさん提示し、そのどこがダメかをひたすら指摘する本。ただし、よい議論のお手本はない。ひたすらダメな例を挙げてそれを避けるようにすれば、自然と議論の質が上がるだろうというスタンス。

例えば、著者が指摘するダメな議論の一つに反証不可能な言説というのがあります。「ゆとり教育」とか「生きる力」とか、気持ちよく聞こえる言葉を使って自説を主張していくと、立派なことを言っているようには聞こえる。でも、「生きる力を育てる教育が必要である」とか言われても、言葉の定義がはっきりしていないため、議論にならないからっぽの言説となる。

この本を読むと、間違いなく普段読む記事やえらい人たちの主張の見方が変わります。なんでも批判的に読んだり聞いたりして、本当に言われていることが正しいのかを自分の頭で考えることが大切だとはよく言われるけれど、本書ではそうするための具体的なアプローチが分かりやすく書かれています。

とまあ、この本の書いていることはもっともなんですが、世の中にはどうしても定義づけができない、もしくはしないほうがよいようなこともあったりする。例えば、GOOGLEがアプリケーションソフトを作るときに大切にしている「それってCOOLだろうか?」っていう考え方も、きちんとCOOLとはどういうものかという定義づけがされてしまえば、突然つまらないルールになりそう。

とはいいつつも、溢れまくっている情報に対して、簡単に納得しないための考え方を学べるよい本でした。これと似ている本で、「社会調査のウソ」という本も最近読んだ。こっちは、人間がだまされやすい統計データという数字に騙されないようにする本。ダメな議論とセットで読むとよい感じ。

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